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見える僕と見えない彼女 心霊奇譚  作者: こばん
第六話

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6-4 謎のコーヒー

冬弥の後について中に入る。短い廊下を進んで扉を一つくぐると広い部屋に出た。


「まぁ、気にせずくつろいでくれよ」


そう言って冬弥はキッチンらしきところに行った。


「ふわぁ……」


あきらが思わず声を出していた。二十畳くらいあるリビングは、高級感にあふれていて畳みたいな大きさのテレビや、その前に置かれたソファとテーブル。

壁側に置かれた棚にはなんだかよく分からない高そうな物や写真立てなどが飾られている。


テレビで芸能人とかが住んでいる部屋が映る時もあるけど、それと同じような印象を受けた。少なくとも中学生が一人で住んでいる部屋にはとても見えない。


……なにより、なんていうか冬弥らしくない。


僕にはそんな感想がまず浮かんだ。


「とりあえずこの部屋をメインに使って、後で寝室に案内するよ。二人ずつでいいよな?」


お盆にコーヒーを乗せて戻ってきた冬弥がテーブルに置きながらそう言って、紗羅達も頷きながらテーブルを囲んでいるソファに座った。僕も冬弥の言葉にうなずきながらソファに座ろうとすると、僕の前にもコーヒーが入ったカップが置かれる。


「あ、ありがとうございます」


反射的にそう答えて顔を上げると、動きを止めた冬弥と目が合う。


「お前、誰にお礼言ってんだ?」


「え?いや、コーヒー……えっ?」


冬弥にそう言われ、僕は気付いた。冬弥は僕の対面のソファに座ったあきらと紗羅の前にコーヒーのカップを置いている。無駄に広い部屋と同じく、テーブルも結構大きい。冬弥が僕の前にコーヒーを置くのは届かないから無理だし、何より冬弥は僕の前にいる。

ソファに座りながらだったら、僕の前にコーヒーを置いた人は、僕の横かそれより後ろから置いてくれたことになる。


それに、コーヒーを出してくれた人は黒い服を着ていた。ちょうどさっきメイド服の穂積さん達を見ていたから、僕はてっきり同じような格好をしたお手伝いさん的な人が出してくれたのだと思っていた。


「…………」


無言で周りを見渡す。


きょとんとして僕を見ている紗羅とあきら。訝し気な顔をしてボクを見ている冬弥以外に、この部屋に人はいない。つぎにその誰かが置いてくれたコーヒーに目を落とす。特に変わったところはない。淹れたばかりなのか、湯気が立ち上るコーヒーからはいい匂いが漂っていた。


僕はソファに腰を下ろそうとする中途半端な体勢のまま、何も言えなくなって顔を上げた。さっきまで訝し気な顔をしていた冬弥の目が、興味深そうに輝いていた……。


「おーちゃん、それ……」


冬弥の顔を見て、顔をひきつらせていると、紗羅がそう言って指を指した。……ボクの隣を。


そこにはいつの間にか僕と同じようにコーヒーカップが置かれていた。


「おいおいおい!なんだよ、さすが逢介!持ってんなあ」


冬弥がそう言いながら、ぐるりとテーブルを回り込んで僕の隣に座った。冬弥が持っていたお盆には、コーヒーの入ったカップが二つ載っている。多分、僕と冬弥の分なんだろう。……じゃ、これは?


段々と僕の顔から血の気が引いていくのが自分でもわかる。もう帰りたいと心の中の僕が泣きそうな顔で言っている。


「で?で?なんか見えたのか?すげーなぁ……。まさかウチでこんなことがあるなんて、盲点だったな」


僕とは真逆の、興味津々の冬弥はそんな事を言いながら僕とカップを交互に眺めては感心するような事を言っている。

再び視線を僕の前のカップに戻してよく見てみたけど、別に怪しい液体が入っているわけでも、血まみれのカップというわけでもない。きれいなお高そうなカップには、同色で気付かなかったけど花の模様が入っている。一方冬弥が持ってきたカップは、真っ白のカップだった。


「あれ?」


興味津々でまじまじと見ていた冬弥がそう言って何やら考え出した。これで昔面白がって仕込んでた仕掛けだった!とかってオチは……ないよなぁ。

とりあえず周りの様子を探りながら、そっとソファに腰を下ろした。中途半端な姿勢で固まっていたからか、太ももの筋肉が悲鳴をあげてるけど、今はそれどころじゃない。


「こ、これは……僕と冬弥に淹れてくれたってことでいいんだよね?」


とりあえず冬弥を巻き添えにしておく。謎のコーヒーを貰ったのが僕だけとか怖すぎるから。ところがそんな僕の企みは簡単に打ち砕かれてしまう。他ならぬ冬弥の一言によって。


「いや……この場合、一応俺はホストってことになるからさぁ。普通はこの位置に座るだろうし、そのつもりでいた。」


そう言って冬弥が指したのは、テーブルを囲むように配置されたソファの、僕や紗羅たちが座っていない辺のソファだった。お客さんをおもてなしする立場の家の主人は通常お客全員が見えて、まんべんなく気を配れる位置に座るものらしい。


「逢介が見たのはメイド服を着た腕だったんだろ?だったら俺の分をそこに置くのは変なんだよ。俺でも知ってるくらいのマナーだからなぁ。きっと高橋や多分穂積さんでもホスト席に置くと思う」


冬弥の言葉を全部聞いてしまわないうちに、僕は泣きそうになっている。そのせいで聞けなかった疑問を紗羅が代わりに口にした。


「じゃあ、おーちゃんの隣のカップは?」


そう聞かれ、冬弥は腕を組んであごをさすりながら言った。


「俺たち四人以外の誰か……だよな。それもその誰かはちゃんとお客さんとして認識されているってことだ。例えば俺が高橋を連れて、同じような家柄の家に行ったとするだろ?で、俺が同じようにソファに座ろうとする。するとその家のお手伝いさんは飲み物を出そうとするけど、それは俺の分だけで同じ席で高橋の分が用意されることはない。これも常識なんだ」


冬弥はそう説明するけど、そんな僕には一生使いどころのないような常識を知るよりも一刻も早く帰りたいんだけど……。


そう思っていたけど冬弥の話は続く。


「あと、それな。コーヒーの入ってるカップ。それ、俺んちのじゃないしな」


「えっ?」


それには紗羅もアキラも驚きの声をあげていた。僕?僕はもう喉が詰まって声なんて出ないよ……。


「冬弥くんの勘違い……とかじゃなくて?」


あきらがそう聞いたが、冬弥ははっきりと首を振る。


「うーん、あんまり好きじゃないんだけどさ、色々と面倒くさいんだよこ―ゆう世界。訪問したお客の立場とか地位によって、飲み物とか食べ物に使う食器のランクを変えるんだよ。大切なお客さんだったら高価な食器でもてなすとかな?俺は相手によって差をつけるのが嫌で、おんなじ食器を揃えてるんだ。だから間違いない」


冬弥は自信満々にそう言ったが、一応高橋さん達を呼んで聞いてみることにした。


「俺はそういうつもりでも、高橋たちが気を使って準備していた可能性もあるからな」


そう言って。


直接呼びに行くのかなと思っていたら、なんと各部屋に内線電話があるらしく、冬弥は壁のインターホンとかがまとまっている所で受話器を取って、高橋さん達に聞きたいことがあるから来て欲しいと伝えると、一分としないうちに高橋さんと穂積さん達がやってきた。


「何かききたいことがあるとか?」


いきなり呼び出されて、すぐに来たというのにまったく乱れた所のない格好と、当然と言った姿勢で高橋さんは冬弥に向かってそう言った。


「いきなり悪いけどさ、ちょっとそれ見て」


と、冬弥が僕の目の前にある二つのカップを指すと、高橋さんはツカツカと僕の所まで来ると「失礼します」と一言言ってカップを手に持った。


そして穂積さんにも見せたあと、高橋さんは言った。


「このコーヒーカップ、それと……おそらく使われたコーヒーの種類もこの家のものではないですね」


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