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見える僕と見えない彼女 心霊奇譚  作者: こばん
第八話

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8-4 大橋邸にて

僕と穂積さんが冬弥が呼ぶ方に行った時には、冬弥はもう見つけた建物に入り、どこからか持ってきたホウキで埃を掃いていた。


「ねぇ、冬弥」


「うん?」


「ここって、やけに立派なお家じゃない?」


僕がそう言うと、冬弥は満足したのかホウキを置いてニカッと笑った。


「そうだろ?一晩凌ぐには十分だと思わないか?」


確かに、他の家よりも造りも頑丈そうにしているし、実際まだまだしっかりしていて、雨漏りなどの跡もない。


緊急で避難させてもらうのには、とてもいい家だとは思う。

でも、よく思い出して欲しい冬弥が話した内容を……。村の端と端にある名家がお互いを呪いだして村人まで巻き添えにして滅んだ。と、そう言っていたはずだ。


この家は大きな門構えと、かつては立派だっただろう塀に囲まれている。そして家の裏には、僕たちが通ってきたような原生林が広がっている。


……それは、この家が村の端にあると言えるのではないだろうか?


僕がそう言うと、冬弥はだからどうしたと言わんばかりに言った。


「どうせならその方がいいだろ?」


……やっぱり一度きつく怒った方がいいのかもしれない。


ただ、この家は立派で頑丈なのは確かだ。言っては悪いかもしれないけど、比べてしまうと周りの一般の人たちの家は、かなりチャチな造りをしている。


ウオオオォォォッ…………


どこからか犬の遠吠えのような声が聞こえてくる。お化けは怖いけど、野生動物も怖い……


僕は何も言わずに、自分の寝る場所を整えるのだった。


◆◆ ◆◆


それぞれが寝場所を整えて、腰を落ち着ける頃にはすっかり陽は落ちて廃村は薄闇に包まれ始めていた。


「はぁ……まさかこんな所に泊まることになるとは……。お腹すいたし、飲み物だって持ってきてないよ?」


少し落ち着けはやっぱりその辺が気になってくる。そして一度気になったら、自分の役目を思い出したようにお腹も食べ物を要求して鳴き出す。


「俺だってそうだよ……。そこは悪かったよ」


冬弥もお腹を押さえながら、珍しく素直に謝ってくる。すると、穂積さんがススっと寄ってきて冬弥に微笑みかける。


「素直に謝れるのは良いことです。冬弥さんは熱中すると周りが見えなくなりがちですから、気をつけないといけませんね」


諭されるように言われ、冬弥も「わかってるよ……」などと言いながらもシュンとしている。


そんな冬弥を見て、ニコッと微笑んだ穂積さんは、ゴソゴソと自分の荷物を探り出して、何かを取り出して僕と冬弥に差し出した。


それはチョコのエナジーバーと小さいペットボトルのお茶だった。


「こういうこともあろうかと用意しておりました。どうぞ」


「わっ!すごい穂積さん、準備いい!」


喜んでそれを受け取る僕の隣で、一旦伸ばした手を冬弥は途中で止めた。


「それって……穂積さんの分はあるの?」


「あっ……」


冬弥がそう言って僕も気づいた。穂積さんが取り出したのはこの二個だけだ。これだけしかないのかもしれない。


その辺りをまったく考えずに受け取った僕は一旦戻そうとしたが、それを穂積さんが押し留めた。


「お気遣いありがとうございます。ご心配なく」


そう言うと穂積さんは自分のバッグを開けて見せてくれた。

そこにはもらったエナジーバーが、箱で入っていた。


「こんなの準備してたなんて……」


冬弥も知らないことだったのか、唖然として穂積さんを見つめる。

穂積さんは僕たちの視線を受けて、ニッコリと笑うと言った。


「ええ。メイドのたしなみです。足りなければ言ってください。明日の昼までもてば十分でしょうし」


そう言って、もう一本ずつ僕たちに握らせた。


「冬弥、穂積さんのお給料上げてやらないと」


「そうだな。高橋と相談するわ」


そう言いあう僕たちを見て、穂積さんは楽しそうに笑った。


なんと穂積さんの荷物からは、さらにタオルケットと予備のペンライトまで出てきた。

驚く僕たちに穂積さんは、平然として言う。


「冬弥さんのお供をすると決まった時点で、こうなることは予想の範囲内ですので……。準備して主人が必要とする時にサッと出すのがメイドのたしなみです」


少し、メイドのたしなみというものについて議論したい気がしたけど、助かったのは事実だ。


僕たちは穂積さんにお礼を言ってありがたくいただいた。


少しでもお腹が膨れると、不思議なことに落ちついてくるもので、そうなると冬弥はじっとしていられない。


「なぁ逢介、ちょっとこの屋敷を探検してみようぜ!」


そんなことを言い出した。ただ、もうここまで来ているし、正直なところ暇だった僕は、付き合うことにした。


僕たちがいたところは、玄関から入ったすぐのお座敷だ。そこから広い廊下が奥に続いている。かつては立派なお屋敷だったのだろうが、誰も住まなくなった家は傷むのが早い。

壁には亀裂が走り、雨漏りでもしているのか所々床も腐ってしまっている。


「結構な金持ちだったみたいだな」


冬弥があちこちをライトで照らしながらそう呟いた。


「やっぱりそういうのわかるの?」


僕が見ても建材や調度品の善し悪しはよくわからないけど、冬弥は目が肥えているんだろうか。

僕がそう聞くと、冬弥は両手を広げて言った。


「うんにゃ、詳しいってわけじゃない。なんとなく金持ちっぽい、みたいな?」


みたいな?じゃないよ。危うく感心するところだったよ、まったく……。


くだらないことを言いながら奥へと進む。そこには大きなテーブルを置いてあるお座敷があり、ガラスの建具を境目に台所になっている。

テーブルの上には茶碗や皿が並んでいて、上座の位置にポツンと置いてある座椅子といい、やけに生活感を感じさせる。


「なんか、きちんと荷物をまとめて出て行ったっていうより、急にいなくなったみたいに見えないか?」


冬弥が台所の方を照らして見ながら呟いた。僕も似たようなことを感じていたので、頷きながら返事をした。


「うん、生活感が残ってるもんね。……その噂の呪いとかで急いで出ていかないと行けなくなったのかな?」


そう言うと、冬弥が振り返って言った。


「もしくは家にいる人が全員バタバタと……」


苦しんで倒れる様子を演じながら冬弥はそう言った。それがやけにリアルに感じて、背中がゾクっとする。


「ねぇ、冬弥の情報は確かなの?人を呪うっていってもさぁ。テレビドラマみたいに、何も原因がないのにいきなり苦しみだして死んじゃうとか、さすがにありえないでしょ」


「いや、そうでもないみたいだぜ?ほら、これ見ろよ」


お座敷にある棚を探っていた冬弥は、何か見つけたのか僕に見せてきた。それは誰かが書いた手紙らしき便箋だった。

そこには几帳面そうな文字で、大橋喜久一という人が倒れたということが書いてあり、倒れた時の状況やその時の呼吸や脈拍などの様子が記されてあった。


「なるほど都会の設備が整ってる病院に連れて行こうとしてたのか。それを書いたのは、多分この村にいる医者かそういう立場の人なんだろうな」


僕が便箋に書いてあることを読んでいると、冬弥はさらに封筒も見つけたみたいで、見せてくる。


「宛名は東京だ。聞いたことない病院だけど、宛先の人が教授って書いてあるから、詳しい人に助けを求めてたんだ」


当時は、すぐに呪いであるとは考えなかったらしく、急に倒れてしまった喜久一さんの容体を伝えて、意見を聞いていたようだ。


「おっ!このハガキ……そのなんとか教授からじゃないか?」


そう言って、冬弥が引っ張り出したハガキには、容体を伝えて助けを求めた手紙の返事なのか、簡素な返事が書かれている。


「ははっ、そんな症例は聞いたことなし。だってよ?もっと詳しく調べてからもう一度連絡しろって書いてある。これを見てもしかしたら呪いかもって考えだしたのかもな?」


冬弥が笑いながら見せてくるハガキを見ていると、急に空気が流れた気がした。


「……っ!」


冬弥の持っているペンライトの明かりが反射している窓に、僕たちが写っている。


僕たちが立っている後ろの廊下を誰かが歩いて行くのが、見えたような気がした……。

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