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3-2 違和感とズレ

木下君が実は女の子だったと聞いて僕は凄く焦った。僕は気付かず男同士として接してきたから、もしかしたらすごく失礼なことをしていたかもしれない。そう考えていたら、紗羅が僕の背中を張った。


 「もう、おーちゃんは気にしすぎ。今まで通りでいいって木下君は言ってるんだから、いいの!」


 そう言って。この言葉には僕も、多分木下君も救われたんじゃないかなって思う。木下君とてもうれしそうな顔をしていたから。



 そして木下君はもう一つの悩みを話し出す。


「最近気持ち悪い夢を見るんだ。ボクのお婆ちゃんが、蔵から荷物を出す手伝いをしてって言うんだ。それは……ボクからしてありえないことなんだ」


 そう言うと、木下君はその違和感を語った。

 

 木下君のお婆さんは、少し昔の考え方の人で、男子はこうあるべし、女子はこうあるべしって感じで性別による理想を声高に言っちゃう人だったらしい。つまり、木下君とは相性が悪い。実際生前のお婆さんは木下君のことをあまりいい目で見ていなかったらしい。それなのに、あんな頼みごとをしてくるのはありえないということ。


 木下君のお爺さんは昔から珍しいものの収集癖があったらしく、その蔵にはお爺さんが集めたものがたくさん眠っている。その中には曰くがあるような物もあり、お爺さんもお婆さんも孫たちに絶対に近付くな、入るなんてもってのほかと日ごろから言っていた。


 最後に、夢を見るたびに少しずつ蔵に近付いて行ってる。というものだった。昨日はついに蔵の中に入ったと。


「その蔵には入ったことあるの?」


 お菓子を食べながら紗羅が聞く。木下君はとんでもないという感じで首を振った。


「お婆ちゃんが生きてた頃は近づいただけで怒られた蔵だよ?しかも気持ち悪いものが仕舞ってあるって言うのに入る訳ないよ」


 木下君はそう言った。それを聞きながら、冬弥ならどうにかしてでも入るんだろうなって想像してしまった。


「ただの夢っていえばそれまでなんだけど、同じ夢ばっかり見るのも変だし、蔵の中なんて見たこともないのにすごくリアルで、見るたびに変わったりしないんだ。毎回一緒なんだよ、

 壁に入った傷とかまで……」


 さすがにそれを聞いて僕は背筋に寒気を覚えた。そんなことあるだろうか。それにいくらあまり仲が良くなかったといっても、れっきとした祖母と孫なわけだし、そんな危ない場所に入れというのはおかしいと思う。きっとそこまで変なものはないんじゃないだろうか。ふとそう思った。

 聞いてみようとしたら先に止められた。お姉ちゃんに。


(昔の人って考え方がそう簡単に変えられないのよ。)


 やっぱりそんなものなのかな?


(だから木下君の本当のお婆ちゃんが夢に出てくることはまずない。じゃああれは?)


 それだけ言おうとお姉ちゃんの気配は遠ざかった。いつもながら言いたいことだけ言って帰るんだから……。


「ねえ木下君。その夢のお婆ちゃんに違和感があるんでしょ?」


 僕が聞くと木下君は頷いた。


「うん……違和感っていうか、認識のズレっていうか」


 そう話していると、腕組みをして話を聞いてた紗羅が声を上げた。


「ぶっ飛ばす?」


 僕は即答する。


「ぶっ飛ばさない。まだその段階じゃないからね、はいはい落ち着いて」


 そう言って紗羅の後頭部を撫でる。ここを撫でると紗羅は気持ちがいいのか喜ぶのだ。


 その様子を木下君はまぶしそうな顔で見ていた。


「とりあえず今の時点で、木下君に何か憑いているってことはないと思う。少なくとも僕にはみえないよ」


 そう伝えると木下君は少しだけ安心した顔をしてくれた。それから僕が気になった、何が目的なのかという話をして見る。


「もし、今日もその夢を見たら、お婆ちゃんについて行ってみるよ。そして何を手伝えって言ってるのか確かめる」


 木下君はそう言った。そして


「確かめるなら、近くに二人がいる今日が最適だと思うから。頼りにしてるよ」


 そう言われて、僕も紗羅も張り切って頷いた。そしてその日は是非にと言われて晩御飯を一緒にごちそうになることになった。そして、僕も紗羅の調理補助でエプロンをつけて台所に立っている。

 のだが、僕はいらない子のようだ。料理のできない僕に手を出すところはないってあきらめるくらい、紗羅の手つきには迷いがなかった。



「いただきます!」


 手を合わせて頂く。やっぱりうまい。正直に言えば、紗羅の料理は僕の好みとも一致する部分が多くてとてもおいしい。ただ、そう言ってしまうと紗羅の事だから毎日でも来いと言いかねないので、うかつに口にできないのが悔しいところだ。


「どうだい逢介くん。紗羅の料理はなかなかのものだろう」


 それなのにこの人がぶっこんで来る……。紗羅のお父さん、秀郷さんはにこにこしながら僕に聞いてきた。チラリと紗羅を見ると、テレビを見ている風に装っているけど、神経はこっちに集中していることが分かる。

 さっきから手が止まっているし、何ならピクリとも動かないんだもの……。


「どうかな逢介くん」


 どうあってもこの人は僕に感想を言わせたいみたいだ。知りませんよ食費が家計を圧迫しても……。


「超おいしいです」


「ほう!」


 正直に言うと、秀郷さんも紗羅も嬉しそうにしている。紗羅がさりげなくおかずを僕の皿に入れてくれる。


「ああ、紗羅。いくらなんでもそんなには食べれないよ」


 大皿に入った料理丸ごとは無理だって……


「ふむふむ。紗羅はこう見えて細かなな気配りも聞くし、家事は得意のようだ。まあ、それは私がそうさせてしまったのもあるが……どうだい逢介くん。紗羅はいいお嫁さんになると思うだろ?」


 ガタン!


 紗羅がお茶碗を落とした。もうほとんど入っていなかったからよかったものの……


「そうですね。それは間違いないと僕も保証しますよ」


 冷静を装って僕はそう返した。醤油を間違えてごはんに掛けてしまったけど、まあ問題はない。


「うんうん、逢介くんの保証書付きってわけか。一家に一台、お得だよ逢介くん」


 ……この人は一体どういうつもりでこんな事を言うんだろうか。ともかく。


「そんな、家電じゃないんですから」


「まあ、返品は不可だけどね」


 にこにこしながらすごいことを言う人だ。


「……お父さん?」


 ほら怒られる。


「おっと、さすがに言い過ぎたかな。食卓がにぎやかだと嬉しくてついね」


 そう言う秀郷さんに、紗羅は鋭い視線を送る。僕は思わず自分の分の食器を避難させた。


「……もっとセールストークを磨いて」


 それだけ言うと紗羅は黙々とご飯を口に運ぶ。


「そっちかい?」


 秀郷さんがそう言うと、ついにこらえきれなくなった木下君が噴き出した。


「ごめんなさい。紗羅ちゃんちっていつもこうなんですか?」


 お茶を飲みながら木下君が言うと秀郷さんは、優しく微笑んで言った。


「まさか、逢介くんと木下君が来てくれたからだよ。私も嬉しくてね」


 ……そう言われるとまた食べに来ないといけなくなるじゃないですか。本当に知りませんよ家計が苦しくなっても。


 そんな事を考えながらも、多分僕もずっと顔を赤くしていただろうな。

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