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2-12 旧校舎

 カツン カツンと階段を上る足音がやけに反響する。僕たちは肝試しのゴール地点まで行くとそこから東階段を上り始めた。


「……さすがに怖いね。さっきの肝試しと同じ場所とは思えない」


 木下君が呟いた。その声は少し震えている。


「おーちゃん、何かいる?」


 隣を歩く紗羅が僕に聞いてくる。今日の紗羅はいつもにまして僕のそばを離れようとしない。まだ負い目を感じてるのかな……。そう思いつつ見たままを伝える。


「何かがいるのは感じる。でも近くにはいない。ただ……なんていうか、形の崩れた低級な霊は結構いる」


「形の崩れたってなんだよそれ」


 僕の言葉に興味を持ったのか、先頭で登っていた冬弥が僕の隣まで降りて来て聞いた。


「んー、僕も最近気づいたんだけどね?霊にも色々いて、やっぱり思いの強い例は存在感も強いんだ。山野旅館にいた真美さんや不良の霊たちは僕の目にはその辺にいる生きている人と区別がつかないくらいだった」


 「あーなるほど。俺にも見えたくらいだもんな。と、いうことは心スポとかで目撃される霊ってのは、やっぱり何かの思いが強くて一般人にも見えたりするのか」


 僕はそれに「たぶんね」と頷いて続ける。


 「それに比べて、思いもなくただそこに在るだけの霊は、ほとんど人の形をしていないんだ。崩れてるっていうか……多分だけど時間と共に霊になってまで現世に残った思いも薄れていって、それと一緒に形まで崩れていってるんじゃないかなって思った」


 僕がそう言うと紗羅は黙って聞いていたけど大きく頷いた。


「おーちゃんの言うことは私の師匠が言ってた事と一緒。あと見えるかどうかは波長にもよるって言ってた」


「波長?」


 今度は僕が聞き返すと紗羅は説明してくれる。


「うん。師匠はラジオで例えてたけど、人にも霊にはそれぞれ周波数があって、その周波数が近いと見えたり聞こえたりするって。霊感がる人はその周波数が広くて、霊能力者は周波数を自分で調節できる。で、ほとんどの人はアンテナすらない。私は受信する装置が壊れてるけど送信する装置は残ってるからこっちからは接触できるって習った。


 紗羅がそう説明すると、冬弥は感心したように頷いた。その隣で木下君も感心した表情をしている。


「なるほどね、周波数っていうのはわかりやすいな。蒲生が沖縄まで行って修行したのは、その周波数を拡げるために行ったのか?だから蹴れるんだろ?」


 そう言った冬弥に、紗羅は一瞬だけつらそうな顔をした。でもすぐ普通に戻って首を振った。


「んーん、私は逆。可能な限り絞れるように修行した。私はお母さんがすごく霊感が強くて……それを引き継いで生まれて来る予定だったけど、見る力はなくしちゃた」


 まだ詳しい話をしていない紗羅は、軽い口調を装ってそう言った。僕は何も言わずに紗羅の手を握った。


 「……ありがと、おーちゃん」


 そして二階に上がった。その瞬間まるで世界が変わったような印象を受けた。


「なに……ここ?」


 絞り出すような声で木下君が言った。見た目はさっきまでと一緒だ。でも確実に何かが違うそう感じさせる雰囲気だった。周囲に目を配りながら、紗羅が低く言った。


 「周波数が合うと霊の姿が見える。でもそれは逆の面もある」


「……逆って?」


 おそるおそるきいた冬弥に紗羅は言う。


「私たちから霊が見えるように……霊からも私たちが見える。霊になってまでこの世に残っている存在は、負の感情を持っていることが多い」


 紗羅がそう言った瞬間、ものすごい足音をさせながら上の階から降りてくる足音が聞こえる。


「おーちゃん!」


 そう言って紗羅が僕を引き寄せる。冬弥や木下君の様子を見ても、二人ともこの音が聞こえているようだ。


 ダダダダガシャーン!


 降りてきたそれは、年代を感じさせる学生服を着た生徒だった。階段を降り切るとものすごい勢いで転んだ。


「おれは……わる、くない……」


 それは、そう言うと立ち上がり僕たちと冬弥たちの間を、さっきと同じ勢いで駆け下りて行った。下の階でまた何かにぶつかったような激しい音がして、その後は静かになった。全員が絶句する。静寂が耳に痛くなってきた頃、冬弥がようやく口を開いた。


「な、なんだ?さっきの……」


 カクカクと不自然な動きで紗羅を見て言った。紗羅は首を振る。


「わからない。二階に上がった瞬間さっきの例えで言うと、この空間の周波数がものすごく広くなった感じがする……」


 誰かがごくりと唾を飲む音が聞こえる。それくらいの静寂が辺りを包んでいる。あと半分階段を登れば姿見があるはずなのに、誰も動こうとはしない。


 なぜなら……たくさんいる。二階から上がる階段に、さっきの霊と同じような制服をきた霊たちが、登る隙間もないほどにみっちりと……。皆僕たちに背中を見せて、一様に俯いて丸刈りの頭を項垂れさせている。その先の踊り場にはこれもまた古いセーラー服の女子が何人も壁の方を見て立っている。

 その霊たちは僕たちの方を誰も気にしていない。紗羅の話が本当なら、霊たちからも僕たちが見えているはずなのに……。


 「いったい、どういうことだよ……」


 冬弥が呟いた、その時だった。階段の正面にある窓が光り出した。


「なんで光って……」


 木下君も口に手を当てたまま、驚いたように声を出した。


「違う……。」


「紗羅?」


「窓が光ってるんじゃない。あれは……月」


 窓から入ってくる光は、確かに上から降り注いでいる。その光はゆっくりと横に移動して影を追い立てるように広がり……。


「おーちゃん!」


 紗羅が僕の手を握るのと、窓一杯に月の光が差し込むのはほとんど同時だった。


 ◆◆◆◆


 がやがやと人の声が聞こえる。それはまるで普段の学校にいる時みたいで、少しだけ違和感があるものだった。


「あ……れ、僕は何で廊下で寝てる……」


 ぼんやりした頭でそう呟いていると、背中にチリッとした痛みが走る。ハッとして周りを見ると僕の手を握ったままで、紗羅も同じように倒れていた。


「紗羅!紗羅!」


 慌てて肩を掴んでゆすると、紗羅はゆっくりと目を開いた。


「あれ、おはよ。おーちゃん」


 ぼんやりした顔でそう言う紗羅を見て僕は大きく息を吐いた。紗羅も次第に意識がはっきりしてきたのか、今の状況を思い出した途端にばっと起き上がり、僕を背中にかばうようにして周りを警戒した。


 ――普通は立場が逆なんだよなぁ。と思いつつ紗羅につられて周りを見て、僕は口を開けたまま固まってしまった。そこにはまるで日常が広がっていた。


 廊下を行き来する生徒。立ち話をしている女子生徒。ここから見える教室では、男子生徒が机に座って、周りにいる生徒に話している。ぱっと見はいつもの学校の風景。違うのは……

 生徒たちの服装や髪型、ここから見える色々な物が年代を感じさせるものだということ。そして、まるで古い写真のように、色あせていることだ。


「あ!冬弥は、木下君は?」


 慌てて周りを見るが、冬弥も木下君も見える範囲にはいない。思わず二人の名前を叫びそうになるのを必死で抑え込んだ。慌てて階段の方を振り返ったが、そこには普通に何人かの生徒が階段を上り下りしている光景があった。


「紗羅……これは、なに?」


 勝手に震えだす唇を何とか動かしてそう言ったけど、紗羅の後頭部は左右に振られただけだった。そして僕はもう一つの異変に気付く。


 今、僕は廊下に座り込んで周りをきょろきょろと見回し、紗羅はその僕を守るように、僕の前に膝立ちになって構えている。そんな状況なのに……誰一人僕達の事を見ようとしない。廊下を歩いて僕たちの前を通り過ぎる生徒も、僕達などまるでそこにいないように、見向きもせず横切っていく。


 紗羅は周りを警戒しながら立ち上がり、僕を立たせると壁を背中にするように移動して、再び僕の前に立った。

 情けないけど、僕は紗羅がいてくれることで、僕を背中にかばってくれていることで、大分落ち着きを取り戻してきていた。まるで訳が分からない状況だ。だからといっていつまでも放心していられない。紗羅が守ってくれているんだ。僕はこれが何なのか少しでも解き明かす。


 周りを見て不審なところや違和感を感じた所を一つ一つ口に出して確認していく。とりあえず少しでも状況を把握するために……。


 そんな僕の独り言を背中で聞きながら、紗羅もまた安心して僕に委ねてくれていた。

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