絆の魔術師――津ケ原透理
母と父の温かさに、このまま溺れていたい。
少し離れた場所ではルアが、聖羅が、ウォル、ライナ、荻が弱った悪魔と対等に死闘を繰り広げている。聖羅の魔術の最奥――秘術によって、オキニウスは常に身体の内外を秒単位で切り刻まれていき、彼に立ち向かう者達の怪我や傷を切り取っていく。常に治療される者と切り刻まれる者。
このまま続ければ、消耗戦でオキニウスが終わりを迎えるのは明白。
「透理の運動会とか合唱祭とか文化祭を見に行きたかったなぁ。ふふ、でもちゃんとお空の上からみていたんだから。はぁ、テストの点が低いのは、お母さん悲しいわぁ」
「あはは、それは香織ちゃんに似たんじゃ――ごふぅっ!!」
「幹君が意地悪を言うぅ、透理からお父さんにビシッと言ってあげて。お母さんを苛めるなぁって」
子供っぽい面は母から強く引き継いでいて、父の聡明さは一切に受け継がれなかった。内心でちょっと悔やむ。
「ボクは、お父さんの何処に似たんだろう」
「う~ん、家事全般が出来るところじゃないかな? 料理とか掃除とか?」
料理や掃除はやってくれる人がいなかったから自分で覚えた。もしかすると勉強以外でそういう家事の覚えが良い部分は父譲りなのだろうか。ちゃんと父と母の遺伝子を受け継げている事に、嬉しさが心を満たしていく。
どうかこのまま時間が止まってしまえばいいと考えそうになり、それを見透かしたような母が透理の額に自分の額を当てる。
「時間が止まっちゃったら悲しいわよ。動かないんだもの。透理は自分の愛した街と人を助ける為に寿命を削っちゃったけど、残った時間を精一杯生きなさい。天寿、とは言えないけど、寿命を全うしたら、誇らし気にお母さんたちの所に来て、そして、幸せな自慢話を聞かせてちょうだい」
「それまで、待っててくれる? 輪廻転生してて、ボクが会いに行ったら、生まれ変わってましたなんて行き違いは嫌だからね!」
「ははは、大丈夫だよ。僕たちはもう透理を置いてはいかない。ちゃんと待っているから。そして幸せ話をする為にも」
透理の肩に両手を置く幹久は、クルリとその場で回れ右させる。透理の視線の先には消耗戦で怪我を治癒してはいるが、怪我を被っている仲間たちの姿。
「あんな引きこもりの悪魔なんて、ぶっ飛ばしちゃえ!」
「今は皆との時間を大切にね」
「――お父さん、お母さ……」
既に両親の姿はなかった。世界の全てを切り取った聖域――透理の絆の魔術理論が干渉し、他界した両親と繋がって触れ合い、言葉を交わすことを可能とした。両親の期待に応えてやろうと透理は、ニカっと笑ってオキニウスに特攻する。
透理が絆で扱う魔術――無限言語の魔術。
その名の通り無限の言葉で世界を識る魔術理論。いかなる相手もその言葉の前には従わざるを得ない。
「十三世界の悪魔よ。ボクの言葉を聞けぇ! 今回は無償で働いてもらうぞ!」
契約悪魔を同時に強制召喚――何が起きたのか分からぬ悪魔達に透理は続ける。
「目標はあのオキ……えっと、あの悪魔! お前達を下等な十三悪魔と馬鹿にした奴だ!」
「ほぅ、ワシ等を下等呼ばわりとは、あの異界の悪魔も抜かしおるわ」
「透理さ……たし、戦う」
「透理殿の言葉は拙者の胸に刻み込まれた、でござる。妙にそそられる言葉の羅列であった!」
キャストールが、フェーランが、パフデリックが――その他の悪魔達が嫌悪せず、友人のように透理へ語り掛ける。これは、言葉で分かり合えないはずがないという、津ケ原幹久の魔術。
「十三世界の悪魔を呼びつけたか。邪魔だ邪魔だ邪魔だァ! 我は悪魔の頂に坐する者だ。下等な悪魔や人間の分際で頭が高いぞッ!」
オキニウスの一喝でその場の全員が吹き飛ばされる。切り刻まれた肉体から血飛沫が美術館に飛び散っていく。筋肉の裂け目は赤黒く、左腕は健を切られて動かせないでいる。それでもまだ、これだけの力を残すオキニウスは格が違った。
十三の悪魔達がオキニウスの行動抑制に働き、残った人間組は攻撃に集中できる。
「ええい! もう、いい加減くたばったらどうだ。この分ではお前に勝ち目は無いだろうに」
聖羅は秘術の維持に全精神を注ぐが、傷は治っても魔力はものすごい速さで消費されていく。その消耗具合は見習いである透理でも見て分かる程。それほどまでに魔術の極地というのは人間には身に余る業なのだ。
ルアも秘術である大図書館を展開――その後にはあの惨状。血と肉をまき散らした最期。今回は聖羅の秘術によって上書きされたことにより代償は無効となる。この危機を脱しても、代償を受けるのは聖羅になる。
透理は探求する――自分が求める結末への道のりを。
こんばんは、上月です(*'▽')
次回の投稿も明日の23時から24時を予定しております!




