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2-8 黒い指と不安

「ほーん。それでその指か」


 次の日の昼休み。いつものようにやってきた冬弥に昨日の事を話した後、指を見せた。

 興味深々の様子で、眺めたり触ったりしていたが、僕には何も感じない。


 そうなのだ。ぎこちないながらも、なんとか動かすことはできるものの、ゾッとするくらい冷たく触っても感覚はない。


 ……まるで、指だけが僕のものではなくなったようにも感じる。

もし、ずっとこのままだったら……。

 

「大丈夫だよ。きっとこの件を解決したら元通りになるって!」


 僕は心配しているというのに、気楽に言う冬弥を思わず睨む。


「他人事だと思って!こっちはすごく不安なのに!」


 ごめんごめん!とちっともそう思ってなさそうなことを言う冬弥は、少しだけ真剣な様子で声の調子を落として言う。


「実はな、あれから少し進展があった。例の姿見、過去に女生徒が失踪した事件に関わってそうなんだ。逢介、これは単に斎藤のストーカーだけじゃなくて、もっと深い闇があるぞ」


 そう言った冬弥の言葉を聞いて、僕の背中を冷たいものが走った。


「おーい、神野!お客さん」


 その時、教室の入り口のほうから、クラスメイトが逢介に向かって大声で教えてくれた。


「お客さん?」


「逢介が話しかけられた!?」


 同時にまったく違う内容の言葉をつぶやいた僕たちは、教えてくれたクラスメイトのほうに顔を向けた。


 冬弥は後で覚えとけよ?

 

 とにかく声の方を見ると……暗い顔をした紗羅と、不安げな表情の木下君が立っていた。


「おーちゃん!」


 僕の顔を見た途端、パタパタと走り寄ってくる紗羅。木下君も一緒に走ってくる。


「どうしたの紗羅、何かあったの?」


 僕がやって来た紗羅にそう言うと、紗羅は何も言わず、また僕の腕に顔を伏せた。


「紗羅?えーと木下君、何か知ってる?」


「あ、はい。実は……」


「なぁ、場所を変えたほうがよさそうだぜ?」


 話し出そうとした木下君の言葉を遮って冬弥がそう言った。


 その冬弥の視線を追うと……


「ひっ……」


 クラスのほとんどの男子が妬ましい顔で見ていた。そして女子は何人かのグループでコソコソと話している。


 それを見た木下君も、俯いて黙ってしまう。


 ――だああ!そうだった。紗羅はかわいいって話題になってたんだった。

 そして、ほとんどの人が僕と紗羅の関係を知らない。


 あいつ、いつの間に転校生と仲良くなってるんだ?

 ちっ!抜け駆けしやがって……


 なんかそんな心の声が聞こえてくる気がする。


「と、冬弥!」


「よし、部室行こうぜ!」


 ◆◆ ◆◆


「な?よかっただろ?ここがあって。クラブ作っといて」


 理科の準備室兼民族風土クラブの部室で、嬉しそうに言う冬弥に、「はいはい」とおざなりな返事をして僕は木下君を見た。

 ちなみに、前と同じようにソファに座った僕に、元気のない紗羅はトボトボと歩いてきて、僕の足の間に座った。


 ……なんで?


 しかも有無を言わせず僕の手を掴んだ紗羅は、自分のお腹の前で組ませるようにしている。

 ……完全に後ろから紗羅を抱っこする形だ。


 紗羅……木下君が頬を赤くしてるから……


 そして、いつものことながら、元気がない紗羅がそうするのを断れない僕……。


「いいなぁ、逢介は。お前だいぶやっかまれてるからな?ほんと気をつけろよ?」


 冬弥はソファに座りながら、呑気にそんなことを言ってくる。

 そう言われても……。この場合どうするのが正解なのか誰か教えてほしい。


「え……と。話してもいいかな?」


 木下君だけが話を進めようとしてくれていた。


「あ、ごめん。木下君お願い」


 僕はそう言って木下君に向き合う。すると、コクっと頷いて顔色の悪い木下君は話し出した。


「……今日は朝から斎藤くんが来てなくて、ホームルームで先生が彼は怪我をしたから病院に行ってから来るって言ったんだ。そして、三時間目の途中に来たんだけど……」


 木下君がそこまで言うと、紗羅がきゅっと僕の手を強く握った。


「片目に大きな眼帯をしていたんだ。いつも周りにいる子達なんかは大騒ぎしちゃって……。で、次の休み時間に紗羅ちゃんの席まで来た斎藤君は、目も合わせずに俯いている紗良ちゃんに言った」


「絶対許さないからな……って。斎藤君ってさ、いつもニコニコして話しているから、見たことがないくらい怒った顔で言ったんだ。一気にクラスがシーンってなって……」


 そう言うと木下君は、元気がない紗羅を心配そうな目で見た。


「はああっ!?なんだよそいつ、自分が蒔いた種でそうなっといて!恨むにしても逢介だろ?なんで蒲生にそんなこと言うんだ、信じらんね!」


 それを聞いた冬弥が騒ぎ出す。僕もまったくおんなじ気持ちだけど、今は紗羅の方が心配だ。


「紗羅、大丈夫?」


 僕が紗羅にそう言うと、紗羅は背中を僕の方に預けてくる。


「うん……私は多分大丈夫。私はおーちゃんの方が心配。あの時、斎藤君が許さないって言った時の目は、私を見ているようで見てなかった。あれはきっと、おーちゃんに対してだったと思う」


 紗羅の話を聞いただけだったのに、僕の背中に寒気が走った。


「でも、紗羅ちゃんもだよ。斎藤君はすぐに自分の席に戻って、その後は何も言ってこなかったんだけど……斎藤君の周りにいる女子達が紗羅ちゃんのことをすごい顔で睨んで……。ボクも近くにいたんだけど、すごく怖い雰囲気だった。だって、あの言い方だと紗羅ちゃんのせいで怪我をしたと思われても仕方ないもん」


 木下君がそう言って紗羅を心配そうに見る。同じクラスに木下君がいてくれてよかった。きっと紗羅もだいぶ心強いだろう。

 それにしても……


「ねえ、冬弥。斎藤君はその七不思議の姿見を見て、紗羅を覗いていたのかな?」


 僕がそう言うと、冬弥はどこか悔しそうな顔をして答えた。


「……わからない。色々調べて、その姿見が七不思議になる由来とかはわかったけど、そこから先が……ウワサでは、好きな人のことがわかるってだけしかないんだ。具体的な内容がいくら調べても見つからないんだよ」


 斎藤君はどうやって紗羅の部屋に「目」だけを送り込んだのか……そもそも、本当にあの「目」が斎藤君であるという証拠もない。

 斎藤君の目の怪我だって、たまたまものもらいにでもなっただけって可能性もある。


「……やっぱり直接調べるしかないよ。宿泊研修の自由時間……みんなで見にいこう!旧校舎にある片思いの姿見ってやつを……」


 僕がそう言うと、紗羅は僕の手をギュッと掴んだ。


 そして、泣きそうな声で言う。


「ごめんね、おーちゃん」


 紗羅がそう言うのを聞いて、僕は何とも言えない気持ちになった。

 紗羅のお腹に回してある手に、ちょっとだけ力を込める。


「紗羅が謝ることなんてないよ。何も悪いことなんてしてないんだから」


 僕が言うと紗羅は、小さな声で言った。


「でも……。おーちゃんそういうとこに行くの嫌でしょ?それに私のせいでおーちゃんの指が……」


 紗羅は僕の人差し指が黒くなったのも気にしているみたい。


「だからこそ、行かないといけないんだよ。どうしてこうなったのか原因は究明しないと」


 そう言うと紗羅は、あまり動かせずに伸ばしたままの、僕の黒い指を優しく撫でた。


「ともかく、もう宿泊研修は今週だからな。姿見を見て何かわかればいいけど……それまで気をつけろよ蒲生……逢介もな」


 少し眉を下げて言う冬弥に紗羅は小さく頷いた。そんな紗羅を悲しげに見る冬弥は少しおどけて言った。


「まぁ、なんかあっても逢介がすぐに助けに行くから!なんなら初めから添い寝でもしとけばいいんじゃないか?」


 雰囲気を明るくしようと思ったのだろうが……


「……そい、寝?」


「紗羅……?真面目に検討しちゃだめだよ?」


 一応言っておくと、紗羅は少し寂しげに振り返って言った。


「だって、おーちゃんが手を握っててくれてたら安心して寝れるから……」


 紗羅のそういう顔に弱い僕は、「す、すぐ来れるから……」と言って添い寝は避けようする。

 くそ、冬弥!ニヤニヤして見やがって!


「ダメ?」


「うっ……仕方な……いや、ええと……あ、さすがにそんなことしたら紗羅のお父さんに叱られちゃうよ」


 僕がそう言うと、紗羅も「そっか、そだよね」と言って前を向いてくれた。

 ホッと胸を撫で下ろす僕の視界に、「あーあ……」と言いだけな冬弥の顔があった。


 


 

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