第97話「親子で」
休みの日になり、うきうきなセクドに急かされ庭にやってきた。
不思議なものでサラティスは再び朝早く起きるのが苦手になっていた。
それに、皆サラティスに甘くなっており多少寝坊しても許されていた。
森の中で不安で寝れないような日もあったであろう。
なら、心行くまで寝かせてあげよう。
そういった配慮からサラティスは惰眠を堪能できていた。
「サラティス、どこからでもいいよ」
アレシアは椅子に座り二人を見守る。
元気なのはいいことだが、怪我だけはしてほしくない。
セクドなので怪我させるようなことだけはありえないだろうが。
心配なものは心配である。
「サラティス本気でいいよ」
セクドは何となく理解していた。
サラティスが一度も本気を出してないと。
誘拐現場の結末。
森からの生還。
強化魔術を使えることは知っている。
なら、近接戦闘もそれなりに、ジェリドより上なのではないかと。
サラティスに直接教えたことはないが、ジェリドが訓練しているのはずっと見ていたはずだ。
見ただけでできるようになるのなら、苦労はしない。
だが、見ただけで魔術が使えるサラティスである。
なんら不思議ではない。
「いきましゅ」
サラティスもセクドがどれくらい高みにいるか分からないが、近接戦闘において到底敵わないことだけは分かっている。
魔術と違い本気を出したところでなんら問題ないだろう。
「まぁ」
アレシアは驚いた。
サラティスの姿が消えたからだ。
気づけばセクドの目の前にいた。
サラティスはセクドの左腹に蹴りを入れた。
セクドは左腕で受け止める。
「強化魔術も申し分ないね」
セクドはまず確認したかったのでサラティスを攻撃しようとはしなかった。
今の蹴りにしても、蹴りが届く前に迎撃ができたし、腕で防ぐのではなく、足を掴んで投げ飛ばしすこともできた。
「防がれましゅか」
サラティスは体格差の都合蹴りじゃないと満足に攻撃することはできないだろう。
「そうくるか」
だが、それを逆手に取った。
セクドが攻撃してこないなら、何ら問題ない手段。
右手で脚に掌を打ちつける。
「っと」
セクドは一歩後ろに下がる。
サラティスは掌打ち出した勢いで前のめりになりそのまま転倒する。
「!」
一瞬助けようとセクドは手を出そうとしたが、刹那の感覚がそれを止めさせた。
サラティスは転倒したのではない。
自ら転倒したのだ。
正確には転倒ではない。
くるんと空中で回り、脚を振り下ろす。
セクドが抱き抱えようとしていたら、脳天に直撃していただろう。
「ふ」
思わずセクドは笑みが零れていた。
サラティスの攻撃は全て見えている。
セクドの身体能力からすれば、攻撃された後で回避することができ、脅威など何一つない。
だが、その攻撃の手が想像を遥かに超えた一手であり、嬉しかった。
「そろそろこちらからも行くよ。加減はするから」
サラティスの腕は大方掴んだ。
サラティスがぎりぎり避けれる程度で攻撃を繰り出す。
「しゃすがでしゅね」
セクドの攻撃はぎりぎり目で追える。
が、往なした直後、次の攻撃が視界に映る。
全てが抑えられているだろうが、喰らったら死。
そう感じてしまうほど、鋭い鋭い一撃。
が、常に繰り出されるのだ。
「参りました」
サラティスは降参した。
「サラティスはやっぱり天才だー」
セクドはサラティスを抱き上げる。
「びっくりしたわ。サラティスあんな動いて大丈夫なの?」
アレシアは自分では理解できない領域で攻防が繰り広げられていることしか分からなかった。
「どうだい?」
「単純にたくさん動いて疲れただけですね。強化魔術での負担はないです」
「アレシア、問題ないよ」
「そう。ならいいんだけど」
「お父様、どうですか?」
「そうだね。まず、当たり前だけど同年代で比べるなら、上はいないだろうね」
そもそも、五歳児でリステッド家以外で強化魔術を使いこなすなどそうそうできないだろう。
「うちで言うと、入隊したての騎士より強い。二、三年積んだ騎士には勝てないくらいかな」
「なるほど」
やはり、近接戦闘は慣れない相手にしか通用しない。
「そもそも、サラティスの動き方は攻める、不意をつくではなく、不意を作るって感じかな」
「う」
そこまで理解できるのか。
「……」
「お父様?」
セクドは瞼を瞑りうんうん、悩み出した。
「よし、サラティスの練習方針決めたよ」
セクドは笑う。
淑女であれば、心奪われるほどの素敵な笑み。
「下手に攻め方を教えると、悪影響になる可能性が高い」
サラティス程の魔術の腕であればこのままでいた方が絶対に良い。
「それなら、魔術師の弱点である、近接戦闘に持ち込まれた時の対処。それを中心に教えてこうかなって」
「ありがとうございます!」
サラティスは受けに関してはできないに等しい。
攻撃を食らって治しと、強引であったからである。




