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見える僕と見えない彼女 心霊奇譚  作者: こばん
第六話

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6-1 友人宅訪問

「お邪魔しまーす」


「お、お邪魔します」


扉を開けて気楽な様子で中に入る僕と、対照的に緊張した様子で中に入ってくる穂積さん。


当然だろう。同じ場所ではあるのだが、かたや友人の家でかたやこれから働く職場なのだから。


ここに来るまでにだいぶ驚かされたけど、冬弥の部屋に入っても僕は驚きの声をあげていた。


「そんなたいしたことないだろ?普通のマンションだし。まぁ、親とかがいるわけじゃないから、何も気にしなくていいから。あがれよ」


驚いてずっと口が開いたままの僕の横を、冬弥はそう言いながら通り過ぎて行った。

どうして僕たちが冬弥の部屋にいるのかというと、今日の朝に遡る。


◆◆ ◆◆


今朝、凪鹿島のペンションで一晩明かした僕達は、結局朝になると同時に帰ることになった。

穂積さん達の処遇もあったし、冬弥も何かに当てられて一時期は意識をなくしていたのだから、一度戻ってきちんと診察を受けるべきと高橋さんが強硬に主張したからだ。


その高橋さんの強硬な姿勢に、さすがの冬弥も宿泊を強行することはできなかった。

その代わりに高橋さんが出した代案は、今回の合宿の予定だった三泊四日を、冬弥の家に泊まって学生らしく楽しめばいいじゃないかというものだった。


「ちぇー、せっかくの事故物件宿泊イベントが……」


と、冬弥はしきりに残念がっていたが、僕はとても気が楽になっていた。


「まあまあ冬弥、また機会があるさ。それよりも冬弥の家は一度遊びに行きたいって思ってたから、僕は嬉しいよ」


「そうか?うちに来ても楽しくもなんとも……まぁいいか。逢介がそう言うなら……」


僕がそう言うと冬弥も悪い気はしないのか、今はみんなで楽しめるようなものがないか考えている。


……ゲーム、は一人用しかないな。やるとしたらボードゲームくらいか。あとは、蒲生がいるから、トレーニングルームで運動してもいいな……。あっ!いい機会だからあれやってもいいな!


などと、ぶつぶつと呟きながら帰り支度を始めた冬弥を見て、高橋さんは胸を撫で下ろしている。


「助かりました逢介さん。ああ言ってくれなければ、冬弥さんも簡単には帰ることを納得してくれなかったでしょう」


こっそり僕にそう言ってきた高橋さんににっこり微笑んで返す。

僕だって好きこのんで事故物件なんかに泊まりたくないから、高橋さんの意見は願ったり叶ったりだったりする。


今頃は紗羅達も帰る準備をしているはずだ。

そんなことを話していると、僕たちがいる食堂の扉が開いて、メイド服を着た穂積さんと瑞穂さんが入ってきた。


「持ち込んだ食料などは、すべて車に乗せ終わりました」


「ましたぁ」


早速お手伝いとして動いている穂積さんは、持ってきた食材などをまとめて車に移動していたみたいだ。

穂積さんの後ろに付き従って、瑞穂さんもそう言った。


「ご苦労様です。では朝食を作るために使用した物や、朝食の余りの食材もそこにまとめてあるので、移動をお願いします。それが済んだらお二人もテーブルについて朝食にしてください」


高橋さんがそう指示すると、穂積さんは両手をお腹の前で合わせ、姿勢を正すと「承知いたしました」と、きちんと言い終わってから一礼した。


最初に高橋さんから指導を受けていた正しいおじきのやり方らしい。男性と女性では少し違うようだ。


僕も社会人になったら、そういうことを叩き込まれるのかなぁ。

なんて、まだ先のことを考えていると紗羅達も食堂に入ってきた。


「ほら、姉さんそっち持ってくれる?」


「うん、任せて!」


そう言いながら、二人で大きめのコンテナを持つと、食堂から運び出して行く。

瑞穂さんも自分で判断するのは難しくても、穂積さんが指示を出せば簡単な作業ならできるらしく、二人で協力してやっている。


「おはよう!」


穂積さん達に手を振って見送ったあと、テーブルについた紗羅とあきらだったが、少し様子が変だ。


「よっ、おはようっ!」


それには気づかなかったのか、冬弥はいつも通りの感じで挨拶をしていた。


「おはよう二人とも。ね、なんか機嫌悪い?」


なんとなくそう思って僕が聞いてみると、紗羅とあきらは顔を見合わせたあと、こっちを向くと苦笑いになっていた。


「え?なに、機嫌悪いの?」


やっぱり気づいていなかったらしく、冬弥は少しびっくりしたようにそう聞いている。


「いや、機嫌悪いってほどじゃないんだよ。ただちょっとね?」


あきらはそう言って言葉をにごす。


「はっきり言った方がいいですよ?冬弥さんは何も気づいていないようなので」


二人の分のパンとコーヒーを運んできた高橋さんが、それを二人の前に置きながらそう言った。

少しだけ困ったように微笑むあきらと紗羅だったけど、高橋さんにもう一度促されて、遠慮がちに言い出した。


「その……やっぱりさ。お風呂も使えないし、顔も満足に洗えないのはちょっと……ね?」


「うん。これがキャンプだとまぁ分かるし、私達も準備するけど、ペンションって聞いてたから」


あきらと紗羅がそう言って、冬弥はハッとして済まなそうな顔になった。


僕も悪かったな、と思う。

僕は冬弥の性格がわかってるから、思い立ったら即行動の冬弥が、それまでずっと売り物件だったペンションのライフラインの手配なんかしていないだろうと分かってたけど、二人はそうとは思わず、ペンションなら最低限のライフラインはあるだろうと思ってたんだろう。


実際は購入を決めて手続き、名義の変更とカギをもらってすぐに合宿。みたいな流れだったから、間に合ったのは電気だけで、ガスも水道も使えない。


高橋さんが持ち込んだ水のタンクとカセットコンロが使えるくらいだから、二人はお湯を沸かして体を拭くくらいしか出来なかったし、朝の身支度も不便だったらしい。


「いや、ボク達も確認しなかったのがいけないんだし、キャンプだと思えば、屋根と壁があってベッドで寝れるだけいいんだけどね」


あきらがフォローするように言うが、冬弥は眉を下げて謝った。


「高橋、悪いけど……」


「すでに連絡して、ついたらすぐ入浴できるように手配してます」


冬弥の言いたいことが分かっていた高橋さんは、すでに手配してくれているようだった。

そんなこんなで、そのペンションでは一泊して朝食だけをとって、僕たちは帰路についた。



「ふわぁ……」


「むぅ、すごい」


初めて来た冬弥の家は、本当に個人の持ち物なのか疑うレベルで、大きくきれいだった。


「どうしたんだよ?中に入って待っててくれよ」


そう言うと冬弥は車から降りずに、裏手にある荷物の搬入用エレベータの方に行ってしまう。


玄関のところからは、オートロックの操作端末や部屋ごとのボタンが見える。

エレベーターホールからは、更に左右に通路が伸びている。

右側に視線を向けると、広いスペースに色々な器具が並べられていて、ここが冬弥の言うトレーニングルームなんだろう。


広い面積がガラス張りになっているので中がよく見える。今も歩くための器具だろうか、それに乗って運動をしているおねーさんと目があって、ニコッとして手を振られた。


愛想笑いをしながらお辞儀をして目を逸らすと、じとっと紗羅が見ている。


紗羅は僕とおねーさんを交互に見ると、「おーちゃんはああいう人が好み?」と聞いてくる。


「いや、そんなんじゃないよ!目が合って手を振られたから……無視したら感じ悪いでしょ?」


慌てて弁解する僕を見ていたおねーさんはクスクスと笑っていた。



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