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見える僕と見えない彼女 心霊奇譚  作者: こばん
第六話

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7-5 違和感

「ええ……この子帰りたくないって事?」


僕がそう言うと冬弥が面白そうに言う。


「こりゃ、逢介が連れて帰るしかないな。きっとこの人形に込められた魂があの外国人のところは嫌だって言ってるんだろ」


「冬弥、面白がってるだろ……。他人事だと思って」


冬弥を横目で睨みながらそう言うと冬弥はケラケラと笑う。

ついでにお師匠さまもひゃっひゃっと笑ってる。


……もうこの人達どうにかして欲しい。


「ひゃっひゃっ……まぁ、冗談はさて置いて、奴ら闇雲に探しているわけでもないじゃろ。おそらく術者にはわかるように何か刻み込んであるんじゃろうな。それを解くことができれば、異国の地で見つけることは難しいじゃろうがの」


外国人の人たちが通り過ぎて行ったのがわかったのか、人形は紗羅のリュックから、ピョコッと顔だけを出した体勢になっていた。


「刻み込んで……刻印かなんかあるのかな?」


僕は紗羅のリュックから人形を出すと、異国風の洋服を脱がせてみた。


ぱちん!


「痛っ!」


正確には脱がせようとして、顔に痛みを感じて手を離した。


「痛た……。何今の?まるで叩かれたみたいだったけど……」


頬を押さえながら僕がそう言うと、紗羅が怒った顔で言う。


「それはそう。この子は女の子、いきなり脱がせようとしたら、それは怒る。私でも殴る」


そう言って紗羅は拳をギュッと握る。


「やめて、君が殴るのは女の子が叩くのとはちょっとジャンルが違うから……」


そう言いながら人形を見る。僕が手を離した時に落とした人形は、いつのまにか半分紗羅に隠れるような格好でこっちを見ていた。


「女の子って言っても……そりゃ人形自体は女の子の人形だけど、それに入れられた魂が女の子かどうかわからないじゃないか。それに、そんな人形相手にいやらしい気持ちなんかないよ」


頬を押さえたまま僕が言うと、紗羅は自分に隠れるようにしている人形を抱き上げて、僕から遠ざけるような仕草をする。


「それでも、この人形はきっと女の子!おーちゃんは女の子の洋服を無理やり剥ぎ取るような人だったの?」


「ちょ、言い方!誤解を招くから!ほら、さっきそこ通った店員さん、僕を変な目で見て行ったから!」


あたふたしながらそう言うと、冬弥がスマホをいじりだす。


何をしているのかと思えば、「おもしれーから、あきらも呼んでやろう」とか言ってる。


こいつは……。


「とにかく、ルゥちゃんに酷いことしたらだめ!もしかしたら、これまでにも何か酷いことされてきたのかもしれないじゃない!」


「る、ルゥちゃんって?」


一応聞いてみる。すると紗羅は人形を抱いて言った。


「この子に決まってる。ルクテープだからルゥちゃん!」


やっぱりだった。ルクテープってそういう類の人形の総称じゃないの、大丈夫?


「ふーむ、紗羅は見えたりはできなかったはずじゃが……。感覚で理解しておるのか、その人形、喜んでおるの」


不思議そうに紗羅に抱かれた人形を見て、お師匠さまが言った。


「あ、いいんだ……」


力が抜けたように僕が言うと、紗羅はご機嫌そうな様子で人形を……ルゥちゃんを抱いていた。


そうしていると、僕たちがいるファミレスの横の道を、さっき行きすぎて行った外国人達が辺りをキョロキョロ見ながら、やって来る。

その様子から、大体この辺にいるってことはわかっているみたいだ。


「おい、あいつらこっち見て何か話してるぞ?」


バレないようにチラ見していた冬弥がそう言った。外国人達は手分けして探しているみたいで、複数の方向から集合した後、一人の男が僕たちがいるファミレスを見たらしい。


「なんか一人だけ雰囲気違ってさぁ、いっぱいタトゥー入れてるみたいだったし……」


冬弥がそう言うと、お師匠さまの眉がピクッと動いた。


「そいつが術をかけた奴かとしれんの。タイの呪術師は護符というか、お守りみたいな感覚で魔力を込めてタトゥーを入れると聞いたことがある。ここを離れた方がいいかもしれんが……」


「今出ると絶対目立つよな……」


お師匠さまの後に冬弥がそう続けた。外国人たちが注目している、このタイミングで逃げるように店を出るのは怪しまれる。


「でも、あいつら入って来たらどうする?ほら、ルゥちゃん怯えてる」


紗羅の方を見ると、ルゥちゃんは紗羅のお腹に顔をうずめるようにしてしがみついているように見える。

その姿を見ると、やはりあの外国人達に渡してはいけないような気がしてくる。


僕たちが顔を寄せてそんな話をしている時だった。


バンバンバン!


僕たちの席の横のガラスが音を立てた。僕は飛び上がりそうなくらい驚いて、音の方を見るとそこには……



申し訳なさそうな顔をして立っているあきらの姿があった。


「え?」


驚く僕の横で、冬弥はスマホをいじり出す。


「ああ、あきらサイフ忘れたから入りにくいって」


何も注文しないのにお店に入りにくいと、あきらは言っているらしい。でもこれはチャンスだった。


「待ち合わせしてたふりして、さっさとここから出ようぜ」


冬弥がそう言いながら立ち上がった。お師匠様も「それがいいじゃろ」と言いながら立ち上がる。ただ、お店を出るのならあの外国人たちのそばを通らないといけない。


「だいじょうぶかなぁ……」


呟きながら僕は会計を済ませた。


「自然にな?」


出る時に冬弥はそれとなくそう言ってきたけど、どうやればいいんだっけ。……多分僕は考えすぎてとても不自然な行動をしていたんだと思う。

一列になって何か話している外国人の中で、例のタトゥーを入れた人がじっと僕を見ていた。


「*****」


そして何か喋りかけながらその人が僕の肩を叩いた。


「ひいっ!」


情けない声を出しながら飛び上がった僕の前に、素早く紗羅が立って外国人を睨みつける。呪術師らしきその外国人は、敵意はないよと示しているのか、にこやかに両手を前で振って後ろ向きに下がって行く。


「おーちゃん、何されたの?」


離れて行く外国人を警戒しながら紗羅が聞いてくる。


「わかんないよ、なんか肩を叩かれたけど……」


叩かれた所を見ながら僕はそう返した。Tシャツの肩の部分はそれまで通りで、特に何か変わった様子はない。ただ肩を叩かれただけだ。でも……叩かれ方がすごく気持ち悪かった。先入観もあるかもしれないけど、叩く瞬間にギュッと掴むような……とにかく普通じゃなかった。


外国人たちは何事か話しながら、僕たちとは反対の方向に歩いて行った。その姿が見えなくなるまで見ていた紗羅は、外国人たちが見えなくなると僕の手を掴んで足早に歩き出した。


「行こ、おーちゃん。アイツらなんか気持ち悪い」


そう言う紗羅に手を引かれながら僕たちはその場を離れた。



「何かつけられたかもしれんの」


しばらく歩いてから、おもむろにお師匠様がそう言った。


「お師匠様、何かって?」


紗羅がそう聞くと、お師匠様は僕の肩をじっと見て言った。


「それはわからん。アタシもあちらさんの呪術には詳しくないからね。でも、あの呪術師はこっちを疑ってた。その割にはあっさり引いただろ?」


そう言うとお師匠様はどこか休憩できるような場所が無いかと聞いてきた。僕たちは顔を見合わせて、とりあえず近くにある公園に行くことにした。


「見た感じ何もないけどな」


紗羅と並んでベンチに座った僕の肩を冬弥が興味深げにじろじろと見て言う。あきらは「また逢介くん何かに巻き込まれてるの?」と呆れたように言っている。


「とりあえず、何をされたのか分からんことには手の打ちようもない、このまま帰る訳にもいかんじゃろ。紗羅や、準備をしておくんだよ」


お師匠様がそう言うと、紗羅は頷いてベンチから立ち上がると準備運動みたいなことをしだした。


「えっ?ちょ、お師匠様?一体何が……」


うろたえながら僕がそう聞くと、お師匠様は僕の肩を調べながら言った。


「勝手の分からない異国の地で、目的のものを探す時どうするか。それを持ってそうな奴を見つけたなら、居場所がわかるような術を……そして」


そこまで言うとお師匠様は不意に周りを見渡した。


「この公園はいつもこんなに静かなのかい?」


急にそんな事を言った。


「あれ、言われて見れば……。めずらしいね、この時間なら散歩している人だったり、親子連れが遊びに来てたり……結構いつもにぎやかだよね?」


あきらも周りを見てそう言った。





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