第94話「交わる剣」
「サラティス様、セクド様がお見えになりました」
「へ?」
応接間に案内されると、そこにはヘレナとセクドの姿があった。
「サラティス!」
「お父様」
セクドはサラティスの姿を見るなり抱きしめる。
「よく、よく無事で、本当に……」
セクドの頬を涙が伝う。
「く、くるしぃです」
「ああ、ごめんよ。それにしても本当に良かった。ありがとうございます、ヘレナ殿」
「とんでもない。食事と部屋くらいですから。時間も時間ですしひとまず、お部屋に」
「何から何までありがとうございます」
二人は部屋に入ると改めて抱き合った。
サラティスの頭をひたすら撫でる。
しばらく無言の時間が続く。
「聞きたいことだらけだけど、詳しいことは家に帰ってからにしようか」
「はい。それにしてもお父様、どうしてこんな早く?」
「ああ。偶然、仕事でバインド領にいてね。それに、獣牽車じゃないからね」
「ああ、なるほど」
そもそも、余りにの衝撃に全てを忘れ走ってやってきた。
「とりあえず寝ようか。疲れてるだろう」
サラティはセクドの手を握りながら静かに温かい微睡に腰をかけた。
森の生活のせいか、セクドより早く起きてしまった。
セクドもサラティスが起き気配を察知したのだろうか、目を覚ました。
「おはようございます、お父様」
「おはよう、サラティス」
ただの挨拶である。
だが、ただの挨拶ができるということがどれだけ幸せであるか、まざまざと実感した。
暫くして、使用人がやってきて、朝食を頂いた。
「困ったことがあったらいつでも言ってください。リステッドが力を貸します」
「セクド殿。こ、個人的なことで非常に申し訳ありませんが、一つだけお願いがあるのですが……」
「何でも言ってください」
「わ、私と手合わせしていただけないでしょうか!」
「勿論です」
戦闘脳。
非常に戦闘脳であった。
しかし、予想はしていたので言葉は出さずにいれた。
「ヘレナ殿が問題なければ今からどうかな?」
後日、改めてお礼に何か贈るとして、手合わせなら直ぐ済むだろう。
庭に案内された。
「練習用じゃなくても構わないでしょうか?」
「私は問題ないよ。でも大丈夫ですか?」
仮にもお互い領主である。練習用の木剣ではなく、金属でやりあうのであらば万が一怪我したら領政的な問題である。
「私は騎士です。正当な試合を外でとやかく言ったりしません」
「なるほど、分かりました」
「手加減はしないで頂きたい」
「承知しました」
二人は剣を受け取り、構える。
「いつでもどうぞ」
「はー!」
セクドは悠然と構える。
ヘレナは勢いよくセクドに向かい剣を左から右に横に薙ぎ払う。
セクドは少しだけ体を後ろに反らす。
剣は空を斬る。
ヘレナは最初から避けられることは想定していたのか、さらに踏み込み、そのまま剣を上から垂直に振り下ろす。
直撃すればセクドは真っ二つだ。
それくらい気迫の籠った一撃。
セクドは右足を前にし、体をヘレナに対して横向きにすることで剣を躱す。
「や!」
ヘレナは剣を右に振る。
取った。ヘレナは確信した。
振り下ろした剣先はすれすれ。
それを横に振る。
いくらなんでも避けれないだろう。
『カキン』
「なっ」
剣はセクドに触れるその前にセクドの剣に阻まれた。
甲高い音が響く。
「っつ」
ヘレナは慌てて後ろに飛び去った。
慌てすぎ体勢が上手くいかず、そのまま地面に転ぶよに倒れこみ、勢いを利用し転がり、立ち上がる。
セクドの剣は穏やかに振られた。
慌てて回避しなければ、首に綺麗に当たっていた。
セクドは追撃することはせず、剣を構える。
これは試合であり、殺し合いではない。
高速戦闘を行うつもりはなかった。
「はぁぁ」
ヘレナは走り突っ込む。
剣を突き刺すようにして。
セクドは動かなかった。
ヘレナは突如急停止し、剣を下から上に振った。
フェイントである。
突如止まることができるだけの技量をヘレナが持ち得ているからできる芸当であった。
だが、それでもセクドは読めている。
頭ではなく、体に沁みついた反射のように攻撃へ対処していた。
ヘレナの剣の下に這わせるように剣を置き、剣を上へと振り上げた。
「あっ」
セクドの剣はヘレナの剣を弾く。
ヘレナの腕が伸びきる前に上に釣られ上がり、反射的に剣を手放した。
これもヘレナの腕の証明であろう。
意固地に剣を握ったまま放さなければ、筋肉など痛めていたかもしれない。
剣で相手を攻撃することは初歩の初歩。
怪我を負わないように剣を振る技術を獲得してこそ一人前。
剣は宙を踊りながら地に落ちる。
「参りました」
ヘレナは両手を上げた。
「お若いのになかなかの技量のようで」
「これがセクド殿の剣」
負けたはずなのに、悔しさなど微塵も感じさせないきらきらとした表情。
「どうして、私の突きじゃないと読めたのでしょうか?」
「うーん……なんとなくですかね」
セクドは直感型であった。
元来魔獣を相手に培ってきた剣である。
セクドは剣術を用いてきた魔獣と出会ったことはない。
そもそも、そんな高知能な魔獣がいるか不明であるが。
理知的な剣術ではなく、咄嗟の対応力が求められる。
そうして積みあげてきたのがセクドの剣である。
「つまり、体が最適化され動いていると……」
「まぁ、頻度もあるかと思いますよ。普通の領主は剣を振る機会は少ないはずですからね」
「確かに。練習時間を無理やり作るのが日課ですからね」
「その点私は少しばかり、多いのもあるかと」
「なるほど……ああ。私が領主などでなければリステッドに移住したのに」
「あははは」
ヘイレーゼは伯爵であるし、領地を統治する領主家である。
気軽に移動できるはずもなく。
冗談でしかないはずだが、どこか本気じゃないかという真剣さも感じた。




