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2-11 調査開始

「あ、冬弥出てきた。おーい冬弥」


 僕は肝試しの出口から少し離れた所で皆を待った。二組が終わり、紗羅たちの三組が始まって紗羅と木下君と合流。今は四組の番になって出席番号の速い冬弥は初めの方に出てきた。


「なんかむかつく」


 ぽつりと紗羅が呟く。出てきた冬弥のペアは出口を出ても腕を組んだままだったから。そして僕たちに気付いた冬弥は慌てだした。


「あ!……ね、ねえ。もう出たからだいじょうぶだろ?そろそろ離れて?俺友達と約束あるんだ」


 そう言って腕にしがみつく女子生徒を引きはがそうとする冬弥。その言葉に「えー、こわいー」などと言いつつ、なぜか僕の方を睨む。


 ――ちっ!じゃますんな


 なぜだかそんな心の声がはっきりと聞こえた気がする。冬弥に抱き着いた女子生徒は、僕を睨みながら冬弥には甘えた顔をするという無駄に高度な技術を駆使しながらようやく離れて行った。なぜか僕のヘイトが最近急上昇している気がする……。


「ふう、大変だったぜ」


 そう言って額の汗をぬぐう仕草をしながら冬弥は冷たい視線を送ってくる沙羅と木下君から視線を逸らしている。なにしろしっかり肩を抱いていたからね。


「し、仕方ないだろ!ああ見えて目茶苦茶怖がってたんだよ」


 冬弥はそう言って弁明するけど、あの女子生徒が僕の方を睨む顔を見た後だと説得力がない。


「お、逢介はどうだったんだよ!誰と組んだんだ?」


 苦し紛れに言った冬弥の言葉に、紗羅の耳が動いた。気にしていない素振りをしているけど、完全にこっちに耳を傾けてるよね、あれ。


「いくらお前がボッチでもペアで行くのが条件なんだから誰かと組んだんだろ?白状しろ!」


 紗羅が向こうを向いたまま近づいてくる。……この流れで両腕に女子を抱き着かせて来ましたなんて事を言ったら……。こ、怖いかも。


「ぼ、僕はどうだっていいだろ。少なくとも冬弥みたいに肩を抱いて出てきたりしてないから」


 何とか追及を逃れようと僕は焦点を冬弥に戻そうとした。すると、冬弥は何を思ったのか口元に手をやってニヤニヤと笑いだした。


「な、なんだよ……」


「もしかして逢介……。お前が犠牲者になったのか?」


 プププ、と笑いながら冬弥はそう言った。


「何だよ犠牲者って」


 犠牲どころか、人にとってはものすごくうらやましがられるような肝試しだった逢介は、冬弥に聞く。


「俺さ、先輩たちからまことしやかに語り継がれる肝試しの悲劇を聞いていたんだ。まあ面白いから黙ってたんだけど。なあ、逢介。二組って生徒の数が奇数だよな?」


 ニヤニヤしながらそう言う冬弥に僕はどきっとする。一組も三組も四組も偶数なのに、二組だけが奇数なのだ。


「当然これまでもクラスの人数が奇数だったこともある。でも奇数のクラスにいた先輩から聞いたんだ。余った生徒は……」


 もう隠そうともせずに、冬弥の話に興味津々な紗羅と、それを苦笑いで見ている木下君。それから僕の顔を見た冬弥はとてもいい笑顔で言った。


「余った生徒は先生と一緒に肝試しするんだってな?逢介、当たったんだろ?お前クラスに親しい女子なんていないもんな?」


 そう言って笑ってくる冬弥に、喉元まで「今さっき仲良くなった娘がいるよ!」と出かかったけど何とか飲み込んだ。さすがに両手に花状態だったことは言えない。押し黙った僕に冬弥は図星だったと思ったようだ。

 大笑いしながら僕の肩を叩いてくる。


「いや、もしかしたらとは思ってたんだよ!ププ……さすが逢介、期待を裏切らないな!ぷぷっ。よかったじゃないか、お前怖がりだから、先生と一緒だったらさすがにこわくなかっただろ?」


 ばんばんと僕の肩を叩く冬弥の横では、紗羅がこぶしを握り締めて謎に悔しがっている。


「く……私がおんなじクラスだったらおーちゃんにそんな屈辱味あわせなかったのにっ!」


「いや、屈辱って……」


「あはは……」


 肝試しが終わるまで、そんな冗談を言い合いながら時間をつぶす。そして僕は再確認していた。


 ――やっぱり僕の居場所はここだな、って。別にクラスで浮いてるわけでもいじめられてるわけでもないけど、なんとなく感じるアウェー感。それがここにいると全く感じない。


 紺野さんもここにいる僕を見れば安心してくれるんじゃないかな?って少しだけ思った。


 ◆◆◆◆



 懐中電灯を持った先生たちが最後に誰も残っていないか見回りをして、肝試しの時に辺りを照らしていた照明を片づけていく。少しずつ本来の暗さを取り戻していく旧校舎は、ここからが本番だとそびえたっているように見える。

 最後に出てきた先生がしっかりと施錠をしてから僕たちは行動を開始した。


 冬弥が出した「課外活動の申請書」には、活動の場所が時間外の校舎と書かれてある。それは当然普段使っている校舎を指すものなんだろう。今日は宿泊訓練もあっているので先生方も数人宿直されるみたいだ。僕たちが寝る体育館に数名、万が一急病が出た時のために保健室や、校舎の宿直室にも泊まる先生がいるらしい。

 だからこそ時間外の校舎に入る許可が簡単に下りたんだと思う。まさか許可を出した先生も、夜に旧校舎に入ろうとしているとは思わなかったに違いない。


「でも冬弥、鍵はどうすんのさ。さっき先生しっかり施錠してたけど」


 申請上は校舎の使用で、今日は校舎は開いているので、特別鍵の貸し出しなんかもされていない。というか簡単に貸し出ししてくれないだろう。


 僕がそう言うと、冬弥は悪い笑みを浮かべた。


「まあ、そこは黙ってみてろって」


 それから十分後、僕たちは旧校舎の中にいた。


「ラクショーラクショー」


 そう言って冬弥は先端が変な形をしている棒とエル型の細い板を手の上でポンポンと跳ねさせている。


「冬弥……これって犯罪じゃ?」


 僕がそう言うと冬弥は真面目な顔になって言った。


「何言ってんだ逢介。あのカギは古くてしっかり締まらないんだよ、多分。で、普段使わない通路だから先生たちも気付かなかったんだよ、きっと。」


 そう言う冬弥に僕は大きなため息を落とす。なんと冬弥は、旧校舎の勝手口に使われている南京錠をピッキングして外してしまったのだ。


「完全に泥棒の手口じゃないか……。てか、何でそんなことできるんだよ?」


 非難する目で見る僕から視線を逸らした冬弥はへたくそな口笛を吹いてごまかしながら言った。


「南京錠くらいなら簡単だぜ。逢介も覚えてみる?」


 そう言って肩を組んでくる手を跳ねのけながら僕は言った。

 

「やらないよ!」


 冗談じゃない。泥棒が入ったら真っ先に疑われるじゃないか。そう言ったら冬弥はそれもそうかー。と軽い口調で笑った。


「冬弥!」


 僕は冬弥の前に手を出した。


「ん?何その手」


 「さっきの道具!僕が預かる。そしたら鍵はあけられないだろ!」


 僕がそう言うと、冬弥は僕を見たまま固まった。


 「冬弥!」


 これは譲れない。少し強い口調で言うと、冬弥は口をムニムニと動かしたが何も言わず僕の手にさっき使った道具を乗せた。僕に道具を取られたというのに、冬弥はどことなく嬉しそうな顔をしている。


「わかってんのかなー?」


 僕がそう言いながら冬弥の肩に軽くグーパンチをしていると、紗羅が僕に並んだ。途端に逃げ腰になる冬弥。


 それを見て首を傾げた紗羅は、今度は僕に手を出した。


「おーちゃん、一個頂戴。そしたら使えないでしょ?これは拾った。何に使うものかも分からなかった、いい?」


 僕の手から二本あった道具のうち一本を取った紗羅は、それをさっさとポケットに仕舞いながらそう言った。そんな紗羅の心遣いが嬉しくて僕は笑顔になって頷いていた。


 「……で?冬弥は何を構えてるの?」


 隣で変な構えをしている冬弥に言う。


「いや……。蒲生も肩パンしてくるのかなと思って……思わず」


 そんな冬弥に、紗羅と顔を見合わせて呆れる。そして同時に言う。


 「そんな紗羅みたいな細い腕のパンチを怖がるなんて……あそこで見た蹴りは凄かったけどさぁ」


 「私はパンチは苦手。頑張っても瓦だと十枚くらいしか割れない」


「え?」


「え?」


 暗闇の中に決まずい沈黙が広がる。


「じ、じゃあ、みんな行こうか!ぐずぐずしてたら自由時間も終わっちゃうよ?」


 そう言った木下君の言葉に、一も二もなく全員が賛同するのだった

 

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