7話 後日談
呪術師の男が倒れたことで、周りを囲んでいた男達にも明らかな動揺が広がった。こうなってしまえば紗羅の独壇場だった、それからさらに三人ほど打ち倒した紗羅は、息も乱れず僕の前に立ちはだかった。
「お、お前らこんなことしてタダで済むと……」
外国人の男たちが怯むのを見て、日本人の男は声を震えさせながらもそう言ってきた。
「俺たちがただのごろつきだと思うなよ?俺たちの組織が黙っちゃいないぞ?」
こちらを指差しながら唾を飛ばしながら日本人の男は脅しにかかってきた。ただ、それを聞いたお師匠さまが鼻で笑うと、その男の前に杖を突きだして言った。
「組織なぁ。お前たちのほうこそ、日本にこんなものを持ち込んでタダで済むと思っとる?日本の子供をこんな術に使ってタダで済むと思っとる?」
「ぐっ……」
お師匠さまにそう言われ、男は悔しそうに口をつぐむ。さらにお師匠さまはグイッと男に顔を近づけると低い声で言った。
「やーたーや、はようぬぎたほうぬましどー?」
僕には意味の分からない言葉だったけど、男は理解できていたのか黙って項垂れた。ふと気づけば、公園に入って来ようとする家族連れや、ランニングしている人、犬の散歩をしている人などがいる。
呪術師の男が倒れたせいか、僕が引きはがした禍々しい手のせいか分からないけど、人避けのまじないも効力を失いつつあるようだ。
「******」
外国人の男たちが慌てて呪術師の男を担いで逃げ出す。日本人の男もお師匠さまに杖で叩かれながら這う這うの体で逃げ出した。
「お師匠さま、大丈夫なの?あの男組織がどうのって言ってたけど……」
紗羅が少し不安そうに聞くと、お師匠さまはにっかり笑って言った。
「こっちにもな、ああいったことに術を使うような奴を許さないような人たちがおる。今回奴らは派手に動きすぎた。まぁその人形のせいじゃが、もう奴らは日本の土を踏めんじゃろ」
お師匠さまはそう言うとひゃっひゃっと笑った。
◆◆◆◆
結局ルゥちゃんは紗羅が連れて帰ることになった。僕がいきなり人形を持って帰って来たらうちの両親が驚くだろうからそうするしかなかった。
ルゥちゃんは紗羅の母さんの人形と並んで道場に置かれて、みんなの稽古する様子を楽しそうに見守っている。
「いやあ、あれから入門希望者が増えてねぇ。僕一人じゃ対応しきれないからお断りしてるんだよ。一体どうして急に増えたのか……」
紗羅のお父さんがそう言いながらしきりに首をひねっていた。
……もしかしてルゥちゃんが福を呼んでいるのかな?
それから数日の間、お師匠さまは紗羅の家に泊まり、そして帰る日になった。なぜか事あるごとに僕も呼び出され、観光や紗羅の稽古などに付き合わされた。そして今日はお師匠さまを見送るために紗羅と二人で駅までやってきている。
「んじゃやー、またくーくとぅやっさー」
そう言うとお師匠さまはご機嫌な様子で手を振った。
「また来るって」
紗羅が通訳して言う。僕は思わず笑って言った。
「色々あったけど楽しかったです。今度は変な事に巻き込まないでくださいよ!」
僕がそう言うと、お師匠さまは楽しそうに笑った。そして僕たちを見てニヤッと笑うと大きな声で言った。
「やーたーぬ にーびちにん、わんや また来ーどー!」
そう言うと雑踏の中に消えていった。
後には、はてなマークを浮かべた僕と、なぜか真っ赤になった紗羅がいる。
「お師匠さまなんだって?」
僕が聞くと紗羅は勢いよく顔を逸らした。それを見て僕はさらに首を傾げた。
「お師匠さまなんて言ったの?」
気になってもう一度聞いてみたけど、紗羅は「知らない!」と言って答えてくれなかった。
ルクテープ
タイで幸運や富をもたらすと信じられている「子どもの天使」を意味する人形のお守り。寺院などで祈祷やペイントを施されることで子どもの魂が宿るとされ、本物の子供のようにミルクやお菓子を与えたり大切に世話をする習慣がある。
今回はそのお守りを悪用しようとした呪術師から、その人形が必死に逃れようとするうちに逢介たちと巡り合った。やっぱり逢介は持っている。
信ぴょう性 A
危険度 B




