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見える僕と見えない彼女 心霊奇譚  作者: こばん
第六話

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6-9 続々 二人かくれんぼ

「で、どうするの冬弥」


そう聞くと、冬弥は言った。


「この一人かくれんぼを終わらせるには、さっきのぬいぐるみに塩水ぶっかけて俺の勝ちって言うんだ。でも始める時も俺しかやってないだろ?俺がそれをやればいいと思うんだよ。お前の分も用意したのは、塩水を口に含んでいたら、霊から姿が見えなくなるらしい」


そう言いながら、冬弥は僕がさっき置いたコップを手に取る。僕はただの水だと思っていたけど、塩水だったのか。


「じゃ俺が行って終わらせてくるから。お前はここでじっとしてろ。最悪の場合……」


冬弥は壁にある受話器を指した。


「あれで蒲生を呼べ。蒲生なら何とかしてくれるだろ」


そう言って少し笑うと、冬弥は部屋を出ようとした。そこで僕は思い出す。

さっき聞こえていた水の音。あれは浴室の方から聞こえていなかったか?

ぱしゃぱしゃと水が落ちるような音は風呂以外では考えにくいんじゃ……。


僕は思わず冬弥の服を掴んで止めていた。


「おい、逢介。怖いのはわかるけど……」


「僕も行く」


「えっ?」


「始める時も、僕は何もしてないけど、その場にいたじゃん。おんなじようにしないといけないんじゃないの?それに……」


「それに、なんだよ」


僕はそう聞いてくる冬弥から目を逸らすようにして、言った。


「紗羅って寝起き悪いんだよ。起こすのに肩を揺さぶろうとしたら、布団の中から蹴りが飛んできたりするんだから……」


僕がそう言うと、その場面を想像したんだろう。冬弥が小さく吹き出した。


「そっかそっか!蹴られたくはないな。よし、行こう逢介!」


僕は頷いて返して、震える足を叱咤しながら冬弥の後に続いて歩き出した。


ギシ ギシ  


床の音がやけに大きく聞こえる。作りのしっかりしているはずのマンションでもこんな音がするんだ。


どうでもいいことを考えながら、ついていく。やがて冬弥が脱衣場のドアを開けて中に入る。


「え……」


脱衣場の中は湯気がもうもうと充満していた。見ると浴室のドアが少し開いていて、湯気はそこから漏れてきている。


「おいおい……。始めたとき水だったろうが」


冬弥が呟くのを聞いて、僕は泣きそうになる。


なんだよお風呂入りたいんならそう言ってよ。そっとしとくから。


誰に対して言ってるのかよくわからない思考をしながら、様子を見ていると、冬弥は浴室のドアをゆっくりと開けた。


「うわっ!」


一段と濃い湯気が脱衣場の方に出てくる。そして、湯気の温度でわかる。これはお風呂の温度じゃない。


「くそっ」


そう吐き捨てて、冬弥は湯気を払いながら中に入って……浴槽を見下ろして呆然としている。


「冬弥?」


僕も近づいてみると、冬弥の視線の先、浴槽の湯船には何もなかった……。


「ひい……」


思わず叫び声をあげそうになった僕の口を冬弥がふさいだ。


「大丈夫だ。こういうパターンもあるって聞いた事ある。要するにかくれんぼだから、俺たちも探さないといけないんだよ」


「いや、意味が……」


「覚えてるな?逢介。熊のゆいぐるみだ。くまたんだ。一緒に見つけるんだ、いいな?」


冬弥は僕の目を見て、ゆっくりと一節ずつ区切ってゆっくりと言い聞かせるように言った。


そして、冬弥の口からくまたんという言葉を再び聞いて……少し落ち着いた。


僕が何度か頷くと、冬弥は僕の口から手を離した。


「おかしなものが見えたら教えてくれ。まぁ教えてもらっても何もできないんだけどな?ぬいぐるみ以外だと」


そう言って笑う冬弥につられて、僕も少し笑うことができた。


「頼りになるんだか、ならないんだか」


僕がそう言うと、冬弥は振り返ってきて顔を見合わせてもう一度笑った。


「よし、探そう」


そう言って、僕たちは部屋の中をくまなく探すことになった。


◆◆ ◆◆


「見つからねぇ……。隠れるのうますぎだろ」


冬弥も僕も緊張しすぎて、疲れて座り込んでいた。浴室から脱衣場、廊下を経由してトイレ、キッチンまで来たけどくまたんの姿はない。


「これだけ探していないって……。部屋の外の可能性は?」


僕が聞くと、冬弥は声を落としていった。


「俺が見たルールにな?絶対部屋の外に出てはいけないってのがあるんだ。出たらいけないなら、霊側も出ないはず。そうじゃないとフェアじゃない」


幽霊がフェアプレイ精神を持ってるのか疑問だけど、そういう「決まりごと」には縛られる傾向がある。


お姉ちゃんがこっちの世界では自由にできないって言ってたみたいに幽霊の方も色々と制約があるのかもしれない。


「そして、大体こういう時って……」


そう言うと冬弥が玄関に入ってドアを開けようとすると……


押しても引いても開かなかった。僕も試したけど、鍵も確認したけど開かなかった。


「多分外部からのアクションがあれば開くんだろうけど、きっとインターホンも使えないんだろうなぁ」


そう呟く冬弥。試しに僕は紗羅にメッセージを送ってみた。


すると、送信失敗の文字が出て送れなかった。


「やっぱり大元をやるしかないんだろうな。よっと!」


そう言って冬弥は立ち上がった。また一から探すつもりなんだろう。

僕も立ち上がろうとした時だった。


ずる ぺちゃ ぺちゃ


濡れた雑巾を床に落としたような音が、奥から聞こえてくる。

それと同時に、異様な圧迫感が部屋を押し包むのを感じた。


「……やば。一体なにを呼んじまったんだ?」


異様な気配は冬弥も感じるのか、あの冬弥が尻込みしている。


ぺちゃ ぺちゃ ぺちゃ


僕の頭の中には、ずぶ濡れのくまのぬいぐるみがお腹から血を流して、片手にサバイバルナイフを持って迫ってくるのが浮かんだ。


「と、冬弥!」


部屋の外から入ってくる微かな月明かりで、冬弥の顔も青ざめて、冷や汗が伝うのが見えた。


すとん


情けない話だけど……。もう足に力が入らない。腰が抜けちゃったみたいだ。


ギィィ……


どこかのドアを開ける音が聞こえる。


こんな立派なマンションにそんな音がするようなドアはないだろ!


虚しく心の中でツッコミながらも、僕はお尻をついたまま後ろに下がった。冬弥もジリジリと下がっている。


ぺちゃ ぺちゃっ


さっきより少し大きくなった、水気を含んだ布の足音がだんだんと近づいてくる。


ごくっと、唾を飲む音がやたら大きく聞こえた。それも僕が出したのか、冬弥がやったのかもよくわからない。


少しずつ下がって……やがて、開かない玄関が見えてくる。


--やばい。もうだめかも。


弱気な僕が心を支配する。このまま立ち上がって、喚きながら音のする方に駆け出したい衝動に駆られる。


……腰が抜けてるからできないけど。


「……逢介。悪いけどもう一度だけ、玄関が開かないか確かめてくれないか?」


冬弥がそっと僕に言った。きっと冬弥も開くなんて思ってない。それがよくわかった。


「わ、わかった……」


それでも、万に一つの可能性に賭けて、僕は四つん這いのまま這うようにして玄関の方に向かった。

そして、ドアに向かって手を伸ばした時。


ドンドンドン!


激しくドアを叩く音が響いて、一瞬意識が飛びかけた。


ぺちゃ ぺちゃ


前からは、足音。


ドンドンドン!ドンドンドン!


後ろからはドアが揺れるほど激しく叩く音。


前後を挟まれて……

 

僕たちは途方に暮れるしかなかった。

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