第81話「乾いた音」
「あら、ごめんなさい起こしちゃったかしら」
「いえ、自然と目が覚めました」
不思議なものだ。
家にいた時は朝起きるのは苦手であったが、森の中では苦になっていないからだ。
「お料理御手伝いします」
「サラティスちゃんは貴族の子供なんでしょ?大丈夫?」
ニカルは魔族の国で生活していた頃は、人間とも交流がありそれなにり、人間の知識を持ち合わせているそうだ。
「大丈夫です。お家でもよくやってましたし」
「そう?じゃ、一緒にやりましょうか」
一週間か二週間程度村に滞在し、準備を整えて再出発する計画だ。
その間、もろもろ手伝うことにした。
ディスサルは魔獣を狩る手伝いをしているそうだ。
「ずいぶん、慣れてるのね」
手際よく料理を作っていく。
「挑戦することが好きなので」
「素敵な心意気ね」
「勝手が違うので味は保障できないですけど」
「ふふ、そしたらお兄さんに食べてもらえばいいわ」
「そうですね」
暫くすると狩りからディスサルが戻ってきて三人で食事を取る。
「これはお兄さんのためにサラティスちゃんが作ったのよ?」
「そうか」
「あら、ずいぶんそっけないのねー」
確かにそうであるが、慣れてしまった。
「……」
必要がなければ喋らない。
『カコン、カコン』
何か乾いた木が激しくぶつかる音が聞こえた。
「……二人とも、ちょっと家から出ないで貰える?」
「危険を知らせる音ですか?」
「まだわからないわ。私が戻ってくるまで絶対出ないで」
急いでニカルは出て行った。
恩を仇で返すことはしない。
暫くすると、慌てた様子でニカルが戻ってきた。
「二人とも警戒してちょうだい」
「どうしたんですか?」
「怪我人が出たのよ」
「……襲撃か?」
「もしかして、お兄さん。どっかと揉めてる?」
「俺はそのつもりはないがな」
どうやら、村人が怪我をしたようだった。
当人が怪我して気を失っているので詳しいことは不明。
だが、魔獣に襲われた物ではなく、明らかに魔法の傷であった。
「ニカルさん、私回復魔術使えるので御手伝いしますよ?」
「本当?助かるわ。唯一回復できる奴が不在でね」
ここに移住して、他魔族と争うようなことがなかった。
怪我はもっぱら魔獣を狩った時にできたもの。
致命的な怪我を経験しなかったのもあり、当人の治癒力のみで今まではいたらしい。
「オレスよ。ご覧の通り、背中に石の破片が食い込んでるの」
「うわ。これは酷い」
背中から大人の拳より大きい石が背中の肩甲骨辺りに突き刺さっている。
サラティスは石を抜かないまま、傷口周辺を触って確かめる。
「サラティスちゃん、お医者さんじゃないとダメなレベルだけど、大丈夫かしら?」
「恐らく大丈夫かと。どうやら、筋肉で止まって、肺まで到達してなさそうなので」
「本当?」
「唯一怖いのは私はヘルゥトスの身体の中の構造が、人間とどれくらい違うか知らないので、そこですね。まぁ、筋肉程度ならそんな変りないと思うので大丈夫だとは思いますが」
「背中に関してはたぶん、同じだと思うわ」
「分かりました。ひとまず、お湯と増血の効果のある薬草などあれば持ってきてください」
「テルテッドはお湯の準備、サンはネイリス草を持ってきてちょうだい」
ニカルの号令で速やかに皆が動き出す。
「ニカルさんは万が一があるので、オレスさんの身体を動かないように押さえつけて貰えますか?」
「分かったわ」
「では行きます」
深呼吸。そして、サラティスは岩を思い切り抜く。
蓋が外れたかのように、傷口から血が零れだす。
その瞬間、傷口が淡く光りだす。
「すごいわね……」
思わずニカルの口から零れる。
人間の魔術の技量がどれくらいは詳しくないが、目の前の回復魔術の技術は遥かに優れているものなのはわかる。
「筋肉は問題なし、破片の残留もなし。……皮膚も問題なし。ひとまず、治療は終わりました」
「サラティスちゃんありがとう」
「身体の汚れや血を綺麗にしてあげてください」
「サラティスちゃん、こんなすごい魔術を使って身体は何ともないの?」
「はい。私はちょっぴり魔力の量が多いようなので大丈夫です」
「そう、なら良かったわ。でも本当にありがとう。サラティスちゃんが居なかったら……」
死なないにしても、後遺症が残っていたかもしれない。
「背中の傷と、石を見る限りこれは何らかの魔法でぶつけられて、刺さった可能性が高いです」
「分かったわ。ってごめんなさい。こっちにもお湯回してちょうだい」
サラティスの両手は血で汚れていた。
水魔術で洗えば済むが、せっかくなのでお湯を借りた。




