第95話「お風呂」
そして、改めてお礼を伝え、セクドとサラティスは家に向かった。
当然だが、獣牽車よりホンスに乗った方が早い。
だが、ホンスより強化魔術を使ったセクドの方が早い。
すぐに屋敷に着いた。
アレシアが涙を溢れさせながら、抱きしめる。
屋敷中の人間全員が出迎えた。
これには思わずサラティスも涙を零れた。
アレシアと二人きりでお風呂に入った。
湯舟に二人肩をくっつけ合い、静寂な時間が流れる。
アレシアは何があったかは一切聞かなかった。
この後セクドと共に全て聞くので今はただただ、一緒に過ごす時間を心よくまで味わった。
「それにしても、肌も焼けてないようだし、荒れてもないみたいね」
アレシアはサラティスの肌をむにっと触りながらじろじろ観察する。
「森の中でしたし、定期的に水浴びなどもしていたので」
何より役に立ったのは髪を乾かす魔術であった。
光魔術と風魔術を混ぜた魔術。
髪を短時間で乾かすことができた。
そして、それ以外にも服を乾かすのにも有効であると知ることができ、意外な収穫であった。
サラティスは頭をアレシアに預ける。
「そういえば、お兄様とケイはどうしました?」
「ケイト君はお家に帰ったわ」
荷物運びや、避難誘導の手伝いなど直接魔獣と戦うことは結果的になかったようだ。
だが、誰かの為に何かを為したということに、少しだけ誇りに、自信になったであろう。
「ジェリドは学園に戻ったわ」
休みが終わるのでこれも仕方のないことだろう。
「良かったです」
「ふふふふ」
「?」
アレシアは微笑む。
「ジェリドもあの後毎日森の手前まで一緒に捜索手伝っていたのよ」
「お兄様……」
ジェリドもアレシアに良く似てとても優しいのだ。
剣が、訓練が好きなのは確実にセクドの影響だが、気質としてジェリドはどちらかといえばアレシアの方に似てた。
「でも、休みが終わる頃学園に戻るって。もし、学園を欠席してサラティスが戻ってきたら、次期当主としての自覚が……なんてお小言を貰うかもしれない。今自分ができることをしっかりやるって」
「ぐす」
これは感動である。
少し前までは無垢で素直で、少しばかり直線すぎる子供であったのに。
これが親の感覚なのかと錯覚する嬉しさ。
「さすがに、感謝は伝えますよ」
ジェリドの言う通り、その時ジェリドが屋敷に残った所で事態が進展することなど何一つ無かった。
言葉は悪いが、残る意味などなかった。
なら、学園でしっかり勉学に励んだほうが、自身、領地の為になる。
それに、自分のせいで欠席させてしまったら申し訳ない。
「ジェリドにはそれとない内容の手紙を送ったから安心してちょうだい」
アレシアも兄妹の絆の深さに心溢れていた。
心の隅で、ジェリドの事を心配していた。
ロザリアが産まれて、改めて赤子とはこうであったと認識した。
サラティスは赤子の時から極めて手のかからない子であった。
余り泣いたりしない子であった。
まるで、人の言葉が理解できるかのように視線や、手を動かしたりなどしていた。
ハイハイも自分の足で立つのも非常に早かった。
三歳になり、大人顔負けの才覚を発揮していった。
剣の腕以外、既にサラティスの方が上である。
領主家である以上、常に能力を比較されるのが逃れられない定めである。
これがリステッドではない他家であれば、第二子だがサラティスが領主になっていただろう。
恐らく親友も言っていたが、サラティスはこれからも偉業を為し続けるだろう。
既に、魔獣や魔族が蔓延る禁忌の森を五歳ながらにして生還したのだ。
ジェリドは能力は低いが、リステッド家の仕来りで当主になった。
そう揶揄されるのは確実であろう。
ジェリドだって文武ともに優れている。
サラティスが優れすぎているだけだ。
だが、時として隔絶した才は心の絆を蝕み瓦解させる。
平民であれば、離別なり距離を取ることもできるであろうが、貴族の身では難しい。
嫉妬すること自体は、自然な感情だし仕方のないことである。
それが恨み辛みに変わってしまわないかと心配していた。
だが、ジェリドはサラティスの才を尊敬し、自身ができることをと心を律した。
ジェリドは立派で親として誇らしい。
そして、サラティスもそれを薄情としなかった。
つまり、お互い拗れずに良い関係性を築いてる証左である。




