5-1 強化合宿
凪鹿島と言う所がある。
僕たちが住む街から程近い場所にある、海岸沿いの自然の豊かな場所だ。
島といっても完全に離島ではなく、橋で繋がっている。
避暑地として利用されたり、シーズンになると、観光や海水浴などで人も多く訪れる人気のある場所だ。
特に沿岸に広がる砂浜の近くには、たくさんのペンションが建っていて、お金持ちの人が避暑地として利用しているそんなイメージの場所だ。
なぜ、突然凪鹿島のことを説明したかと言うと……
数日前の学校での部活での話になる。
「……まーた、お前たちだけで楽しそうなことして」
むすっとした顔でこっちを見る冬弥。そんなこと言われても、別行動したのは冬弥が自分で調べ物するって言ったんだし、僕のせいじゃないはずだ。
「あきらの夢といい、今回といい……よし!お前らがその気ならこっちにも考えがあるからな!」
勝手に言いたいことを言って、冬弥は部室を飛び出して行った。
「ええ……」
止める間もなく呆然とそれを見送る僕と、苦笑いしているあきら。紗羅は何かご機嫌なようで、僕の足の間に座ってゆらゆらと揺れている。
「なんかとんでもないスポットとか、持ってこないといいけどねー」
あきらが冬弥が出ていく時に開け放して行った扉を閉めながらそう言った。
「待って、嫌な予感しかしないんだけど……」
この時僕の顔はひきつっていたと思う。
◆◆ ◆◆
「と、言うわけで強化合宿だ!」
翌日、部室に全員が集まった途端に、冬弥が力強く宣言した。
おー、とぱちぱちと拍手する紗羅以外は呆れた顔で冬弥を見ている。
「待って待って……何がというわけなの?いきなりすぎて話についていけないんだけど?てか、合宿って」
呆れた顔でそう言う僕を見て、冬弥は「フフン!」と胸を反らす。
「俺たちに足りないものは、チームワークだ!自分たちばっか面白そうな体験をする逢介たちには、チームワークを徹底的に叩き込む必要がある!」
拳を握って力説する冬弥。苦笑いしつつ、しょうがないなぁという感じで見ているあきらが、冬弥に言う。
「で、本当のところは?」
「いや、もうすぐ夏休みじゃん?みんなで泊まりがけでどこかにいってさ、そんで心霊体験ができれば言うことないだろ?俺最近思うんだけどさ、お前たちは何が持ってる気がするんだよな!」
あきらに言われて、素直にそう言った冬弥に、僕は脱力した。
「そうなら最初からそう言ってよ……」
そう言う僕に冬弥はニヤリと笑った。
「いや、正直に言うとお前が嫌がって来ない可能性があるからな。お前が来ないと蒲生も来ないだろうし」
そう言った冬弥の顔を見て、僕は猛烈に嫌な予感がしていた。
「ちょ……冬弥?まさか……」
「いや、大変だったよ。交渉が難航してさぁ。持ち主の人もこれ以上持ち物件で事故が起きるのは、売却する金額に影響するからって」
「待って、冬弥……」
止めようとする僕をきれいに無視して、冬弥は話を続ける。
「高橋にも動いてもらって、ようやく話がまとまったよ。何かあったら俺が買い取ることになりそうだけどな」
あっはっは!と笑ってそう言う冬弥に、僕は制止しようとする姿勢のまま止まっていた。
高橋さんも大変だなぁ、と思考が逃避気味になる。
「で、結局それはどこなの?」
固まった僕の代わりに紗羅が聞いた。
冬弥はそれに胸を張って言った。
「凪鹿島のペンションだ。そこで何組も家族が不幸な目にあったり死んだりして、曰く付きの事故物件として界隈では有名な建物なんだ。建物自体はすぐに住めるくらいの状態らしいから、夏休みに民族風土クラブの合宿をらやるぞ!」
……嫌すぎる。何が楽しくてそんな曰くのあるところにわざわざ泊まりに行くのか……
「待って、冬弥……色々待って」
疲れたようにそう言う僕を見て冬弥は言った。
「まさか行かないなんて言わないよな?俺を除け者にして、自分たちばかりおいしい思いをしたくせに……」
「うっ……」
ジトっとした目で僕を見ながら冬弥はそう言った。
除け者にしたつもりはないし、そもそもおいしい思いなんて1ミリもしていないんだけど、冬弥が止められないことはわかった。
「でも、大丈夫なの?何かあったら買い取りだって言ってたけど……」
心配そうな顔であきらが言う。でも冬弥はなんでもないことのように言った。
「ん?ああ、大丈夫大丈夫。そこ、事故物件として有名だからさ、価格はめちゃくちゃ落ちてるんだよ。だから今の持ち主は、これ以上価格が落ちると嫌だって言うんだけど、全然俺の貯金で勝てるし……」
と、平気な顔をして言ったあげく……
「まぁ、親父の口座の一つを使わせてもらってるから、なかなか勝手に使いづらいんだよな。未成年って何もできないんだよ」
などと、不満そうな顔で言う。
冬弥が趣味感覚で株やFXとかいう投資をしてることは聞いていたけど、年齢不相応に稼いでいるらしかった。
「でもいくら相場より安いって言っても、凪鹿島でしょ?」
と、あきらはまだ不安そうに言う。
しかし当の本人はいたって涼しい顔をしている。
そして、どうやら本気で心霊スポットで強化合宿とか、頭のおかしい真似をすることになるようだ……。
とは言っても、それぞれまだ学生だ。勝手にどこかに泊まりに行くなんて決めることはできない。
とりあえずは、それぞれの家族に承諾を得ることから始まる。
「じゃ、これ。合宿のしおりな!帰って親に見せて承諾をもらってきてくれ。特に逢介!ちゃんと見せろよ?」
僕に釘を刺しながら渡されたしおりとやらには、土地の歴史を知るだとか、風土を研究するだとかそれっぽいことが、丁寧に書いてあった……。
◆◆ ◆◆
「あら、楽しそうじゃない。紗羅ちゃんも行くんでしょ?いいわよ、楽しんでらっしゃい」
……最も簡単に許可がおりてしまった。
隣では出されたケーキを頬張りながら、紗羅がニコニコしながら頷いている。
実は、うちの親から紗羅は絶大な信頼を得ている。ちょくちょくうちに来ては、食事を作ったり僕の部屋の掃除を監督したりする紗羅は、親から見ればだらしない息子を指導しつつ尽くしてくれる女の子として認識されている。
母さんはしおりを隅々まで読みもせず、「あんまり紗羅ちゃんに迷惑をかけるんじゃないわよ」とか「ウチの稼ぎでは凪鹿島のペンションなんて泊まる機会はないわよ」などと言っている。
これは冬弥の差し金だった。僕がしおりを持ち帰ったとしても、乗り気じゃない僕と、過去にも僕の霊感のせいで色々と面倒なことがあったことから、うちの親は簡単には承諾しなかったはずだ。
ただ、お気に入りの紗羅が同行することと、その紗羅が一緒に行きたがっている様子を見せることで簡単に承諾を引き出してしまった。
実に簡単に署名捺印された、学校提出用の書類を持って部屋に戻り、一度着替えると今度は待っていた紗羅に連行される。
今度は紗羅の家に僕がついて行く。これも冬弥の入れ知恵だったりする。
「ふーん。まぁ心配だけど、逢介くんも行くならまぁいいか。何かあったら逢介くんが紗羅をもらってくれるだろうし……逢介くん、紗羅を頼んだよ?」
そう言ってニコニコしながら秀郷さんは書類にサインした。
「僕は冬弥が怖い!」
部屋で着替えて戻ってきた紗羅に、僕は思わず言ってしまった。
「あいつ、どこまで僕たちの親の好感度まで知ってるんだ?」
何かあったら僕と紗羅をくっつけようとする秀郷さんは、僕が一緒に行くことで簡単に承諾した。
冬弥はこれを狙って、それぞれの家に一緒に行くように、しかも紗羅に言い含めていたのだ。
そう文句を言う僕に、紗羅はニコニコとご機嫌な様子で言う。
「私はおーちゃんと一緒にお出かけできて嬉しい。おーちゃんは嫌だった?」
そう言われれば、僕も強くは言えない……。嫌なわけがないんだから……
ただ、これも冬弥の思い通りのような気がして、何か仕返しはしようと心に誓った。




