会いたかった人達
冷たく、触れる物全てを切り裂くような魔力。
「一つの世界、一つの命、私が求めるたった一つの真実を探求すべく、薄皮一枚一枚を裂いていく。それは途方もない作業。命尽きる前に終わるかも分からぬ繰り返しの執刀。時を忘れ、私は真実の殻に刃先を這わす。ゆっくり、ゆっくりと、慎重に切り開き至れ――多元多層の永久執刀」
聖羅は子守歌を歌うように穏やかな口調で詠唱を囁きかける。世界を識る為に至った探求法の極地。その神秘は魔術より色濃く鮮やかに、幾重にも連なる世界に執刀の切っ先を入れていく。世界がまた一枚切り取られる――眩い執刀痕に大図書館が覆われた時には全てが無と化していた。
「ルア、透理、よく見ておけよ。これが私の求めた世界真理だ」
「これが、世界真理なの……か」
「凄い……」
ルアと透理はこの光景に言葉を生み出せない。生み出そうとすればそれはこの世界の品格を貶めてしまいそうな――それほどまでに澄んだ世界。聖羅はこの人類史で初めて真理に至った魔術師として終点を迎えた。
世界の深き場所まで切り取って額縁に収め、四方八方に飾られている美術館。途方もない回廊に差す優しい光が芸術と化した世界図を淡く照らしている。
突然の異変に困惑を隠しきれないオキニウス。それは聖羅を除いた全員が同じだった。言葉で言い表せない清浄な空間。世界の全てを視覚的に事細かく切り取って収めた世界。
「このままでは私の脳が焼き切れるぞ! クソ、余計な世界の情報が私の中に否応なしに入り込んでくる。クク、だが死ぬ前に見れた夢。香織と幹久に語ってやるとするか」
死ぬ前という言葉に反射的に反応を示した透理。詳しい事情は分からないがこのままでは聖羅は死んでしまう。それは透理自身が望まない結末。勝手に満足して死なせてやる程甘くはないと、聖羅に意識を集中させる。
「駄目よ、聖羅。ちゃんと約束したでしょ? 私の……私達の子供を守ってくれるって」
「僕達じゃ、もう透理を守ってあげられないからね」
心理に至った世界――温かな日差しのような二人の声。聖羅と透理は目を剥いて振り返る。そこには透理が焦がれた人達の姿。眩しい太陽のような微笑みを浮かべる両親。
「お父さん……お母さん」
「香織、幹久。どうして……だ」
無視されることを良しとしないオキニウスが唸り声を上げ、邪魔な束縛を弾き飛ばす。掌を香織達に向け――。
「消えろ目障りな過去の亡霊! 我をこれ以上に困惑させるなッ!」
全てを焼き払う業火が光子砲のように放たれる。炎が猛る轟音と熱量が香織を呑み込む寸前に、香織はイラっとしたような表情を浮かべた。
「邪魔! どうして、ジッと待っていられないのよ。感動の再開してるんだから、脇役は引っ込んでて!」
子供を叱咤する母を思わせる香織――業火は風に巻かれたように進路を変えて、オキニウスを呑み込んだ。己の力を直で受けて悶え苦しむ強大な悪魔。苦戦させられたオキニウスを一喝の下に制してしまう。
「お父さん、お母さん!」
「うふふ、透理。大きく育ったのね。流石は私と幹君の娘! イケメンの彼氏なんか作っちゃって。うふふ、隅に置けないわね」
「香織ちゃん、まずは謝らないと。ごめんね、透理を一人にしてしまって」
「ううん! 大丈夫だよ。ボクは一人でも生きていけたし、今はこんなにいっぱいの仲間もいるんだよ。あとあと、えっと、そう。ボクね魔術師になったんだよ」
話したいことがありすぎて何から話せばいいのか。それ以前に彼氏という単語さえその意味を理解していなかった。
「透理の魔術は天才の域だよ。魔術師は基本的に個人で真理に至るからね」
「それって、どういう事?」
「うふふ、お母さんが教えてあげましょう。透理の魔術は――絆の魔術なの。他人と繋がって自分の道を、繋がった人の道を示してあげる魔術理論。みんなで歩けば怖くない、よ!」
「香織ちゃん、それは言い方に問題が……」
自慢の子供の成長に鼻高くする香織の暴走は止まらない。透理も色々と質問したいのに、カラオケでマイクを離さないで次々と曲を入れる系の人みたいに、自分の話したいことをひたすらに話し始める。
「香織、ストップだ。おい! 透理にも話させてやれ。まぁ、親子を引き裂いた私が言うのも違う気がするがな」
困惑する透理に聖羅が割って入る。
「あの悪魔は私に任せて、透理、お前は親子の時間を楽しんでおけ」
透理の背をそっと押した聖羅――背を向けて、ルアや他の面々と悪魔に歩み寄っていく。
こんばんは、上月です(*'▽')
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