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見える僕と見えない彼女 心霊奇譚  作者: こばん
第五話

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5-3 まじない

ペンションの中に足を踏み入れると、僕は思わず身震いした。真夏の炎天下の中、空調もつけずに放置されていたにしては、ひんやりとしていたからだ。


「おーちゃん、どう?」


入るなり紗羅がそう聞いてくる。そちらを見ると、紗羅だけじゃなくあきらも聞き耳を立てている。


「今のところはあまり強いものは感じない。この建物に憑いているのはいなさそう。紗羅は?」


「んー、私も変な感じしない、かな?……よかった!」


そう言うと紗羅はにへらっと笑って女子用に割り当てられた2階の部屋に荷物を置きに行った。


「……」


普段と違う環境にいるからか、さっき見せた紗羅の笑顔にはドキッとしてしまった。


落ち着かせながら、一階にある男子部屋に入ると、難しい顔をした高橋さんと、何か紙を見ている冬弥がいた。


「どうしたの?」


僕が聞くと、冬弥は見ていた紙をヒラヒラと振って見せると「大したことじゃないよ」と、言う。

その割には高橋さんの顔が深刻なんだけど?と、無言で圧をかけると、冬弥は僕も高橋さんを交互に見てからポリポリと頭をかいた。


「いや、本当に大したことじゃないんだよ。この前高橋たちにこの建物の掃除を頼んだんだけどさぁ」


冬弥がそう言うとますます高橋さんが恐縮しだす。さっきの浮遊霊はその時に憑いたんだろうなと、思い返していると冬弥が話を続ける。


「なんかその時に開かない部屋が何箇所かあったって今頃言うんだよ」


そう言って冬弥は困ったように眉を下げる。高橋さんは雇用主の冬弥の前では普段見せる毅然とした態度はなく、上司に怒られたみたいに肩を落としている。


「確かに報告書に残していたのを私も確認しました。それなのに冬弥さんに届いていないというのが不可解で……」


高橋さんが困ったようにそう言う。いきなり怪しい雲行きに僕の眉も下がっていく。


「いや、開かないなら別に開かなくてもいいんだよ。部屋はたくさんあるし、寝室とゲストルームだから」


冬弥はそう言うが、高橋さんとしては使えるかどうかよりも、報告が行ってなかったことの方が問題なんだろう。


そう言うと、それはそうか。と冬弥は納得したように言って、高橋さんは少しホッとした顔をする。


「冬弥さん我々はホストとして、逢介さんたちの安全が最優先です。トラブルなく終えるためにも確認は必要です。万が一何者かが隠れたりしていたら……」


ようやく理解してくれたと言わんばかりにそう言う高橋さんに、冬弥は困った顔になって手を上げた。


「わかったわかった!確認すればいいんだろ?高橋達に渡していた鍵では開かなかっただけかもしれないし、俺の持ってるマスターキーで開かないなら鍵の故障だ。壊してでも入って確認して、使わないならいいだけだ」


そう言うと冬弥は立ち上がった。


「ってわけだ。確認しに行こうぜ逢介」


「……なんで僕まで」


嫌そうな顔をした僕に冬弥はニカっと笑って言った。


「こーいうのは毒くらわば皿までってんだ」


そう言うと僕の首をがっしり腕でホールドした。


--自分で毒って言ってるし……


ため息をつきながら僕も立ち上がる。冬弥の後ろで高橋さんが申し訳なさそうにしているのを見ていられなかったからもある。


「どーしたの?おーちゃん」


開かない部屋は一階と二階に一つずつ。まずは一階をと向かっていると、女子組は台所を見に行ったのか、キッチンの方から出てきた。今日は紗羅とあきらが食事を作るらしいので、密かに楽しみにしている。


「ってわけで、僕たちの安全のためにも確認しに行くところ」


僕が説明すると、紗羅は「ふーん」と興味なさげだったが、僕の腕に絡みついてくる。


「紗羅さん?」


「おーちゃんは持ってる。普通はちょっとありえないことを引き寄せるから一緒に行く」


「その言い方だと、普段から僕がトラブルを引き寄せてるみたいじゃないか!」


と、異議を申し立てると紗羅はじっと見てくる。


まるで「違うの?」と言わんばかりの視線に負けて、紗羅の好きなようにしてもらうことにした。


「こっちです。こちらも客間が並んでるのですが……」


そう言って高橋さんが案内してくれた部屋は、僕たちが使う部屋の反対側だった。

この建物は横に広い。正面の入り口は中央にあって、そこに二階に上がる階段と左右に廊下が伸びていて、正面はリビングとダイニングにキッチンが並んでいる。洗面、お風呂も同じ並びだ。


そして端まで行くと廊下が折れて、ゲストルームが左右に二部屋ずつある。

僕たち男子部屋は正面から見て左側のゲストルームの一部屋で、問題の部屋は右側のゲストルームのうちの一部屋らしい。ちなみにその隣は高橋さんが使うらしい。


「本当だ……開かないな」


冬弥が鍵を差し込んでガチャガチャやってるが、鍵は回らない。冬弥の持ってる鍵はこの建物のマスターキーだから、これで開かないなら、壊れているようだ。


「どうします?叩き壊しますか?」


高橋さんがそう聞いてくる。冬弥は少し考えて、「先にもう一つの方を確認しとこう」と言った。


高橋さんはそれに頷くと先に立って案内しだす。それについて行く冬弥。僕も行こうとして、なんとなく気になって開かなかった扉を見る。


クラシカルな鍵穴から、妙に嫌な雰囲気と人の気配を感じる気がして、僕は少し震えながら冬弥の後を追った。


もう一つの部屋は二階らしく、正面玄関の前にある大きな階段を登り出す。

完全に洋風な造りのこの建物は、二階の正面の部屋は広いホールになっている。

お客さんを招いてパーティをしたりする時に使うんだろう。念のため中を確認したけど、広い空間に椅子を上げたテーブルがいくつもあって、広いだけに薄寒い雰囲気だった。


そのホールの両端には寝室がゲストルームと同じように二部屋ずつ並んでいて、紗羅達が使う部屋はホールを正面に見て左側の一部屋、つまり僕たちの部屋の真上らしい。


そして、開かない問題の部屋も一階の開かなかった部屋の真上の寝室だった。


「おろ、開いたぞ?」


しかし、二階の部屋は冬弥の鍵で簡単に開いた。それを見て高橋さんが少しだけホッとした顔をしている。


「うおっ!」


ドアを開けた冬弥がびっくりした声をだす。何事かと思って中を覗いてみんな言葉を失った。

反対側の部屋は陽当たりもよく、明るい雰囲気だったのに方角が悪いのかこっちの部屋は薄暗く、どこかじめっとしている。


うっすらと埃やカビの匂いが漂う部屋の中央にそれはあった。


洋風の建物に似合わない、昭和の日本にありそうな三面鏡。それが部屋の真ん中にある。

気持ち悪いのは、その三面鏡の椅子に細工がしてあり、細い棒が取り付けてあり、棒の先には長い髪のカツラがかぶせてある。

ちょうど人が椅子に腰掛けたらその位置に頭がくるであろう高さにあるから、わざとそうしてあるんだろう。


見ただけで、背中がゾクっとする光景にみんなが息を呑み、冬弥が声を上げた。


「見てみろよ!これ、怖い話で読んだことあるぞ?有名な話だよ。なぁ?」


そう言って嬉しそうに僕に言ってくる。僕はうんざりしつつ頷いた。


「よく知ってるよ。嫌がる僕にしつこく聞かせてきたのは冬弥だからね!」


半目になって嫌味を言うが今の冬弥には届いていない。冬弥はもう中に入って、その気味の悪い三面鏡を眺めていた。


--たしか、母親が儀式のために産んだ娘を使ってまじないをするんだったっけ。詳細は覚えていないけど、理由も結論もよくわからない気持ち悪い話だった記憶がある。


「まじない……」


嫌な顔をしている僕の隣でポツリと紗羅がそう呟いた。

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