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見える僕と見えない彼女 心霊奇譚  作者: こばん
第四話

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4-6 あきら

その光景を見た僕は、足がすくんだ。

今まで色んな霊を見たことがあったけど、そのどれとも似つかない純粋な怨念の塊。


しかも、不思議と僕はそれを知っているような……そんな感覚。怖がりの僕が、そんな悪霊と言ってもいい存在を目の当たりにして、気を失ったり逃げ出したりしてないのは、ひとえに紗羅の姿も一緒に見たからだと思う。


紗羅は今にも倒れそうな様子をしながら、立っていた。木下くんを庇う様に立って構えていた。

紗羅と再会してから、山野旅館でも姿見の時も、木下くんの夢のなかでも。


今までどんな相手でも、飄々とした態度でぶっ飛ばしてきた。そんな紗羅が今にも倒れそうな様子で、それでも必死に立っている姿を見て、さすがの僕でも逃げ出すことはできなかった。


そして……


(行くよ、逢介!アンタこんな時くらい、カッコつけて見せなさいよ。紗羅ちゃんの前くらい!)


ここが多分怨念が作り出した空間で、彼岸と此岸の境い目が曖昧になっているからなのか、いつもよりはっきりとお姉ちゃんの存在をはっきりと感じる事ができていた。


今まで声だけしか感じることができなかったけど、僕の隣に確かにいた。


僕とよく似た見た目と同じくらいの背丈。でもあまり似てない気の強そうな顔をしたお姉ちゃんが……。


僕はグッと歯を食いしばって、お姉ちゃんに頷いたあともう一度紗羅を見た。


「紗羅も……女の子なんだな」


つい口走った僕をお姉ちゃんは呆れた顔で見る。


|(当たり前じゃない!だから守ってあげるんでしょ?あたしと二人で)


正直、僕に何ができるのかわからない。あの紗羅が手を出せないでいるんだから、僕が行ってもただ足手まといが増える気もする。

でも、行かないという答えはない。


僕とお姉ちゃんが走って向かっている間にも、怨念の塊は紗羅に近づき、人が手を伸ばすような、そんな動きをしていた。

紗羅は動かない。いや、動けない。


「紗羅!」


今まで出したことがないような、大きな声が自然とでた。走り寄りながら叫んだ僕の声に、ビクッとした様子で紗羅はこっちを見た。

僕の姿を見た紗羅は、まるで泣き出しそうにくしゃりと顔を歪めたあと、怨念の塊から距離を取る様に後ろに跳んだ。


その隙に、僕は後ろに下がって地面に座り込んだ紗羅と怨念の塊の間に立った。改めて目の当たりにすると、直接肝を冷やしてくるような寒気ととても強い圧迫感を感じる。そして、響いてくる怨念の思念。


「ちっ!あの時の……どこまでも邪魔をする!」


苛立たしげな声を聞いて、やはり前にも会った事があると僕は確信した。


気づけば、迂回する様に紗羅によく似た何かも近づいていたけど、その間にはお姉ちゃんが立ち塞がった。


|(させない!)


そう言って両手を広げたお姉ちゃんと、紗羅によく似た何かが触れそうになって……


「ぐうぅ、またか!また邪魔をするのか!口惜しい……、だが、覚えておけ、いつもこうなるとは思わんことだ!」


怨念の、その思念を最後に……


ぱしん!


何かが弾けた。


気づけば、すぐ横を買い物カゴを抱えたおばさんが怪訝な顔をして、僕たちを見ながら通り過ぎていく。

天井からは、どこかでセールが始まるアナウンスが聞こえている。


「戻った?」


周りを見て、さっきの怨念の塊の気配がどこにもしないことを確かめると、僕は……


へなへなとその場に腰を下ろしてしまった。


「……怖かった」


|(もう!締まらないわねぇ)


--そうは言うけどさ、あんな人の恨みを凝縮して、何がで縛って無理やり人の形にしたような相手を僕にどうしろって言うのさ!


|(……まぁ、逢介にどうこうできる相手じゃないわね。でも、覚えておいて?あなたが近くにいるからアタシは最大に動けるの。あなたと離れてたら、きっと負けて取り込まれてた。まあそうね、逃げ出さなかったことは褒めてあげるわ。ほら、紗羅ちゃんのことは頼んだわよ)


それだけ言うとお姉ちゃんの気配はすうっと消えていった。


腰を下ろしたまま紗羅の方を向くと、動けなくなった紗羅を木下くんが抱き抱えるように、必死に庇っている姿があった。


「よかった……二人とも大丈夫?」


僕がそう言うと、木下くんも紗羅も泣きそうな顔で僕を見た。


その場にへたり込んだ僕だったけど、幸い腰を抜かしてまではいなかったようで、二人よりも先に立ち上がることができて、なんとか格好がついた。


二人を助け起こして、落ちていた紙袋を拾い上げると、女の子がつけるブラジャーが見えていて、真っ赤になりながら紗羅に渡すと、紗羅はクスッと笑いながらそれを木下くんに渡していた。


少し照れくさそうにそれを受け取る木下くんを見て、僕はもう木下くんと呼んじゃいけないような……そんな気がしてた。


「おーちゃん……」


いつもより遠慮がちに、僕の腕のところをちょんと摘んだ紗羅は、眉を下げて見上げてくる。


まるで迷子の飼い犬が怯えて見上げてくるような、錯覚を覚えて僕は思わずその頭を撫でていた。


「よかった、二人が無事で……正直に言うと僕が来てもなんの役にも立たないんだろうけどさ、なんて言うか無我夢中だったって言うか」


そう言うと、紗羅はふるふると首を振って、そっと僕の腕にしがみついてくる。

撫でるのをやめようとすると、頭を押しつけてくるから仕方なく撫でながら木下くんを見る。


「木下く……ええっと」


言い淀む僕ににこりと微笑んだ木下くんは、「あきらって呼んでくれる?」と言う。


「あき、ら?えっと……大丈夫あきら?」


そう言うと、木下くん……いや、あきらはにっこりと微笑んで頷いた。

どちらとも言えるような格好をしていたけど、そこにいたのは間違いなく女の子のあきらだった。


◆◆ ◆◆


帰り道、ずっと腕にしがみついてくる紗羅に苦笑いしながら、歩いている。

でも、さすがにアレを見たあとだと、引き離すこともできずにそのまま歩いている。


「どうしてボク達がここにいるってわかったの?」


紗羅がしがみつくせいで、ゆっくりしか歩けない僕たちの歩調に合わせて歩きながら、あきらが首を傾げる。


「いや、わかったわけじゃないっていうか……多分お姉ちゃんが教えてくれたんだと思う」


そう言って僕は、お姉ちゃんと昔の紗羅と一緒に遊んでいたこととかを話した。


「なるほど……。かみ……逢介くんもすごい経験してるんだねぇ?」


感心してそう言うあきらの、さりげない名前呼びに少し照れながら僕は頷いた。

見えるだけで何もできない僕が、お姉ちゃんとつながってて紗羅と出会い、何をどうしたのか知らないけど紗羅を救ったらしいことを思い出しながら、「僕は何もできないんだけどね?」と、苦笑しながら言うと、あきらは視線を下げながら首を振った。


夕暮れに長く伸びた僕たちの影は、今までよりも少しだけ近くなっていたように見えた。

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