2 後日談
「やあ、冬弥。珍しく僕のところに来ないから、僕から来たよ」
宿泊研修が終わって、紗羅はも逢介も三日間の入院を要した。四日目に二人とも登校したと聞いたけど、冬弥は前と同じに行く事ができずにいた。どんな顔をして行けばいいかわからなかったからだ。
結局その日の昼休み、逢介が4組を訪ねてきた。逢介と友人になってから初めてのことだった。
逢介は一人ではなく、紗羅の手を引いて来ていた。紗羅の目の部分には痛々しい包帯が巻かれてる。それを目にして、冬弥は顔をくしゃっとゆがめた。
「ここじゃゆっくり話もできないね。冬弥、みんどクラブに行こう」
そう言って逢介は、紗羅と反対の手で冬弥の手を引っぱった。立ち上がって初めて木下も一緒にいた事や、クラスの連中がこっちを見てひそひそと話していたことに気付いた。
そのまま逢介に手を引かれて、冬弥はみんどクラブの鍵を開ける。中に入ると逢介は紗羅をソファに座らせようとして断られていた。結局いつものように紗羅は座った逢介の足に間に陣取ってご機嫌そうな顔をしていた。
――ご機嫌そうな顔?
「なあ、蒲生。なんでそんなに普通なんだよ。俺のせいで目が見えなくなってさ……。いいんだぜ、気の済むようにしてくれよ。覚悟はできてる」
冬弥はそう言うと、逢介と紗羅の前の床に座った。
「ぷっ……」
「ふふっ」
噴き出したような声に冬弥が頭を上げると、逢介も紗羅も口を押さえて笑っている。
「なあ、冬弥。なんで冬弥が責任感じてんのさ?悪いのはあの副島って幽霊でしょ?」
逢介はそう言うが、冬弥は首を振った。
「それでもあの姿見の調査を計画したのは俺だ。責任はある」
変なとこで真面目なんだから。と逢介が小さく言って紗羅がまた笑った。こいつらはなんでそんなに笑っていられるんだ……。
冬弥の中で何かが爆発しそうになったところで、紗羅が口を開いた。
「冬弥くん、私は失明はしていないよ。」
「へっ?」
「病院で検査もしたけど、何も異状なしだった。先生は困ったような顔をしてストレス性の何かとか、一過性の何かとか言ってたけど……。多分霊的に機能を奪われたんだと思う」
一瞬緩みかけた気がまた張り詰めた。
「それでも見えないんだろ?それは失明と変わらないじゃないか!それの原因になったのは俺の計画なんだよ!」
叫ぶようにそう言うと、逢介も紗羅も真剣な顔になっていた。
「ねえ冬弥。その副島って霊のこと、このままにするつもりじゃないよねぇ?」
と、意外なことを逢介が言うので冬弥は毒気を抜かれてぽかんとしてしまう。
「冬弥らしくないなあ。病院に櫛目先輩がお見舞いに来てくれて少し話したんだけど、先輩も紗羅の目は霊的な症状だと思うって言ってた。そして霊的な症状ならそれを引き起こした奴を消滅させるか力を奪うかすれば、元通りになる可能性が高いんだって。ねえ冬弥。僕は諦めていないよ?あの副島って幽霊、どこまでも追いかけるつもり。まあ最後にぶっ飛ばすのは紗羅なんだけどね?だから……紗羅の目はなおるんだよ。僕たちの手でなおすんだよ。ね、紗羅?」
「任せて!アメリカまでぶっ飛ばす」
「ボクも手伝うよ。今回ボクは何もできなかったから……」
「うん、じゃあ三人でぶっとばす」
そう言って笑い合う三人を見て冬弥はスッと心が軽くなるのを感じた。ただそれでも冬弥は軽くなった心に自分で重しを付けた。
「わかった。俺も調べるよ。また一緒に行ってくれるか?」
今度は騙されない。踊らされないで必ずしっぽを掴んで、この二人に引き渡す……。
そう心に誓って言うと、逢介は少し嫌な顔をした。
「まあできれば心霊スポットとか、怖い場所はやめて欲しいなあ」
その言葉に今度こそ本当にしこりがなくなった。
「相手が霊なんだから仕方ないだろ?ようし、怪しそうな心スポをしらみつぶしに調べるぞぉ」
そう言ってやる気を出す冬弥に、逢介は「お手柔らかにね?」と言うのだった。
◆◆◆◆
冬弥と話した後、僕たちは帰路についている。隣には僕の手をしっかりと握って歩く紗羅がいる。病院で紗羅のお父さんに会った時には詳しくゆっくりは話せなかった。「話は退院した後にゆっくり」と、言われてたので、紗羅を送るついでに話してくるつもりだ。
「ねえ、おーちゃん晩御飯食べてく?私結構料理得意だよ」
そう言って紗羅は腕まくりをして見せるが……
「いや、料理も何も……見えないのに出来るわけないじゃん。大人しく出前か何か取った方がいいって」
そう言うと、紗羅はぷくっと頬を膨らませる。
「フン、私の料理が食べたくないならそう言えばいいのに!」
そう言って僕の手を離した紗羅はずんずん一人で歩いて行く。慌てて追いかけたけど……紗羅は曲がるべき角を曲がり、道に何か落ちていたら避けて歩いている。
「え、えーっと紗羅?ほんとに見えてないの?」
思わずそう言ってしまった。紗羅は足を止めて振り返ると、すすすっと僕の手を掴んで見えていないフリをする。……いや、フリではないか。見えてないのは確かみたいだから。
「ねえ、紗羅。僕も手伝っていいなら紗羅の料理を是非食べたいんだけど」
そう言うと、紗羅の耳がぴくぴくと動く。これは嬉しい時になるサインだ。
「ま、まあいいけど!おーちゃんが手伝いたいって言うなら仕方ない。これからの世の中男の人も料理できて当たり前になってくる。私が教えてあげる!」
すっかりご機嫌になった紗羅と、献立について話しているとすぐに沙羅の家に着いた。紗羅が「ただいま!」と家の中に声をかける。するとふすまが開いて男性が姿を現した。紗羅のお父さんだ。
「やあ、いらっしゃい」
そう言って僕に上がるように勧めてくれた。ほんとはお父さんが言う前に紗羅がぐいぐいひっぱっていたけど、なんとかこらえた。
居間に通され、僕たちは今回あった事をすべて話した。紗羅のお母さんはとても霊感の強い人で、そういう仕事をしていたらしいので、お父さんは霊感はほとんどないらしいけど理解はある。
紗羅がお茶を入れてくれたけど、熱いものを扱う時はやはり慎重になるのか、距離感を測っているのがわかる。その仕草で、平気なように見えてもやっぱり見えていないんだなと、分かってしまい心が重くなる。
紗羅のお父さんも眉を下げてその様子を見ていたが、やがて意を決したように話してくれた。
「そうか……。それはもしかしたら、紗羅が迷惑をかけてしまったかもしれないね」
紗羅のお父さん。秀郷さんは、眉を下げてそう言った。謝りに来て逆に謝られてしまうという状況に僕は戸惑う。
「紗羅の出生の事は聞いているかい?」
そう言われ僕は、おおまかには……と答える。秀郷さんは紗羅の方を責めるように見ていたが、紗羅は顔を逸らしている。はあ、とため息をついて秀郷さんは紗羅の出生、そして、それに僕やお姉ちゃんがどう関わったかを教えてくれた。
正直ちょっと信じられない話で、僕もまとめきれていない。長くなるので、別の機会にゆっくり考えようと思う。
とりあえず紗羅の目のことに関しては理解を得られたと思う。途中、「また迷惑をかけるね」と気の毒がられたり、かと思うと「ちゃんと逢介くんが責任はとってくれるんだろう?」とニコニコしながら言ってきたり……。
やっぱり紗羅のお父さんなんだなと思った。
山代学院 中等部 片思いの姿見
旧校舎の二階と三階の踊り場にあるという姿見。片思いをしている人が、夜中に見に行くと気になっている相手のことがわかるという。
また、そこに行こうとする人はなぜか目をケガすることが多い。
しかし、実はこの片思いの姿見は、七不思議でもなんでもなく、他にちゃんと七不思議があるにもかかわらず、時折その噂が広まる。
総評 信ぴょう性 A
危険度 A
※調査継続中




