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見える僕と見えない彼女 心霊奇譚  作者: こばん
第六話

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6-2 共通の趣味とコンシェルジュ

僕はトレーニングルームでクスクスと笑うおねーさんの視線を振り切るように、反対側へと視線を向けた。


早く中に入りたいんだけど、冬弥がまだ戻ってこない。冬弥は中で待つように言ったけど、オートロックだから入れるわけがないんだ。


冬弥がまだ戻ってこないのを見て、僕は玄関ホールの左側を見てみた。

トレーニングルームを見ると、またおねーさんに笑われそうだったからだ。


……さっきから、何か気に入らなかったのか紗羅が僕の肩のところをパシパシとパンチしている。

痛くはないんだけど、さっきのおねーさんが微笑ましそうに見ている気がするから……。


「ほら、紗羅。見て見て!こっちの方はロビーになってるよ。まるでホテルみたいだよね」


僕がそう言うと紗羅はしぶしぶ手を止めて、視線を向ける。

玄関から見て左側は四人がけのテーブルとソファのセットがいくつも置かれていて、くつろげる空間になっていた。

奥には自動販売機もあり、今も数人の人が座って本を読んだりしている。


そして、そこを緊張した様子で歩いてくる知りあいも見つけた。

やがて自動ドアが開いて、早歩きであきらが出てきた。


「なんか緊張したよ!すごいきれいだし、ホテルみたいで本当にボクが入っていいのか、ドキドキしたよ!」


出てくるなりそう言ったあきらは、僕たちの所に来るとようやく安心したようにため息をついた。


到着した時、トイレに行きたいと言うあきらに、冬弥が「あそこにあるよ」と教えてくれたんだけど、勝手に入っていいのかと動揺しているうちにさっさと行ってしまったのだ。

トイレに行きたいあきらは仕方なく、俯いて誰とも視線を合わせないようにして行ったくらいだ。


「中もすごいきれいだった。なんか見たことないボタンとかあって、どれを押したらいいのかわかんなくって……ボク変なことしてないよなぁ」


トイレの中も普通とは違ったみたいで、あきらは不安そうにトイレの方をチラチラと見ている。


冬弥は中で待つように言ったけど、結局玄関の外で三人固まって話していると、自動ドアの開く音がした。


「ねえ、君たちここの住人に用があるの?」


と、声をかけられた。


その声に振り返ると、さっきトレーニングルームで目が合ったおねーさんだった。


ギュッと僕の袖を掴む紗羅の力が強くなるのを感じながら僕は返事をした。


「あ、えっと……僕たちはここに住んでる冬弥……えっと倉田くんの友達で」


大学生くらいだろうか。大人のお姉さんに僕は緊張しながらそう言うと、おねーさんは視線を上に向けて考えている。


「倉田?蔵田くらた……そんな人いたっけ?君たちの同級生?ああ!もしかして君たちここのオーナーの知り合い?」


ようやく答えに辿り着いたおねーさんは、少し意外そうな顔をしてそう言った。


「あ、はい。多分それの友人です」


そう言うとおねーさんは嬉しそうに笑いながら言う。


「そっかそっか!オーナーとは私も趣味が合ってよく話すんだよ。私、美咲っていうの、気軽に話してね!」


趣味が合って、の趣味の部分が気になるけど、僕は愛想笑いをしながらスルーする。

美咲さんは気さくな性格なのか、距離が近い。


僕にはちょっとドギマギする距離だ。……あと地味に紗羅が掴んでる腕が痛い。


僕の表情に、何か察したのか美咲さんの視線が、僕と腕を掴んでいる紗羅をなぞる。


「ふんふん。ほうほう!いいね、若いって」


そう言って僕の背中をバンバンと叩くと、少し離れてあきらの肩を組んだ。


「ねぇねぇ、君は?誰かいないの?」


「え、ええっ?なんの話ですか、ボクは特に……」


よくわからない話を投げかけられて、あきらは戸惑いながらそう言っている。


そかそか、ボクっ娘かぁ!と、機嫌良くあきらを見て、あきらの混乱を更に深めている。


……冬弥と気が合うというのが少し分かる気がしてきた。この人、まるで冬弥みたいだ。勢いとノリが……。


今はあきらを相手に楽しそうに話している。その姿と、僕のお姉ちゃんの姿がなんだかかぶって見えた……。


隣を見るとさっきまで少し機嫌が悪そうだった紗羅が、今はなんだか眩しいものを見るような目で美咲さんを見ている。


「ねえ、紗羅。雰囲気的に美咲さんって冬弥に似てると思うんだけどさあ。なんとなくお姉ちゃんが生きてればあんな感じなんじゃないかなって思わない?」


僕がそういうと紗羅は頷くのをためらって、少し考えて結局頷いた。


「ちょっと悔しいけど、わかる。あの人の話聞かなそうな強引さとか、そっくりだと思う」


そう言いながら二人で笑っていると、建物の裏の方から冬弥と高橋さんが歩いてきた。


「あれ?美咲さんじゃん。また講義さぼったの?」


気やすい様子で冬弥が話しかけると、美咲さんもまた気やすい感じで応じる。美咲さんが言うように親しい間柄なんだろう。


「ばか、いつもサボってるように聞こえるでしょ!」


美咲さんはそう言うとあきらから離れて中に戻ろうとしている。

冬弥が来た途端戻ろうとする美咲さんを見て、僕はようやく気づいた。


多分冬弥が来るまで一緒にいてくれたんだろう。


そういえばここのマンションセキュリティがしっかりしているって冬弥が言ってたのを思い出した。僕たちだけでいたら、怪しく思われて警備員さんが来てたかもしれない。


あきらに手を振って、玄関をくぐる前に僕と紗羅にも軽く手を振ってくれたので、僕は軽く頭を下げてお礼を言っておいた。


「わざわざ一緒にいてくれてありがとうございました」


すると美咲さんは嬉しそうな顔をしてもう一度手を振ってから中に入っていった。


「おーちゃん、わざわざってどういうこと?」


紗羅が首を傾げて聞いてくる。僕がさっき考えていたことを話すと、紗羅はハッとして周りを見る。すると車で入ってきたから気づかなかったけど、正門のところに小さな詰め所があって警備員さんが立っている。しかも僕たちの方を注意して見ているようだから、美咲さんがいてくれてよかったのかもしれない。


「美咲さんがどうかしたか?」


隣に来て冬弥がそう言うから、同じように話すと冬弥も頷いた。


「悪い、俺がちゃんと言っとけばよかったな。一階のエントランスで待っててくれると思ってたんだよ」


やはり冬弥は中に入ったところで待つように言ったつもりだった。


「お前……庶民には抵抗があるんだよ!」


冗談めかして言うと、紗羅やあきらも笑いながら見ていた。


それから僕たちは冬弥の案内で中に入ると、まずは冬弥の言うエントランスに連れて行かれた。


「次に来た時に、同じようなことがあると面倒です。管理人と顔合わせしておけば安心でしょう」


と、高橋さんが言ったからだ。


「やあ!おつかれさん」


中学生が大人の、それもしっかりと制服を着込んでシャキッとしている人に軽い感じで話しかけるのは、すごい違和感があったけど、お互い普通にしているのを見るといつものことなんだろう。


「これはオーナー。おかえりなさいませ」


白髪の落ち着いた感じのおじさんは、冬弥に向かって丁寧にお辞儀をした。


「今日は友人を連れてきたんだ。これから来ることもあるかもしれないからさ、長崎さんにも会わせておこうって思ってね」


冬弥がそう言うと、長崎さんと呼ばれたおじさんは柔らかい表情で僕たちを見た。一通り見ると僕たちにも丁寧に対応してくれた。


「そうでございますか。オーナーのご友人とあらば失礼がないようにしないといけませんね。わたくしは当マンションのコンシェルジュとして勤めております長崎と申します。何かお困りの際はどうぞお声をかけてくださいませ」


「ど、どうも。コンシェルジュ?」


長崎さんにお辞儀した後、聞き慣れない言葉に僕は冬弥の方を向いてそう尋ねるのだった。

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