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見える僕と見えない彼女 心霊奇譚  作者: こばん
第五話

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5-4 異変の始まり

「冬弥さん、持ち主の話にも不動産屋の話にもこのような鏡台のことはありませんでした。苦情を申し立てて合宿も別の場所で改めてやるのがいいかと。まだ下の部屋もありますし、この状況は不穏です」


興味深々の様子で三面鏡を眺める冬弥に足早に近づいた高橋さんがそう言って、合宿の中止を薦める。

確かに、これだけ不気味な物があるのに、放置しておくのも変だし、悪趣味すぎる。


ちょっと怪談や怖い話が好きな人なら誰でも知ってるような有名な話に出てくる物とそっくりに作ってある。誰がしたのかわからないがまともな思考じゃないし、高橋さんが言う通りだと思う。


「いやぁ……でもなぁ、こんなものなかなか見れないしなぁ」


明らかに興味を三面鏡に持って行かれている冬弥の返事が渋いことに、高橋さんはため息をついている。


「冬弥さん!」


少し強めに呼ばれ、冬弥が高橋さんを見る。そして、高橋さんと三面鏡を交互に見ている。


「冬弥さん。お友達の安全を考えるべきです」


語気を強くして、高橋さんがそう言うと、冬弥は僕たちの方を見て残念そうに言った。


「わかったよ……。じゃあ一階の鍵を壊して中を確認してからクレームだな?」


そう言って三面鏡から離れる冬弥を見て、高橋さんはホッとしている。


作り話だと思うけど、物語では鏡台の引き出しに見てはいけないものが入っていたはずだ。冬弥なら嬉々として確認しかねない。僕もドキドキしながら見ていたくらいだ。


冬弥が引き出しを開けなかったことに高橋さんはホッとしているに違いない。


再び僕たちは階段を降りて一階に来た。冬弥は生き生きとあきらにその怖い話の概要を語っている。


「あれ……?」


廊下を歩いて、角を曲がった先。さっき開かなかったドアがちょっと開いていて僕の目の前でパタンと閉じた。

そう見えた。


 ……いや、見間違いだろう。


そう考えて、まぶたの上から目を揉んでいると、隣の紗羅がポツリと言った。


「おーちゃん……今、扉開いてたね?閉まった気配があったよ?」


無情にも、見間違いではなかったことを告げられた……。なにこの子。目が見えないのになんでそんなに鋭いの……


「なになに?開いてたって?」


ワクワクした顔でそう言う冬弥に、僕と高橋さんのため息が重なる。


「どうしてそんなに嬉しそうなんだよ。明らかに異常事態だろ?」


うんざりしながらそう言うと、冬弥は目をぱちくりとさせて言う。


「何言ってんだ。その異常を求めて来てるのに」


だめだ!こいつはもう手遅れだ。


「なんとかしてください高橋さん!」


僕は助けを求めて高橋さんを見る。すると高橋さんは、さっきの僕とおんなじポーズを取っていた。

疲れたようにまぶたの上から目を揉んでいた。


結局高橋さんも、冬弥を止めることはできなかった。


「クレームを入れるにしても、状況を正しく理解する必要がある!」


そう頑強に主張する冬弥。間違った事は言ってないだけに、高橋さんも強く止めきれなかった。


そして、おもむろにドアノブを握って……


「開かねぇ……。本当に開いてたのか?」


僕を見て、疑わしそうに言いながらポケットから鍵を出そうとしていると……


がちゃっ


ドアが開いた。向こうから……


「は?」


さすがに呆気に取られている冬弥の目の前でゆっくりとドアが開いていく。


ぎぎぎぃ……


「冬弥さん!」


高橋さんが冬弥を引っ張ってドアから離す。でも視線はドアの方を向いている。

薄暗い部屋の様子が見え始めて、ひんやりとした空気が流れ出てくる。


それと同時に……


ひたひたひた


全身の毛が逆立った気がした。裸足で床を歩く音が部屋の奥から聞こえてきた。



「皆さん一度離れましょう!」


高橋さんがそう叫ぶと僕は冬弥を押しつけられる。高橋さんは僕たちの前に立ち塞がって逃そうとしたみたいだけど、それは叶わなかった。


急に殴りつけるような雨が降ってきたかと思うと、物凄い雷の音と同時に、照明が消えてしまったからだ。


「きゃああああ!」


誰かの悲鳴が響いた。あたりが暗闇に包まれ、よく知らない場所で動くこともできない。


「早く中に入って!」


すると誰かの声が聞こえ、勢いよく手を引っ張られた。


「こっち!」


その声の主はそう言って、全員をさっきまで開かなかった部屋の中に入れた。


ばたん!


勢いよくドアが閉じられると、しばらくして廊下の明かりが明滅して電気が復旧した。

僅かに漏れてくる光でみんなひとかたまりになっていることは分かった。


僕は慌てて周りを見る。冬弥は僕が手を握っている。紗羅とあきらはお互いに抱きつくようにしていた。あきらは不安げに、紗羅は辺りを警戒して。


そして高橋さんは……知らない女の子と向き合っていた。


ドーン


激しい稲光りがして、すぐに落雷の音が響く。さっきまで静かだった夜が、突然の雷雨と風で嵐のような様相に変わっていた。


「冬弥?」


僕は状況が掴めずに、辺りをきょろきょろしていたけど、ふいに冬弥の様子がおかしい事に気がついた。

こんな状況になれば何か反応するはずなのに、うつろな視線を部屋の暗がりに向けたままぼーっとしている。


「どうしたんですか?逢介さん!」


高橋さんが焦った声で聞いてくる。知らない女の子向き合って警戒したままで……


「わかりません。そのなんかぼーっとして……」


それを聞いた高橋さんが歯噛みする。普段から冷静な高橋さんも冬弥の身に異変が起きていると聞くと、さすがに焦っている。


「何者でしょうか?ここは倉田さまの所有する物件だ。あなたのしている行為は不法侵入に他ならない。警察に通報して然るべき処理をさせてもらう」


僕たちや冬弥には、決して見せないであろう冷たい態度と有無を言わせない口調でそう言うと、その前にいる女の子は明らかに狼狽えだした。


「所有者?うそ、ここはずっと売れてないって……」


そう言う女の子に固い口調のまま高橋さんは言う。


「仮にそうであっても、売主が所有者だ。ここが廃屋だったとしても、ほとんどの場合持ち主がいる。勝手に入っていい道理はない」


追い詰めるように言う高橋さんに、女の子はグッと言葉を飲み込んで黙る。


「どうしたのぉ?」


突然場違いな口調の声が暗がりから聞こえる。同時にさっきも聞いた裸足の足音。

ひたひたと音が近づいてきて、廊下から漏れてくる灯りの中にまた違う女の子が姿を現した。


「そんなに怒っちゃいや。お母さんが泣いちゃう」


そして、険しい顔をする高橋さんに向かってそんなことを言った。


「ちょっと、出て来ちゃだめ、姉さん!」


驚いたことに目の前の女の子たちは姉妹らしい。しかし、高橋さんの態度はますます険しいものになっていく。


「お母さん?母親もいるのか!……何てことだ。とにかく通報させて頂く。事情はそちらに話しように」


そう言って高橋さんはスマホを取り出す。

最初の女の子は、姉さんと呼んだ子を庇うように引き寄せながら、スマホを取り出した高橋さんを見て、「あっ……」と手を伸ばしたが、すぐに俯いてしまった。


「……つながらない。この嵐で通信に問題が出てるのか?」


そう言いながら、高橋さんはスマホを操作するがかからないようだ。

すると高橋さんは女の子たちを見て、厳しい口調で言う。


「暴れたりおかしなことをすれば、容赦なく取り押さえる。そこでじっとしていろ」


そう言うと、女の子たちを警戒しながら僕たちのところに来た。


「このようなことになり、申し訳ありません。お叱りは後ほどいくらでも……。今は彼女らをどうにかしないといけません。皆さん恐れ入りますが警察に電話して頂けますか?私のスマホは使えません、どなたか使えないでしょうか?」


そう言われて、僕たちはスマホを取り出した。確認すると電波はある。


「僕が……」


そう言って110をタップして発信を押す。プップッと繋がる前の音がして……無音になった。

いつもなら呼び出し中の音になるはずが、無音のままで画面には呼び出し中の文字。


「もしもし?」


耳に当て一応そう言ってみたが、なんの音もしない。


「僕のもダメみたい」


僕がそう言うと、紗羅がかけようとする。でも、紗羅もその後に試したあきらも繋がらなかった。


高橋さんを見て首を振ると、高橋さんは険しい顔のまま女の子たちに視線を戻す。


妹らしきほうがビクッと肩を震えさせる。姉の方はぽやっとしていている。


「妙な真似をしなければ手荒なことはしないが、こちらの警告に従わない場合は容赦はしないから、そのつもりで」


そう言われて、妹の方はガックリと肩を落とした。


そして高橋さんは僕が手を握っている冬弥の前に膝をついて視線を合わせて話しかけた。


「冬弥さん、冬弥さん!」


そして、顔の前で指を振ったり、熱や脈などを確認してため息をついた。


「……見たところ身体に異常は見られませんが、ここでは詳しくはわかりません。ひとまず部屋で休ませて……すみません皆さん、冬弥さんをお願いできませんか?私はここで見張りを……」


「待って!部屋の外には行かない方が!」


その時、妹の方が叫ぶようにそう言った。


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