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見える僕と見えない彼女 心霊奇譚  作者: こばん
第八話

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8-3 隠九毘村

冬弥は笑いをこらえながら話を続けようとしてた。


「ええと、どこまで話したっけ……」


そう言って、自分のスマホを見ている。きっとそこにはいろんな情報が入っているんだろう。……うんざりする。


「西と東に名家があって、もめごとはエスカレートしたあたりですよ」


実に冷静に穂積さんが助け舟を出した。その穂積さんは草むらをかき分けて何かを眺めている。


「お、そうだそうだ。まあそう言う感じでお互いに憎み合いだした二つの名家は、お互いに呪いをかけ出したんだ。その呪いはお互いの家を狙ってかけたものだったんだけど、次第に周りにも影響が出だしたのか、不審な死が相次いで最後に残ったどっちかの当主は気が狂って病院送り。廃村になってしまったって話だ」


そこまで話すとポケットにスマホをしまう。僕は事故に見せかけてあのスマホを壊せないかなと半ば本気で考えてた。


「まぁここがその廃村って確証はないんだけどさ!雰囲気は楽しめるだろ!」


腕を組んで頷きながら冬弥はそう言うが、その雰囲気を楽しめるのは君だけであって僕は含まれてないからね!


ところが、爆弾を放ってくるのは冬弥だけではなかった。


「いえ、どうやらここが目指していた廃村のようですよ?」


ポツリと呟かれた穂積さんの言葉に、僕も冬弥も動きを止める。


「え!?」


そしてきれいにハモった。


「冬弥さん。その廃村の名はなんと言いました?」


静かな口調でそう言われ、冬弥は急いでポケットからスマホを出して確かめる。


「ああ、そうだ。いんくび村だ!名前の文字はは年代とかで色々あったけど、呼び方はそうだった」


冬弥がそう言うと穂積さんは頷いて、足元を指した。


恐る恐る覗き込むと、そこには道祖神らしき二体の像があり、その土台の石にこう彫ってあった。


「隠九毘村」と。


「なんか不吉な響きの名前だなぁ……。なんでそんな名前つけるかな……」


そう言うと、穂積さんが口を開いた。


「かつては識字率も今ほど高くなく、文字より読みの音で覚える人が多かったそうです。そして音で覚えるのならばその村や場所の特徴で表すのが一番ですから」


その言葉に、なるほどと頷く。さりげなく穂積さんって教養高いよね。


僕がそう言うと、穂積さんは少し寂しそうに微笑んで言った。


「これも母が後々自分の世話をつつがなくさせるために、しっかりとした教育を受けてきたためです」


「あ……」


つい嫌なことを思い出させてしまったと、僕は申し訳なく思っていると、穂積さんはそんな僕を見て柔らかく微笑んで言った。


「どうぞ気にしないで下さい。全ては過去のことですし、今はこうして自由に過ごせてます。私はおろか姉さんまで」


そう言ってくれて、少し気が楽になったと共に、冬弥も少しは役に立つなと思った。なんだかんだ色んな人に援助したりしてる。


そう思って冬弥を見ると、冬弥は近くにあった倒壊した建物を覗き込んでいた。

まったく、欲望に忠実な奴め。


「いやぁ、まさか辿り着けるとはなぁ」


僕たちが見ていることに気づいた冬弥は戻って来てそう言った。

その目が輝いていることに、僕は嫌な予感を隠せない。


「冬弥さん。では、今日はこの辺にして帰りましょう」


しかし、ここでまた穂積さんがそう言ってくれた。僕だけなら間違いなく冬弥は探索を続行しただろう。


「いや、でも……ここまで来たんだしなぁ」


それでも未練がましく、後ろをチラチラと見ながら冬弥は帰ることを渋っている。


「冬弥さん。逢介さんとの約束は暗くなる前に帰るだったはずです。いくら気の知れた友人といえど、約束を守れない人は友人が減っていきますよ?」


「う……それは。……わかったよ」


さすがにそこまで言われては、さすがの冬弥も何も言えずに帰ることを承諾した。

僕の中で穂積さんの株が急上昇している。


時間は十六時。今から下ったらギリギリか、車に着く頃には暗くなってるかもしれない。

穂積さんもギリギリまで冬弥の思うようにさせてくれていたんだろう。


「痛っ!」


「お前、何度目だ?」


「大丈夫ですか?逢介さん。手を……」


呆れる冬弥と、手を貸して起こしてくれる穂積さん。登る時も土砂のせいで滑って登りにくかったけど、下る時の方が危ないことを初めて知った。


とにかく足を取られるのだ。


「足をあまり上げずに、すり足のように動かせば滑りにくくなります。前後は私と冬弥さんで見ますので、逢介さんは足元に集中して歩いて下さい」


そう言ってくれた数秒後にまた滑った僕は、穂積さんと手を繋いで歩いている。多分、僕の顔が赤いのは夕焼けのせいだけではないだろう。


「ぷぷ……逢介、その姿を蒲生が見たらなんて言うか……。」


「うるさいな!紗羅に言ったら二度と誘いに乗らないから、そのつもりでいろよ!」


そう言い返す間も足元から目を離さないで歩いていると……


「あら」


穂積さんがそう言って足を止めた。


「ええ?」


冬弥も驚いて見ている。顔を上げた僕は開いた口がしばらくふさがらなかった。


穂積さんが言っていた枯れた川だろう。来る時は水なんか全然なくて、川とすら認識できなかった場所が……。


今は轟々と水が流れていた。


なるほど、川といってもそんな大きい川じゃないのか。幅で言えば二メートルほど、少し大きな用水路といってもいい。


……通れないけど。


「さっきまで枯れてたよな?」


冬弥が穂積さんに聞いた。穂積さんは真面目な顔で頷いて言った。


「間違いありません。それも、かなりの時間が経っているように思えました。何かのはずみで流れたり枯れたりするようなそんな感じもなかったと思いますが……」


穂積さんがそう言うのを聞いて、冬弥はじっと考えている。


「も、もしかしたら道を間違えた……とか?」


僕がそうであって欲しいと思いながら言った言葉は、冬弥からも穂積さんからも否定された。


「間違えるような道もなかっただろ?」


「私たちが登ってくる時の痕跡も残ってました。間違いありません」


「じゃあ、どうすんのさ?」


一応見たけど携帯も電波はない。すでに辺りは薄暗くなり始めている。


冬弥は急に現れた川をじっと見つめている。


「冬弥さん。ここは戻るしかありません。そして一夜を凌げる建物を探しましょう。私たちが持っているライトでは、暗くなってからの山はもちろん、荒れた廃村でまともな建物を探すのも心許ないです。まだ陽の光で見えるうちに少しでもまともな建物を探すべきです」


空を見上げながら、穂積さんはそう言った。


◆◆ ◆◆


仕方なく引き返して、廃村に戻ってきた時にはもう日が沈みかけていた。

最初に違和感に気づいたのは、冷静な穂積さんだった。


「冬弥さん。ここ……こんなに建物が残っていたでしょうか?」


「えっ……確かに。さっき見た時にはもっと崩れた建物が多かった気がするな」


ポケットからライトを出して辺りを照らしながら冬弥も頷く。


「まぁ、一夜を凌げる建物を探している俺らには好都合なんじゃないの?」


冬弥はそう言って手近な建物を覗き込みながら気楽な様子でそう言っている。


「申し訳ありません、逢介さん。結局暗くなる前に戻ることができず、外泊させるようなことになってしまいました。時間とルートは確認しながら登ってきたつもりでしたが、まさか川が生き返るなどとは想像しておりませんでした」


穂積さんは、そう言うと僕に向かって深々と頭を下げた。


「そ、それは穂積さんのせいじゃないですし!どっちかと言えば冬弥のせいだから……」


慌てて、頭を下げる穂積さんにそう言うと、穂積さんは頭を上げて少し微笑みながら言った。


「だめですよ?逢介さんは優しいので、冬弥さんもつい甘えてしまうのです。逢介さんは、巻き添えをくってばかりのようですので、毅然と怒って見せた方がいいと思いますよ?」


穂積さんにそう言われ、大いに自覚のある僕は頭をかいた。


「おおい、こっちにまともそうな建物があるぞー!」


そう言う冬弥の声が聞こえてきて、僕は苦笑いを浮かべながら声の方に移動するのだった。

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