それぞれの歩む道
「あはは、本当に新婚旅行するんだね」
腹の突き出た中年男性と、誰の目から見ても美しい銀髪の少女が手をつないでいた。館里駅の改札で、透理達裏社会組と中年男性の経営する焼き肉屋のバイト組が見送りに集まっていた。
結婚といってもまだ式は挙げていない。もう少しウォルが成熟してから挙げるという。その時は是非ともこの館里市で行ってほしい。そう思う透理は二人を祝福する。新婚旅行と口にしたが、店長が焼肉屋だけではなく幅広い料理の技術を身に着ける為に各国を修行しにいくという。今後寄り添う相手に付いていくと言うウォルを、店長は快く承諾した。
「トゥリ、必ず戻ってくる。私、トゥリ好き。また、ご飯作る」
「うん、楽しみにしてるよ。ウォル、店長をよろしくね!」
「任せて。私、店長を守り切る。絶対に」
「がはは、嬉しいねぇ、本当にウォルちゃんが俺の嫁さんになってくれるなんてよぉ」
今でも信じられない現実に店長が涙して、バイト達が深々と頭を下げた。
「店長、どうかお幸せに! 店長が帰ってくるまで俺たちが店を守り切って見せます! ウォルさん、店長をよろしくお願いします!」
ウォルは頷く。
「式は是非、私の協会で挙げてくださいな」
ライナは聖女のように優しく微笑みながら、結婚式パンフレットを手渡した。
電車が到着する――館里市の電車は一時間に多くて二、三本。二人は切符を改札に通して階段を降りて行った。しばらくして電車の発車を合図する駅員の笛が聞こえ、二人を乗せた電車が東京に向けて走り出していった。
「行っちゃったね」
「あぁ、だが、戻ってくるだろう。戻ってきたら盛大に祝えばいい」
嬉しさ半分に寂しさを漂わせる透理の肩に、ルアがそっと手を置いた。そのタイミングでライナも言いずらそうに口を開く。
「私も実は一年ほど、この町を離れなくてはいけなくなってしまって、協会からの呼び出しを――」
「クク、お前、何かやらかしたのか?」
「黙りなさい、切り裂き魔! 執行――ごほん、簡単に言えば信者たちの報告会といったところよ」
執行会と言いそうになったのを言い直す。この場には焼肉屋のバイト達――一般人もいることを配慮しての事。
「あ、透理さん、そんな落ち込まないでください! 大丈夫です。私は一年ほどで帰ってきますから」
「うぅ、大丈夫だよ。休日はちゃんと協会の子供達と遊んで待ってるから」
「ええ、あの子たちの事宜しくお願いしますね」
ウォルに続いてライナまでこの町を離れてしまう。
「ははは、えっと、津ケ原君。僕も、その……都内の学校に異動することになっちゃって」
「――えぇ!? いつ! いつからっ!?」
「今年の四月からはもう向こうの学校に、ね」
「荻先生、ボク達の卒業式を見届けてくれないの!?」
「だ、大丈夫ですよ。来年の三月はズル休みしてでも、見に来ますから、ね! 立派に卒業する津ケ原君達をしっかり、先生見ていますからね」
荻までもこの町からいなくなる。親しい間柄の者達が自分から遠ざかっていく寂しさに涙しそうになる。でも、透理は泣く事を良しとはしない。笑顔で見送ると決めていた。
「じゃあ、帰ってきたときにはお土産よろしくね!」
「もちろんですよ。先生、頑張っちゃいますよ」
ついには聖羅まで肩を竦めた。
「私は世界を旅しようと思ってる。せっかくの人生だ、楽しい事でも見つけて生きていくさ」
「聖羅もなの!? どうして、みんな……」
「私は、お前や幹久と香織に償わなきゃいけない。なに、連絡先は教えてあるだろ、ルアで対処できない事があれば私に相談しろ。直ぐにお前の下に駆け付けてやる」
「うん、分かった。聖羅も旅行中に体壊したりしないでよね。聖羅の償いは生きる事なんだから」
「分かっているよ」
結局この町に残るのは自分とルアだけ。各々の生き方を歩んでいくのだ。自分もこれからの残った人生を魔術師として、一人の人間として悔いのない生き方をするつもりだ。
「おい、ルア。ちゃんと透理の面倒を見ろよ。私の親友達の子供なんだからな」
「言われるまでもない。私は自分の弟子くらい……どうした、透理?」
「むぅ、確かに弟子だけどさぁ」
「はぁ……恋人で、いいのか?」
「うん! お父さんとお母さん公認の恋人だよっ」
体育会系の焼き肉屋メンツが二人を囃し立てる。独身者であるライナ、荻、聖羅はそっと目を逸らす。まるで、眩しい太陽から逃れるように。
「おい、独身者の会を作るぞ! 今日はこの後、こいつらの店で食って飲んで叫びまくる。代金は私が出してやる!」
「ここは執刀……稲神聖羅の誘いに乗ってやりましょう」
「あはは、奇麗な女性二人と一緒にお酒が飲める日が来るなんて、僕は感激だなぁ」
「三名様、ご利用ありがとうございます! 独身者様の会で予約を入れておきます!!」
バイトリーダーが聖羅からげんこつをもらって昏倒してしまった。これが日常である。透理の選んだ選択と、仲間との絆によってもたらした最高の未来。
透理は再びルアを見上げる。
「ねぇ、ルア」
「ん、どうした?」
「大好きだよ」
「……私もだ」
彼らの意識が此方に向いていない今のうちに、透理はルアの肩に両手を置いて屈ませる。何がしたいのかと言いたげな表情のルアに――柔らかな口づけをした。
短い時間の触れ合い。唇を離した透理の心臓はバクバクとしていて、体中をめぐる血液の流れが激しく、頭がボーっとしてしまう。そんな初めての接吻にルアが、小さく――本当に自然で柔らかな微笑みを浮かべた。
こんばんは、上月です(*'▽')
うぅ……残すところ一話になりました。
この作品は私の中で『魔術と魔法』の違いを明確化させてくれた作品です。
透理やルアを初めとした数々の登場人物たちは、私にとってとても大切な友人です。
最終話の投稿は明日の夜を予定しておりますので、是非とも最後までお付き合いください!




