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誰かと繋ぐ絆

 透理は絆を想う。


 誰一人欠けさせない。未来を司る魔導書を通じて視た一番幸せな未来像。絆の力で通じた相手の力を自分のものであるように使う、魔術師として異質で特異な魔術。


 透理の内面は温かなもので満たされている――それは母と父の愛――それは仲間たちとの絆。今を生きる幸せを噛みしめた少女は、他人の真似事ではなく、本来の在るべき形での魔術を行使する。


「孤独はとても寂しい。誰かと寄り添いたい。大丈夫、一人になんてさせないから。キミにはボクがいる。キミを受け入れてくれる世界がある。だから、孤独に生きる世界から一歩を踏み出しておいで。今までとは見える世界が違うから――誰かと繋ぐ(オザスト・)絆の物語(トリフィー)


 魔術提唱はとてもゆっくりと、誰かに言い聞かせるような声量。それは他人か、自分自身へか。聖羅の展開した美術館りょういきにヒビが入る。魔術より高濃度で形成された秘術が透理の魔術によって打ち砕かれる。本来、魔術が秘術を打ち破るなどありえないことだった。それも稲神聖羅という最高位にして人の身で真理に到達した秘術を、見習いの魔術が凌駕した。


「ば――馬鹿なッ!? 秘術を、私の秘術を破っただと!」


 開いた口が塞がらない聖羅。


「透理……ふふ、ははははは。キミは、キミは面白い子だな。私の弟子にしておくのが勿体ないくらいだ」


 魔術師の基本概念を無視して覆して見せた透理に、表情を作る事が苦手だったルアをしても大笑いさせた。固定概念や自分理論に囚われやすい魔術師の根底を否定された気持ちで、瓦解する美術館を――自分や聖羅、他の魔術師達が長い年月を掛けて積み上げてきたものは、なんだったのだろうかと眺める。


 透理の足元から広がる半透明の魔法陣――光が噴水のように高く伸び、世界を包み込むように覆い被さっていく。優しい光はルア達だけに留まらず、彼ら同様に狼狽えているオキニウスさえも光は抱擁する。邪魔だ、鬱陶しいというように光の抱擁を拒絶して腕を振り回し、魔術式を打ち出すが、全てを無効にする――強制的な抱擁。


「や、やめろ! 我は、我は……アァ」


 肩の力が抜けたオキニウスは膝から崩れてうなだれる。一人は寂しい――ずっと城の地下に閉じこもって、自分を最強だと思いたいから、地下に来た不遜な輩を食い散らかしていた。違う、とオキニウスの真我が否定した。本当は――。


「友人が――いいや、契約を誰かと――違う! 我は最強を求め、人の肉体を奪うために――それはたんなる思い込みだった。本当は誰かと過ごしたかった。だが、誰もが我に危害を――止めろッ! 我を覗くなァ! これ以上余計な事を喋らせるな!!」


 オキニウスは自分の首を両手で締め上げる。無様な醜態を晒そうというのならいっそのこと自害してやろうと。これ以上は弱みを見せてなるものかと力んでいく。


「もう、やめようよ。自分を偽るのって辛いよね。一人は寂しいよ。だって、ボクも、お父さんとお母さんが亡くなって寂しかったんだもん。大丈夫だよ、まだ、やり直せるんだ! オキニウス、ボクと契約しろよ。ボクが死ぬまでなら、ずっと一緒にいてあげるから」

「――なに、を」

「言っている意味が分からないの? ボクと友達になろうって言ってるんだよ!」

「友達……」


 オキニウスの首を絞める力が確かに緩んだ。


「辛いことがあったら相談に乗るし、寂しかったら抱きしめてあげる。ここにいる皆で遊ぶんだ! 辛いことなんて考えられないくらい楽しい思い出を、いっぱいいっぱい作ろうよ」

「我は……聖羅の身体を乗っ取り、貴様の両親を」

「……過去、だよ。そもそも、お前をへそ曲がりに仕立て上げたのはボク等人間だろ?」


 言葉を紡げないオキニウスは、肩を震わして小さな嗚咽を漏らす――辛かったと。光の差さない暗闇で一人、数十数百年と過ごしてきた孤独を嘆く。子供のように蹲る巨大な悪魔を、透理は優しい声音で語りかける。


「もう、一人じゃないね。ボク達は友達になれるよね?」


 小さく頷いたオキニウスに、気が済むまで涙を流させる。その間、透理は母のようにポンポンと――背中まで手が回らないので、腕にそっと優しく手を当てる。


 その様子を遠巻きに眺めるルア達は呆れていた。こんな幕引きがあったのかと。殺すか殺されるかの世界で生きていたからこそ見落としていた、和解という終結。この場にいる敵同士を引き合わせた透理だからこそ成せた勝利。


「いいや、引き分け、か」

「クク、そうだな。和解には勝者も敗者ない。上下関係がそこにはないからこそ引き分けなんだ」

「トゥリ、お母さん、みたい。お酒、勉強する」

「はぁ、もういいわよ酒で。でも、そうね。今の透理さんは聖母のように見えますわね」

「うんうん、津ケ原君のああいう所が、先生は好きなんですよねぇ。あんな奥さんが欲しい……」


 荻の切実な結婚願望は、そこそこいい歳をした聖羅、ルア、ライナの胸に何かがグッサリと深く突き刺さる。返しが付いた針のように引き抜けない呪いのよう。聖羅は自分の時間が止まっているが、実年齢はもう四十に到達している。ルアとライナは三十路を控えている。


 全員が美形ではあるが、魔術に没頭し、信仰に没頭し、魔法の砂に没頭し、恋人を作る暇もなかった独身者たち。


「あぁ、独り身は寂しいなぁ」


 荻が呟く一言一言が、ウォルを除いた大人たちに、深い傷跡を刻み残していく。

こんばんは、上月です(*'▽')


残すところ『世界真理と魔術式』も後わずかとなりました。


次回の投稿は30日の23時~24時を予定しております!


次回作の方もストックが温まってから投稿しはじめますので、よろしくお願いします!



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