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見える僕と見えない彼女 心霊奇譚  作者: こばん
第六話

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8-1 久しぶりのスポット探訪

「最近さ、身も凍るような体験をしてないと思わないか?」


僕の家に遊びに来た冬弥が前置きもなしにそう言った。


「思わない。そんな体験はしなくていい」


僕は台所から持ってきたジュースを冬弥の前に置こうとしていたのを止め、僕の前に二つ置いてそう答えた。


「あっ、逢介、そんないじわるするなよ~」


そう言う冬弥に、僕は半目で睨みながらジュースの入ったグラスを冬弥の前に押しだす。


「はは、サンキュー!いやあ毎日暑いよなぁ」


そう言いながら冬弥はおいしそうにジュースを飲んだ。そして半分ほど飲むとテーブルに置いた。


「そんなわけでちょっとスポットに行こうぜ」


「いや、どんなわけだよ。いいよもう……おかしな体験なら散々したじゃないか」


そう言うと冬弥はやれやれという感じで両手を広げて首を振った。


「確かに不思議な体験はあった。でも違うんだよ!やっぱさ、身も凍るような体験じゃないと民俗風土クラブの名折れだと思うんだ!」


と、力説する冬弥。僕は自分のジュースを飲みながら白けた目で見ている。


「てわけでさ、行こうぜこれから。どうせお前何の用事もないだろ?」


さり気に失礼なことを言う冬弥は僕が睨んだくらいじゃまったくひるまない。……確かに何の用事もないけども。


「行くって言ってももうすぐお昼だよ?こんな時間からどこに行くんだよ」


僕たちには移動手段が自転車くらいしかない。今から行って探索できるような所がそんな近くにあるなんて聞いたこともない。


僕がそう言うと、冬弥はニヤリと笑った。


「あるんだよこれが……んじゃ行くってことでいいな?さっ、支度しろ」


結局こうやって押し切られるんだよな……。そう思いながら僕はスマホに手を伸ばした。


「あっ、逢介。今回は蒲生には内緒な?」


そう言った冬弥の言葉に僕はぴたりと動きを止めた。まさに紗羅に連絡しようとしてたからだ。


「なんでだよ、紗羅をのけ者にする気か?」


「いや、そーゆーわけじゃないけどさ、蒲生がいたらなんか出てもポポーンって蹴っ飛ばして終わりだろ?たまにはチートなしで行こうぜ?あきらにも言ってないからさ」


今回は男同士で。そう言う冬弥にまたしても流された僕は、しぶしぶ出かける用意をして冬弥と一緒に家を出た。すると、家の前に見たことがない軽自動車が停まっている。これは違法駐車か?と考える僕の横をとことこと歩いて冬弥がその軽自動車の後部座席のドアを開けた。


「いや、ごめんごめん。待った?」


まるで待ち合わせのカップルみたいなことを言いながら乗り込む。


「何ぼおっとしてんだ逢介。ほら、早く乗れよ」


冬弥に急かされ、乗ってみると運転席には知った顔があった。


「穂積さん!?」


「お久しぶりです逢介さん。今日はよろしくお願いしますね?」


そう言ってニコッと微笑んで車を発進させた。


「どうだ逢介、お前移動は自転車だって思い込んでただろう?」


楽しそうに冬弥はそう言っているが、僕は別の事が気になっていた。冬弥がウチに来てから出かけるまでに一時間は経っている。その間穂積さんはずっとここで……。


「ずっとここで待ってたんですか?冬弥何も言わないから……」


「いえ、これもお仕事の一つですので。むしろゆっくり読書できましたし」


穂積さんは待たせていたことを気にする僕にニコッと笑いそう言ってくれる。確かに助手席に詩織の挟まった本はあるけど……。


「僕が行くかどうかも分からないのに、待たせとくってのはどうなのさ?」


穂積さんはよかったとしても、僕はやっぱり気になる。冬弥にそう言うと、冬弥は笑いながら答えた。


「そうだな、今度からそうするわ。お前が渋る暇もないくらい急かすから」


もう、こいつは……


ニヤニヤ笑う冬弥と、運転しながらクスクス笑う穂積さん。それから一人憤っている僕を乗せた軽自動車は、どんどん山の方に向かって走っていた。


◆◆◆◆


「ねえ、冬弥。いつになったらつくのさ」


出発してから一時間は経っている。来るまで一時間なら、もう県境はまたいでるんじゃないだろうか。ただ、周りを見ても現在地を示すものがない。それどころか山と木しか見えない。


「うーん、もうそろそろだと思うんだけどなぁ。」


と、冬弥はさっきから何度目か分からない答えを返す。そんな遠くに行くとは思っていなかった僕はいい加減疲れて、どこでもいいから早く着いて、ぱっぱっと見て回って帰ろう。そんな気になっていた。


「冬弥さん。先ほどからナビがおかしいのです」


穂積さんがそう言うまでは。


「おっ!何々どうしたの?」


そう言って嬉々とした様子で、身を乗り出す冬弥。僕はその後ろから不安そうに見ている。


穂積さんは一旦車を停めてナビのマップを触りながら言った。


「わたしたちはここから登り始めました。最初調べた時はそこから川を渡ってすぐだったのですが、川が出てこないのです」


「おっ、これはよくある展開か?」


「何喜んでんだよ。迷子ってことだろ?穂積さん引き返した方が……」


冬弥に呆れながら言った言葉を一蹴して、冬弥は前進を選んだ。分かってたけど……。

穂積さんにとっては主人である冬弥に従わないわけにはいかない。それから再び走り出して十分ほどして、穂積さんは再び車を停めた。


「やはりおかしいですね。私たちぐるぐると同じ場所を回らされてます。そこの道……その道は私たちが登ってきた道です」


穂積さんが指す方には左に曲がる道があり、少し下っている。そこから来たと穂積さんは言うのだ。しかしナビではこのままひたすら前進を告げている。それどころか……。


「あっ!残り距離が……」


ナビを見つめていた僕は叫んだ。のこり8Kmと表示されていた距離が停まっているにもかかわらず減っている。


「おい、面白くなってきたじゃん」


「毎度思うんだけど冬弥って懲りないよな?」


僕のツッコミなど気にすることもなく、冬弥はナビを操作している。その背中を呆れながら見ていると、ふと右側の目の端に動いている物を感じる。そっちを見ると、腰の曲がったお婆さんが、細い道を歩いて登っていくところだった。


「あ、人がいるよ。聞いてみたらいいじゃん」


とにかく早く行って早く帰りたい僕はもうやけくそ気味に言った。このままだと冬弥は目的地に着くまで帰ろうとはしないだろうし。

僕の言葉に顔を上げた冬弥は首を傾げる。


「何言ってんだ?どこに人がいるんだよ」


「いやそこにいるでしょ、お婆さんが……あれ?」


確かにいたのだ。のんびりと歩く速度から考えても見えなくなるほどの時間もない。でも、お婆さんがいた道には誰の姿もない。


「というか……ここに道がありましたか?私の感覚では少なくともこの道を三周は回ってます。私はずっと右に曲がる道に集中してましたから見落とすはずは……」


穂積さんも首を傾げる。となると……。


「行ってみようぜ!」


こう言いだすのは当然の流れだった。


「山道なんだから、暗くなる前に僕は帰るからね!」


そう何度も前置きして、僕は車を降りた。いずれにしても冬弥はある程度納得しないと帰ろうとしないだろうし、少し歩けば疲れてもう帰ろう、となるかもしれない。この時の僕はそう簡単に考えていた。



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