第98話「密室、男二人……」
その日の夜、セクドは珍しく調理場に顔を出した。
「いたいた、ダヴァンちょっといいかい?」
「あと五分待ってくれ」
「了解」
調理人に指示を出していたようだった。
「すまないね。料理長を借りるよ」
セクドはダヴァンを連れ自身の仕事部屋に向かった。
「用件はなんだ?」
ダヴァンはどかっとソファーに腰を下ろす。
「単刀直入に言うけど、サラティスに何か吹き込まなかったかい?」
「はぁ?」
ダヴァンは思わず固まる。
「吹き込まれることはあっても逆はねーぞ」
いつも思い付きに付き合うのは自分である。
「っつ。それは感謝しているよ」
肉に菓子。ダヴァンが協力してくれたからスムーズに進んだのは事実だ。
「今日、サラティスと手合わせしたんだけどね」
「ほぉ、でどうだった」
「どうもないさ」
「そうか」
その笑みで分かる。
つまりは、セクドの想像以上にやれたということだ。
「サラティスに戦い方なんて教えたことは一度もいないんだよ」
「俺もねぇぞ」
あるとしたら、包丁を使う姿くらいである。
「騎士になりたてより強いよ」
「は」
「驚かないのかい?」
「今更か?」
他領地に遊びに行けば、誘拐に遭遇。
他領地を通過すれば、聖女と崇められる。
終いには、庭で遊んでいるだけで魔族と友好を結び、人のいない大森林で一月のサバイバル。
「強化魔術使ってだろ?」
「そうだね。さすがに生身じゃ無理だと思うよ」
見るだけで魔術が使えるのだ。
見ただけで、戦えてもおかしくはない。
「気になったのは戦い方なんだよ」
「?」
「私や、騎士の動きを見て、同じように動けるなら分かる。でもね、あの動き方はかなり我流」
「我流か……むしろ当然じゃねーのか?」
習ってないのだから、我流は正しい。
「違うんだよね。傭兵とか、ギルドの戦士みたいに戦う、相手を倒すのが前提の動きなんだよね」
「まてまて、俺は誓って関係ねーぞ」
「……そうか」
「森のサバイバル生活で身についたんじゃねーか?」
「……」
その可能性はある。
だが、対峙した感覚ではつい最近身に着けたような感じはしなかった。
あまりに綺麗、そう反射のような自然な動きであった。
「はっきりいうが、ありえねーと思うぞ」
「ん?」
「サラティス様は剣を振ったり、他人殴るより、菓子や料理作って皆が笑ってる顔を見ることの方が、新しい魔術見て使ってみることの方が好きだろ」
「そうだね」
「家を捨て、争いに身を置く。そんな生き方選ばねーだろ」
「……」
「万が一そんなことが起きたら、遠慮なくお前を殴ってやるぜ」
「ははは、それは遠慮したいね」
「焦る気持ちは分からんでもない。結果的に無事だったが、その間の心労はな」
ダヴァンは持ち出したグラスに、どこに隠していたのか酒の瓶を取りだし注ぐ。
「あるかどうかも分からん遠い未来にあたふたしてもしょうがねーだろ」
「そうだね」
グラスをセクドにも渡す。
「改めて生還に」
「ああ」
グラスは口を交わし、 カランとガラスが鳴く。




