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見える僕と見えない彼女 心霊奇譚  作者: こばん
第六話

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8-2 廃村

細く荒れた道をひたすら登る。一応コンクリートで舗装はしてあるんだけど、土砂や石が転がっていてとても歩きにくい。両脇をひとの手が入ってなさそうな原生林に挟まれた小道は、どこかに通じているのかも不安になるほどの心細い道だった。


「なあに、婆さんが登っていたんだろ?きっとどこかの集落に通じてるはずだろ。もしかしたら車ではアクセスしにくい環境なのかもな」


微かに息を切らせながら、それでも前に進む意欲は衰えない冬弥は興味津々と言った様子だ。


「逢介さん大丈夫ですか?」


「ひぃ、ひぃ……ちょっと、待って。死ぬ……」


意気揚々と登る冬弥とは対照的に、最初から消極的だった僕は冬弥にこの道のことを伝えたことをもう後悔していた。多少は歩くつもりでいたけど、これほどの山道を長時間歩くつもりはなかった。


かなりの急こう配のうえに、道の上に広がる土砂のせいでひどく歩きにくく体力を消耗させる。疲れてくると余計に注意も散漫になって、土砂があるところに足をついてしまい何度も足を滑らせていた。それが余計に体力を消耗させる。


「冬弥さん。少しペースを落としましょう。逢介さんが倒れたら、それこそスポット探訪どころじゃありませんよ?」


冷静にそう言ってくれる穂積さんのおかげで、冬弥は渋々ペースを落とした。


「だらしないなぁ。もっと身体を鍛えないとだめだぞ?フィールドワークはみんどクラブの基本だからな!」


「はあ、はあ……。初めて聞いたよそんなもん。不適格だから退部扱いにしてもいいんだけど……」


「それはダメだ。今が最低人数なんだから。お前が鍛えろ」


もうめちゃくちゃだ。なにはともあれ、冬弥がペースを落としたことで、少しだけ僕にも余裕が戻って来た。穂積さんがいてくれてよかった。その穂積さんはうっすらと額に汗を浮かべるくらいで、そこまで息を乱してもいない。

冬弥ですら肩で息をしているのに……。


すると穂積さんは僕の視線に気づいたのか、柔らく微笑んで言った。


「私の実家も山奥でして、学生の頃は毎日こんな道を通って街まで出ていました。なんで慣れてるんですよ。なんならおぶりましょうか?」


見た目は華奢な体つきをしている穂積さんは力こぶを作るポーズを取るとそう言った。穂積さんの家は代々呪術や占いを行ってきた家だと言っていたから、やっぱり山奥にあったんだろうか。

笑ってごまかしながらそう考えていた。もちろん、おんぶは丁重にお断りした。


それにしても……。僕はスマホを取り出してみる。時刻は三時半。本当ならもう引き返さないと暗くなる前には戻れない時間帯だ。しかし冬弥はぐんぐん前に進む。穂積さんも遠回しに帰るよう言ってくれてるんだけど、ここまで来て帰れないと冬弥は頑として言う事を聞かない。


「まったく……電波もないし。これ、電波が入る所に入った瞬間、鬼のように通知がくるんじゃないかなぁ」


思わずそう呟く。なにしろ紗羅に黙って来ている。紗羅は急に僕に部屋に来ることもあるから、もしそこに僕がいないと、きっと連絡してくるだろう。なんだかさらに悪いなあと思いつつ、歩いているとふいに視界が開けた。

そこには……まるで時間に取り残されたような風景が広がっていた。


森の中をぽっかりと切り取ったように現れたその空間は、まるで大昔にタイムスリップしたような錯覚さえおぼえる。昔ながらの木造建築の建物が見える。そのほとんどが朽ち果ててはいるものの、なかには昔のままの姿でしっかりと建っているものもあった。


「これはすごいな。廃墟マニアの人が見たら喜ぶだろうなぁ」


そんな事を言いながら冬弥はスマホでパシャパシャと周りの写真を撮っている。その隣で穂積さんは冷静に位置に確認をしていた。


「だめですね。電波もないですし、森に囲まれた山道が方角をわからなくさせてしまって、ここがどの辺りかもわかりません」


冬弥と違って年長者でもある穂積さんは、冷静に現状を把握しようとしてくれている。その事だけが僕に安心感を与えてくれていたけど、そんな穂積さんでも現在地ははっきり分からないと言った。


奥は思いっきりため息をつきながら冬弥を呼んだ。


「んで?ここにはどういう謂れがあるわけさ?」


一応聞いておかないと心の準備というものがある。僕の心臓はデリケートだから一発で止まってしまうこともあり得ると思っている。


(あはは、その時はあたしがじかにマッサージしてあげるわよ)


久しぶりに聞こえたお姉ちゃんの声はスルーしておいて、冬弥を見る。


「謂れって?」


「だから、この廃村に何かうわさがあるんじゃないの?」


少し苛立ちながら言うと、冬弥は実にあっさりした様子で言った。


「知らね。大体偶然たどり着いたこの村が目指していた村かどうかもわかんないし、話では川を越えた所って書いてあるんだよな。川なんてなかっただろ?」


確かにここに来るまで、森ばっかりで川なんてものはなかった。車で大分前に大きい川を越えたけどそれは違うだろう。


「川っていうのは昔から境界線みたいな感じで大事なラインだったんだよ。今でも川向うは違う町とかあるだろ?霊的な物は川という境界を越えることができないとも言われてるしな」


冬弥がうんちくを語りだす。境界の話もきっと霊が越えれないってところから調べただけなんだろう。


「あ、川ありましたよ」


後ろからそう言ったのは穂積さんだった。僕も冬弥も「うそ!?」と穂積さんを見る。


「正確には元川でしょうか。干上がってもう水は流れてませんでしたが、間違いなく川でした。きっとこの辺りの田んぼや生活用水のために引かれていたんじゃないでしょうか。誰も住まなくなってその役目を終えて、手入れもされずにひっそりと枯れていったんでしょう」


どことなく悲しげな様子で穂積さんはそう言った。昔からここと同じような山奥で育ってきたという穂積さんならではの感覚なのかもしれない。


「じゃあ、ここなのかなあ」


冬弥はそんな穂積さんの様子など気にした様子もなく、辺りをきょろきょろと見まわしている。


「じゃ、じゃあここがその村だとして……どんな謂れがあるんだよ」


僕が再度聞くと冬弥はニヤッと笑って話しだした。


「この村は辺鄙な場所にあるだろ?それを嫌がって若者は村を出て行くから、年寄りばかりが残る。すると考え方や昔ながらにしきたりも残っていくもんだ」


最近聞く限界集落というやつだろう。不便な場所にあるけれど、そこに住む人たちは故郷を捨てられずに中々離れられない。それでも人は減っていき……というやつだ。時々テレビでも特集しているけど、ほんとにそこに住んでるの?驚かされることも少なくない。


「集落の西と東に、それぞれ昔から名のある一族が住んでいた。とても仲が悪かったその一族は、時代と共に集落から人が減っていくのを、それぞれ相手のせいだと言って揉めだした。まだ人が多かったころは仲裁に入る人も多かったけど残っている人も年寄りばかりだし、そのもめごとはエスカレートしていった。」


声のトーンを落としそれっぽく冬弥は語る。実際にその場に居るんだから余計な雰囲気作りはやめて欲しい。近くでがさっと音がして、僕がビクッとその音の方を見ると、穂積さんが歩いた音だった。


「あ、申し訳ありません。なにか像のようなものが見えたもので」


そう言って謝られると逆に恥ずかしい。僕はごまかすように苦笑いを浮かべて冬弥の方に向き直った。……さっきまで雰囲気を作っていた冬弥は笑いをこらえていた。



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