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見える僕と見えない彼女 心霊奇譚  作者: こばん
第六話

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6-6 おいなりさん

「そっかあ……。母さんが。なんか、あれだな。親が友達にちょっかい出すって結構恥ずかしいな?テレビとかでそんな場面あるけど……俺初めて知ったよ」


少し照れくさそうに言う冬弥に、高橋さんが優しい笑顔を向けている。


「あー、分かる。うちのお父さんもおーちゃん来たら、出てこなくていいのに出てきて話しかける。そして、言わなくてもいいことまで言うから、ちょっとやめてほしい」


それに紗羅が同意して言う。確かにそういうところはあるかもしれない。


「なんか……照れくさいけど、高橋も飲んだし大丈夫だろ。逢介もコーヒー飲んで落ち着けよ」


そう言うと冬弥はソファの元の席に戻った。蒔子さんがいた所にちょっとだけ視線を向けてから……


僕も席に戻って、コーヒーを飲んでみた。ほんのり苦くてでも甘い優しい味だった。


「では、ごゆっくり」


そう言って高橋さんが部屋を出ていく。なんだかさっきよりも部屋の中の空気が和んでる気がする。


「ありがとな、逢介。母さんが見てくれるって知れて嬉しいよ」


冬弥が珍しく真面目な顔で言うので、僕は言葉に詰まってしまう。


「逢介のお姉さんみたいにさ、見守ってくれてるって思えるだけでも心強いよな!」


そう言って笑う冬弥に僕は頷いて返す。

それから思い出話などに花を咲かせていたらあっという間に時間が経っていた。


「いやあ、おいしかったねえ!」


夕食を終え、満足そうにあきらがそう言った。


「ふふ、あきらがいつもよりたくさん食べてた」


微笑みながら紗羅がそう言うと、あきらは少し赤くなりながら言い返した。


「し、仕方ないじゃん。おいしかったんだもん。冬弥くんいつもあんなもの食べてるの?」


話を逸らすためか、あきらが話を冬弥にふった。


「ん?ああ、うんそうだな。食べてる。でも、今日ほどおいしいって思わなかったな……やっぱりさ環境って大事なんだな」


真面目な顔で冬弥はそう言うと、あきらは「あっ」と言って済まなそうな顔をしている。冬弥はいつも一人で食べているって聞いたからだろう。そんなあきらに冬弥は噴き出すように笑った。


「いや、気にしすぎ!確かに俺は寂しい食事を毎日食べてるかもしれないけどさ、その分普通よりずっといいもの食べてるし、裕福な暮らしをさせてもらってるしな?だから気にすんなって。気になるんならちょくちょく遊びに来てくれればいいからさ」


冬弥がそう言うとあきらも少し安心したように笑った。


「失礼します」


「しまーす」


そんな事を話しているうちに、穂積さん達がワゴンを押しながら入って来て、僕たちが食べた後の食器を片づけ始めた。


「あっ!ありがとうございます」


あきらが慌てて立ち上がって、食器を運ぼうとするのを穂積さんがやんわり押し留めて椅子に座らせる。


「どうぞごゆっくり。私たちはこれが仕事ですので。お気持ちはいただきますね?」


そう言って笑いながら食器を回収していると、僕の前から食器を取っていた瑞穂さんが首を傾げた。


「あれぇ?これは……ね、穂積!これ」


そう言って一枚のお皿を見せていた。それを受け取った穂積さんがお皿をしばらく見つめて、真剣な様子で僕を見た。


「逢介さん。このお皿に乗っていた料理が何だったが覚えてますか?」


「ええ?そう言われても……」


食べたことがないような料理ばかり、しかもたくさんあったから……まてよ?皿の上にちょっと残った茶色の液体を見て思い出した。


「あ、おいなりさんだ。すごいおいしいおいなりさん。あげもごはんもおいしかったから覚えてる……ってどうしたのみんな」


穂積さんの問いに答えていたら、他のみんなが僕を見つめていた。ちょっとビクッとするからやめて欲しいんだけど……。

そう思っていると、冬弥が口を開いた。


「おいなりさんって……そんなもん今日のメニューになかったぞ?ってか、おかしいだろ。今日のメニューは全部洋風なものばっかりだったのに、なんでおいなりさんが出て来るんだよ」


「いや、知らないよ!僕に言われても……いつの間にか置いてあった……あれ?」


そういえばあのおいなりさん、いつ持ってきてくれたんだろう?食べたことがないような料理ばっかり出てくるから、次はどんなのが出るか楽しみにして見ていた。そんな料理の中においなりさんがあれば確かに目立つし違和感がある。


「え、え?もしかして……」


そう言って固まる僕を見て、冬弥はため息をつきながら高橋さんを呼んでいた。


「どうされました?何か料理に問題でも?」


すぐに来てくれた高橋さんは不安げにそう聞いてきた。少し来てもらうタイミングが悪かったかもしれない。


「いやいや、そうじゃないんだ。問題なんてなかったよ俺たちには……えっと何も聞かずに答えて欲しい。母さんが得意だった料理って分かるか?もしくはお客さんに出すような料理でもいい」


前情報を与えないようにして、冬弥が聞くと高橋さんは、眉を寄せながら少しだけ考えて答えた。


「奥様が料理を作るという機会はあまりありませんでしたし、お客様に出すなど……ああ、でも旦那様の友人で親しくされている方には、ちょっと摘まめるものをお出しすることもあったかと」


誰かがごくりと唾を飲む音が聞こえた。高橋さんが言うちょっと摘まめるものに、おいなりさんは該当すると思う。


「例えば?」


全員の視線が高橋さんに集まる。そして高橋さんは言った。


「サンドイッチとかでしょうか。旦那様はよくご友人とチェスをされてましたから、その合間に摘まめるように、と。どうかなさいましたか?」


その答えを聞いて力が抜けた。さっきのコーヒーのこともあって、また冬弥のお母さんが出したのかと思っちゃったからだ。みんなもどっと力が抜けたように笑っている。高橋さんだけが意味が分からず首を傾げている。


「ああ!思い出しました。ご実家で代々伝わるもので、いなりずしもよく作っておられました。少し当家で出すような食事とはイメージが違いますので、特別親しい方とか、心を許した方にだけお出しされてたようですが……どうかしまたか逢介さん。顔色が悪いですよ?」


「いえ、なんでもないです」


冬弥はもう言葉も出ないくらい笑って、僕の肩を叩いている。


「やっぱり逢介だな!」


◆◆◆◆


「おい、逢介。いつまでもむくれるなって」


風呂から上がってきた冬弥が苦笑いしながらそう言ってくる。この家にはお客さん用のお風呂やトイレまであって紗羅たちはそっちを使っている。何でも高橋さんや穂積さん達が使う使用人用のお風呂まであると言うから驚きだ。


「むくれてないよ。ちょっと考えてたんだ。よくよく考えてみたら嬉しいことだろ?友達のお母さんが特別な料理を作ってもてなしてくれたんだからさ。おいしかったし。ちょっと……怖いけど」


最後のセリフで冬弥は噴き出した。


「仕方ないだろ。いくら冬弥のお母さんだっていっても、幽霊なんだから……でもさ、実際嬉しい気持ちもあるしおいしかったけど、ちょっと悪いなって思ってさ」


「悪いって、誰にだよ」


頭を拭きながらそう聞いてくる冬弥を見ながら僕は言った。


「冬弥にだよ。食べた事ないだろ?お母さんの手作り……」


僕がそう言うと、冬弥は頭を拭いていた手をぴたりと止めて僕を見つめてくる。そして、なぜだかそのタオルを僕の頭にかぶせてきた。


「わっ!なんだよ、いきなり」


タオルを取ろうとしたけど、意外に強い力で押さえつけられていて取れない。そうしているうちに冬弥が話し出した。


「逢介、お前はやっぱりいいやつだな」


普段のからかうような声色じゃなくて、もう少し真剣な声だった。それを聞いて僕も動きを止めた。すると急にタオルが引っ張られて、目の前に冬弥の手があった。

デコピンの形で。


「いたっ!」


僕のおでこにデコピンした冬弥はいつもの様子で言った。


「お前はほんとに一緒にいて飽きないやつだな!」


いい位置にデコピンされて涙目の僕が睨むと、冬弥はケラケラと笑っていた。

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