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見える僕と見えない彼女 心霊奇譚  作者: こばん
第四話

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四話 後日談

「そうか……」


僕の前で秀郷さんが腕を組んだまま難しい顔をして、それだけ言うと考えこんだ。


ショッピングモールから帰ってきた僕達は、あきらを送って行った後紗羅の家まで帰ってきた。

紗羅は見た目よりもずっと疲弊していたみたいで、家に着くとすぐに「おーちゃん、ごめん。ちょっと疲れた」と、そう言って部屋に行くなりベッドに倒れ込んだ。


いくら慣れた相手とはいえ、男子の前でベッドに倒れ込む紗羅を見て、ちょっとどうかと思ったり、初めて見る白いワンピース姿に少しドキっとしながら、心を無にして寝かせてきた。


そして帰ろうとしたところを秀郷さんに捕まり、今に至る。


「逢介くんには前に少し話したと思うけど、僕と僕の妻、つまり紗羅のお母さんは今日逢介くん達が会ったような、この世に生きる人に害をなそうとする霊を祓う仕事をしていた。紗羅の母親、狭霧(さぎり)さんは、家系的にそういう仕事をしてきた家でね。僕は狭霧さんに並んで立つために、だいぶ勉強をしてついて行ったものだよ」


昔を思い出しているのか、秀郷さんは口元に笑みを浮かべてそう言った。

秀郷さんにはもともと霊感はなく、紗羅のお母さんの狭霧さんに惚れた秀郷さんが、なんとか隣に立とうとしてめちゃくちゃ学んだらしい。


「ある程度知識がついた頃には、狭霧さんから影響を受けて、少しだけ霊感を持つようになった。……一緒に仕事をして、解決して、女性である狭霧さんを物理的な危険から守るために僕も格闘技を学んだりして、受け入れてくれた。狭霧さんの実家には大反対されたけどね?」


苦笑いしながら秀郷さんはそう言った。


なんでも、狭霧さんの実家は代々霊感の強い女の人が生まれてくる家系で、昔から結構相手も霊感の強い男性を選別していたらしい。

そして時期が来ると子をもうけて時代に繋いでいた。


でも反対されながらも、狭霧さんも家を出て秀郷さんと結婚して紗羅を産んだ。


「でも、ほとんど駆け落ち同然で家を出てきた僕達は狭霧さんの実家の助けも期待できなかったんだ。狭霧さんはギリギリまで言わなかったけど、後継ぎでもある女子を産むときには出産自体が大変なのに、力の継承とか色々あるみたいで、隙ができるらしくてね……。狭霧さんはあらかじめ自分でできるだけの守りはかけていたみたいだけど……」


そこまで言うと秀郷さんは、視線を下げてお茶を一口含む。


きっといろんな思いが渦巻いているんだろう。


「多分、逢介くんが言う怨念の塊というのは、かつて僕と狭霧さんが倒そうとして挑んで、倒せずに力を削ぐだけでなんとか封印した……いや、封印したと思い込ませられた。そして……紗羅が産まれる時に襲われた……」


「え、じゃあ……。その、言い方は悪いですけど、あの怨念の塊は恨みを晴らしたわけですよね?どうしてそんなに紗羅まで……」


僕が見たあの怨念の塊は、ものすごい想念を感じた。まるで紗羅が恨みの原因みたいに……


「逢介くん。人が人を恨むのは原因があってのことだけど、全てに理由があるわけじゃないよ。存在するだけで周りに呪いを振り撒くものも……存在するんだ」


そう言って、どこか遠いところを見る秀郷さんは、ひどく疲れてるように見えた。


僕が見ていることに気づくと、秀郷さんはいつもの表情に戻ってたけど、この問題の根深さを物語る表情だった。


「まぁ、そういうことで、あの女と二度も関わってしまった逢介くんには、それなりの関わりができてしまったわけだから気をつけてほしい」


「それは……僕も狙われるってことですか?」


そう聞くと、秀郷さんは曖昧に頷いた。


「縁がつながるっていうのかな?本来、あの世とこの世の行き来はできない。でも縁がつながることでそれを伝って来るらしいんだ」


「あれは一体何者なんですか?」


僕が聞くと、秀郷さんは目を閉じて首を振った。


「聞かない方がいい。詳しく知ってしまうと縁も深くなる」


でも、実際に見て接した僕はもう引き下がらなかった。


「あれは紗羅に執着してます。紗羅そっくりの子を連れてました。紗羅を殺すことで、紗羅のお母さんに亡くなったあとでも苦しみを与えるとも言ってました」


真剣な顔で食い下がる僕に、秀郷さんは苦笑する。


「だからだよ。あれは狭霧でも勝てなかった存在だ。今回を無事に切り抜けてのも奇跡なんだよ?まぁ、君が紗羅を貰ってくれるんなら教えるけどね?」


その冗談混じりの答えに、僕は思わずカッとなってしまった。


「紗羅は僕にとって大切な子です!その……貰うとかそういうのは別にしても、守りたいと思ってますし、もう僕も部外者じゃないと思います!」


そう言うと秀郷さんは少し驚いた顔をした後、笑った。


「君は尻尾を巻いて逃げると思っていたけど、立ち向かうんだね?いや、バカにしてるわけじゃないよ。あれが相手なら逃げるのも正しい。でも君は紗羅と一緒に戦ってくれると言うんだね?」


確認するように言う秀郷さんに僕は頷く。僕の知らない所で紗羅に何かがあったら耐えられない。

すると、秀郷さんが答える前に、僕の首に柔らかいものが巻き付いた。


「ありがと、おーちゃん」


僕の首に腕を回して、肩に顔を伏せる紗羅の顔は見えない。でも、その声が僅かに湿っているのはわかった。


僕は何も言わずに紗羅の頭を撫でて秀郷さんを見る。


秀郷さんはそんな僕たちを、目を細めて見ていた。そして静かに語った。


「僕が調べた限りになるが……。あれは平安の世に生きた人の成れの果てだ。名を浮華(うきはな)という。大変美しい女性でね。しかも陰陽師の大家に連なる家系に生まれて、霊力もすごく高かったらしい。彼女がいるだけで、その場が清められていたと、文献にあったよ」


静かに語る秀郷さんの言葉に僕も紗羅も真剣な顔で耳を傾けている。


秀郷さんは話しながら棚から一冊の古いノートを出してきた。多分それに調べたことが書いてあるんだろう。


「浮華が妙齢の頃になると、求婚の申し入れが殺到したそうだよ。美しく霊力も高いなら、当然だろうね。当時陰陽師は強い権力を持っていたからね。でも彼女は求婚を全て断った。なぜなら幼い頃より仲が良かった者と約束をしていたからだ。そして、陰陽師の大家に生まれた彼女は、それを押し通すだけの権力もあった」


そこで秀郷さんはニコリと笑って、まるで二人のようだね。と僕と紗羅を見た。僕は照れ臭くて紗羅の顔も見れずに俯くしかできなかった。


「ちなみにお相手の男性は記録に残ってない。多分平民か身分の低い者だったんだろうね。すると、当然求婚した者達も黙っていない。自分は断って名も無い男の元に嫁ぐなど、断じて認められない!ってね。その結果……多分お相手の男性は誰かに殺されてしまったようだ。文献には嘆き悲しむ浮華のことしか書いてなかった」


「ひどい……。そんなことする奴なんて、一生モテないならいいのに」


そう呟いた紗羅に秀郷さんは苦笑いしながら話を続ける。


「再び求婚が殺到するが浮華は応じない。すると、求婚していた男同士が争い始めた。死人も出ているみたいで時の権力者が言葉を下す事態になった。つまり、男を惑わす浮華が悪い。とね」


その瞬間、紗羅がテーブルを叩いた。


「なに?バカなのその権力者は!浮華は何も悪くないじゃない」


「でも、当時は女の人の立場は弱かったんじゃない?」


なんとなくそう思った僕が言うと、紗羅は納得できないと言いたげな目で僕を見る。


「いや、逢介くんの言う通りだよ。求婚していたのは、由緒ある家の者とか、陰陽師の名家だったから、一人の女性よりも、力のある男性達が争う方を重く見たんだ。結局浮華はその権力者の指示である家に嫁ぐように言われた。でも浮華はそれに従おうとはせず、腹をたてた嫁ぎ先の男に殺されてしまった。……確かにその恨みは如何ばかりかと思うよ。しかも死後の体にも霊力は宿っていて、求婚していた男達は浮華の体をバラバラにして、それぞれ持ち帰った」


もう紗羅も何も言えなくなっていた。あまりのことに、時折目をこすっている。とりあえず紗羅にハンカチを渡して、話の続きを聞くことにした。


「浮華の体の一部は、それだけで対魔の効果があったらしい。でも長くは続かなかった。体を持ち帰った家から不審な死を遂げるものが続出した。いづれも、浮華と同じように体がバラバラになってね。やがて、それが何代も続いて、恐れをなした者たちが、持って行った体を持ち寄って浮華の霊を慰めようとしたけど、すでに怨霊と化していた浮華は、次々と関係者の元に現れ、殺していった。最終的に御霊として祀ろうとしたけど、それすら浮華は受け入れずに、やがて無差別に人を害すようになっていった。人々は生前の名前から屍華御前と称してその筋では有名な怨霊となった……」


そこまで話すと秀郷さんは、パタリとノートを閉じた。


「屍華御前……」


紗羅がその名を呟く。浮華に同情しているのがよくわかる。秀郷さんもそれに気づいたのか、紗羅に向かって諭すように言う。


「気持ちはわかるし、同情の余地はあると思う。でも、怨霊となってからは関係ない人間を何人も殺している。もはや屍華御前と呼ばれるようになってからは生きている人間全部を恨むようになっていた。だから狭霧はそれを止めようとしたんだ。結果は残念だったけどね。紗羅、逢介くん。彼女は今やただの怨霊だ、変に同情してはこちらがやられるよ?僕が話したのは、正しい話を知った上で対抗して欲しかったからだ。もし、目の前で彼女が身の上話でもしようものなら同情して戦えなくなるかもしれないと思ったからね」


そう言ってから秀郷さんは眉を下げて、少しだけ笑いながら言った。


「一番はもう会わないのがいいんだけどね」



屍華御前


不幸な身の上から怨霊になってしまった女性。生前から強い霊力を有していたからか、怨霊となってからは誰も止めることもできずにたくさんの犠牲者が出ている。

それは人に対する恨みだけで存在していて、もう怨霊となる原因のことなど覚えていないと思われるとても危険な存在。


信憑性 S

危険度 SS



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