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見える僕と見えない彼女 心霊奇譚  作者: こばん
第六話

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6-7 ふたりかくれんぼ

時計を見るともう十一時を回っていた。紗羅とあきらはお客さん用のゲストルームとやらで、僕は冬弥の部屋で寝ることになっている。風呂に入るまでいたリビングと違い、冬弥の部屋はいかにも「冬弥」という感じだった。


本棚には都市伝説や事故物件というタイトルばかりが並んでいるし、偽物だと信じたいけど黒魔術の本まであったりする。壁には明らかに違和感のあるくまのぬいぐるみや日本人形、フランス人形が並べて置いてあって、目が合いそうでそっちを向けない。

部屋の隅に収納があるのに、その周りにいろんなものが散乱している所を見ると、収納に入りきらないくらい色んなものがあるんだろう。


まあ、そのほかにも人気のテレビゲームなどもあったりして、二人で盛り上がってこの時間になっていた。もう他の部屋から聞こえてくる物音もしないし、沙羅たちがいるゲストルームも、高橋さん達がいる使用人室も、普通のマンションの感覚だと一度外に出てから、隣の部屋に入るという感じだから、そもそもあまり物音や話声は聞こえないんだけど。


「逢介眠そうだな?」


テレビゲームの電源を落としながら冬弥が言う。


「もう時間も遅いしね。冬弥は普段何時に寝るの?」


僕がそう聞くと冬弥は少し笑って答えた。


「まちまちだな。夜は何かと忙しいからな」


笑いながらそう言った冬弥の言葉の意味を、半分寝ぼけている僕の脳みそはスルーしてしまった。冬弥という人間を知っていたのに……。

冬弥は時計をちらっと見ると、何か少し考えながら言った。


「まあ、少し早いけど……まあいいか!ちょっと待ってろよ。寝るんじゃないぞ?」


そう言い残して冬弥は部屋を出て行った。そして不思議に思う暇もなく戻って来た冬弥の手には水の入ったコップがあった。


「これお前の分な。そんで……」


僕にそのコップを渡した冬弥は僕を引っ張って部屋の隅にある収納の方に行く。そしてそこを開けて振り返った。振り返った冬弥越しに見えた収納には何も入っていない。


「お前は上の段な!俺は下を使うから。そのコップもここに置いとくといいぜ」


僕は訳が分からず、冬弥のいうがままコップを置いた。


「え?なにして……もうねるんじゃ」


「まあまあ、次はお風呂だ」


「え?風呂入った、冬弥?」


しっかりと僕の手を掴んだまま冬弥は意味不明の行動を続ける。風呂に行くという冬弥は、いつの間にか部屋にあったいわくありげなクマのぬいぐるみも持っていた。


風呂に来ると、少しだけお湯が残っている浴槽に持ってきたぬいぐるみを投げ込んでしまった。


「冬弥、なにしてんのさ。さっきからわけのわからない……」


ことを、と言おうとした僕の脳裏に引っかかるものがあって、僕は思わず口を閉じた。閉口するという言葉の意味を実践して知った。

そんな僕の様子を見て、冬弥はニヤッと笑う。


「いやあ、せっかくのお泊りだからさあ。このまま何もしないで寝るなんてことありえないだろ?夜はこれからだぜ逢介」


ものすごく楽しそうにそう言った冬弥は、何も言えないでいる僕を見て頷くと話を進めた。


「なあ、逢介。ひとりかくれんぼって知ってるか?」


「知ってるも何も、聞きたくないって言ってる僕に無理やり聞かせてくるのは冬弥だろ!じゃあ、やっぱり……」


嫌な予感が全開で押し寄せている僕に、指をぱちんと鳴らした冬弥は嬉しそうに頷いて言った。


「おうよ。しかもアレンジして、二人かくれんぼだな」


「アレンジしなくていいから!」


思わずツッコむ僕をまあまあとなだめるような仕草をして冬弥は言う。


「心配するな。ひとりかくれんぼは俺が実際にいろんなバージョンでやってみたけど何も起こらなかったから」


もう僕はドン引きしていた。この広い家に一人でいるくせに何度もそんな事をやってるのか……


「色々調べてだめだったから、今日で最後だ。お前がいて何も起きないんだったらガセだなと思ってさ」


「お前、人を何だと……」


「さすがにビビりのお前に一人でやれって言うのは酷だなと思ってさ。何か起きた時、俺も見たいし」


それ、後半のが本音だろ。


そんな心の中のツッコミなど届くはずもなく、冬弥は話を進める。


「ちなみに、隙を見てお前の爪と髪も切ってこの中に入れてるから」


さらっととんでもない情報を付け足した冬弥が見せたぬいぐるみにはお腹の部分に赤い糸で縫った跡があった。


「ちょ、冬弥……」


「だいじょぶだいじょぶ。お前は見てるだけでいいから」


そう言うと冬弥はぬいぐるみに、向かって言った。


「最初は俺たちが鬼な」


それを三回言うと、僕の手を引いて風呂場から出ていく。そして部屋まで戻ってきた時、僕は唖然とした。さっきまで一緒にテレビゲームをしていたでかいテレビが、アナログ放送でしかならないはずの、いわゆる「砂嵐」状態になっていたからだ。


さーっ……という音と、薄く部屋を照らす光が、さっきまでにぎやかに遊んでいた部屋を一気に不気味な世界に変えていた。


「何考えてんだよ。ひとりかくれんぼなんて……怖いに決まってるじゃないか!」


そう抗議する僕に冬弥はうんうんと頷く。


「そうだよな。やっぱり怖いと思う気持ちが霊を呼び寄せる秘訣なのかもな。俺みたいにすれてると霊も嫌なのかもな」


「こいつ聞いてない!」


頭を抱える僕を見て冬弥はケラケラと笑う。


「まあまあ、ちょっとした余興だよ。俺も一緒だからさ」


そう言って僕の肩をポンポンと叩く冬弥を見て、こいつやめる気はまったくないなと判断した。冬弥の性格は分かっている。下手に怖がって手順を邪魔するようなことをしたら、きっともっと怖い目に遭う。そう考えて僕は我慢して付き合うことにした。


「お、素直になったな。苦労してアナログ放送受信出来るようにした甲斐があったな!もういいだろ、行こうぜ」


僕の抵抗が弱くなったのを見て、上機嫌の冬弥はそう言って鼻歌を歌いながら浴室に向かう。そして湯船に浮かぶくまのぬいぐるみに向かって言った。


「くまたんみーっけ」


意外と可愛い名前つけてるな、とほっこりしていると、冬弥はどこから出したのかサバイバルナイフみたいなごつい奴で刺して、僕はそれを見て思わず噴き出した。


「ちょ、冬弥!普通カッターナイフとかじゃないの?」


「いやこっちの方がリアルかなぁって思って」


「何のリアルだよ!もう」


「まあまあ、そう昂奮すんなって。えっと、今度はくまたんの鬼な」


それを数回繰り返した冬弥は、口の前に人差し指を立てて喋るなとジェスチャーで伝えると、また僕の手を引いて部屋に戻る。そしてさっきの収納の所に行くと指で入るように指し示した。そしてこのために冬弥は収納に入れていた物を外に引っ張り出していた事にも気が付いた。


渋々中に入ると満足そうに頷いた冬弥は、同じ収納の下の段に潜り込む。その後カメラを起動させる音が聞こえたから動画も取ってるんだろう。


しばらく無言でじっとしていると、うろ覚えだったひとりかくれんぼのルールを少しづつ思い出してくるけど、元々嫌々聞いていたからあまり覚えていないことに気が付いた。


「と……」


思わず冬弥に話しかけようとして、踏みとどまる。さっき冬弥は喋らないようにしてここまで来た。浴室から少し離れたこの部屋まで来ても喋らずジェスチャーで伝えていた。


--え、喋ったらいけないんだっけ?


思い出せない!まさか自分が実行するなんて思っていないし、さっきなんて途中まで半分寝ぼけていたから冬弥にあらかじめ確認しておくなんて思考も働いていない。慌てる僕が身をよじった時、手がコップに触れた。

冬弥が渡してきたコップだ。水が入っていたっけ。…………これなんだったっけ。


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