6-10 たくさんでかくれんぼ
「こういう場合、何がなかったか……」
冬弥は俯いて必死な何かを考えている。呟いていることから、今まで調べてきたなかで、同じパターンがなかったか、あったらどうやって潜り抜けたか。それを思い出しているんだろう。
かちゃ……
そして、とうとう前からはキッチンの入り口まで来たのか、少しだけドアが開いた。
|(逢介、逃げて!)
その時だった。久しぶりに聞こえたお姉ちゃんの声と一緒に、ドアの外から声が聞こえた。
「オーナー!オーナー!!いるんでしょ?今度は何をなってるんですか。うるさくて寝れないんですけど!」
ガバッと冬弥と顔を合わせる。そして飛びつくようにしてカギを開けてノブを捻った。
「きゃあっ!」
あまりに勢いよく飛び出したからか、外にいる人に僕はぶつかってしまった。
「ごめんなさい!」
無我夢中で謝り、冬弥を振り返るとその場で座り込んでいた。
ただ、僕を見て力無く笑いながら親指を立てている。
「はあああっ……」
それを見て盛大にため息をついていると……
「ねぇ、キミ。大胆ねぇ」
という声。僕の頬を受け止めてくれている柔らかいもの……。
「あっ」
そういえば誰か知らないけどお礼とお詫びを……そう思って僕は固まった。
どこかで見たことがあるお姉さんの胸元に僕は抱きついていたからだ。
部屋着だからか、下着の上にTシャツをきただけのお姉さんの……
「ごっ、ごめんなさいぃー!」
当然ながら、僕は土下座する勢いで謝った。
幸いお姉さんは僕を訴えるとかはなく、ただ微笑んでいたけど……。
「助かったー。ありがとう美咲さん。ちょっとやばかった」
ポリポリと頭をかきながら玄関までやってきた冬弥が言うのを聞いて、このマンションに来た時に一階のトレーニングルームで初めて会ったお姉さんだったと思い出す。
「で、なんで逢介は土下座してんの?」
僕は冬弥を睨みつけた。美咲さんはクスクスと笑っていた。
◆◆ ◆◆
「へぇ、一人かくれんぼねぇ。あたしも特に何も起きたことないなぁ。ほんとに?」
冬弥がわけを話すと、美咲さんは顔を輝かせた。
そういえば冬弥とは趣味が合ってよく話すと言ってたことも思い出して、僕の顔は引きつった。
「ほんとほんと!今回はまじやばかった。何引き当てたんだろうなぁ」
嬉しそうに話す冬弥を恨みがましげに見ていると、冬弥の腕がぐいっと僕の肩に回された。
「たぶん、原因はこいつ!俺の友人で逢介って言うんだけど、こいつがもってるんだ」
「ちょ!やめろよ!」
なんだよ人を紹介するのにもってるとから訳のわからないこと……。
そう思ったけど、意外にも美咲さんの顔は輝きだす。
「へぇ、今度お姉さんの部屋に遊びにこない?泊まってっていいから!」
「イエ、ケッコウデス」
だめだ、この人冬弥と同じタイプだ。とんでもない目に合う未来しか見えない。
僕がすげなく断ると、美咲さんはクスクスと笑って言う。
「そかそか。そーだよね。彼女ちゃんにヤキモチ妬かれちゃうね!」
「え?」
ポカンとする僕に美咲さんはニコニコと笑いかけてくる。
「あっ!」
初めて話した時、僕を紗羅がぎゅっと掴んでいたことを思い出した。
「いや、別にそんなんじゃ……」
ないと言おうとした僕の肩を美咲さんはポンポンと叩きながらウンウンと頷く。
そして、今日一番の笑顔で言った。
「じゃ、彼女ちゃんと二人で泊まりにきなよ。そんならいいでしょ?」
--ごめんなさい、何もよくないです。そして、この人も人の話聞かないな、と思った。
「それにしても美咲さん。ナイスタイミングだったよ、下まで何か聞こえてた?」
冬弥がそう聞くと、美咲さんはびっくりしたように言う。
「とんでもない!何かってレベルじゃなかったよ?オーナー友人を十人くらい呼んで、各部屋で走り回ったるのかって思うくらいだったんだから」
そう言うと美咲さんはポケットからスマホを出した。そして、動画を再生し始める。
そこには美咲さんの部屋らしき壁が映っていて、すぐにカメラは天井に向けられる。
とととと
たたたた
かつかつかつ
だんだんだん
ずるっずるるっ
……人が出すような音じゃないのも混じってる気がする。
なんでも美咲さんは冬弥の部屋の真下に住んでるらしく、親しく話すようになったのも、冬弥が部屋で降霊術を試していたときに、異音がずっとなってうるさかった美咲さんが苦情を言いに来たかららしい。
そして、美咲さんもオカルトフリークらしく、意気投合してしまったんだそうな。
「今日も友人が遊びに来たのは知っていたし、楽しんでるんだろうと、対して気にしてなかったけど、しまいはあたしの部屋のチャイムまで鳴り出すんだもの!寝られなくって来たのよ」
と、美咲さんは言った。
|(チャイムはわたしよ!全く、少し目を離してたらあんな事になってるんだもの、驚いたわよ!)
お姉ちゃんの声はそう言った。僕は怖くて「あんな事」の中身は聞けなかった……。
ちなみに下の階であれだけの音が響いていたのに、同じフロアの使用人室やゲストルームにはまったく音は聞こえなかったという。




