第75話「ベアダボ」
「おい、お前何をした」
ディスサルも連れてこられたようだ。
「ちょっと怪我を治したら何故かこんなことに」
「てことは宴か」
「宴?」
「ああ。前に魔獣の餌になりかけていたニャニャントを助けたら連れてこられてその日は宴会だった」
「明るい種族なんですね」
五十人程度のニャニャント族が集結し壮観であった。
様々な果実や野菜などが運びこまれ、ご馳走になった。
ニャニャント族はサラティスを拝み始めたのでそれは丁重にお断りした。
「そういえば、ニャニャント族ってお肉は食べないんですか?」
「あかなが、にくたべたいか?」
「いえ、今はお腹がいっぱいなのでいらないです。ただ肉がないので気になっただけです」
純粋な興味からの質問だ。
「わ、にくたべる。にくふだんたべるもの。おいわいにはださない」
「なるほど」
ニャニャント族の服飾だが魔獣を狩って毛皮から作っているそうだ。
その肉を普段主食として食べている。
「え?待ってください。へ?」
サラティスはニャニャント族の手のひらを見て驚いた。
手の甲から見れば可愛らしいもふもふである。
手のひらも愛くるしい肉球。
そして鋭い鉤爪。
驚いたのはそれではない。
人間で言うと、指の付け根、第三関節辺りから爪が生えるように指が生えているのだ。
つまり、ニャニャント族は指を八本も得ている。
器用さはこの指が多いからだろうか。
木に登る時は邪魔にならないのか。
など次々を疑問が浮かんでくる。
そして、気づけば皆一同寝ていた。
サラティスは朝起きると、丸くなって寝ているニャニャント族に癒された。
ふと横を見るとディスサルの姿が無かった。
建物を出ると地上を歩くディスサルの姿が見えた。
サラティスもついでに所用を済ませるかと一人地上に降り別の方向に向かった。
用事を済ませ、ついでだから魔獣でも狩って食料を調達しておこうと辺りを散策する。
「あかなが、いた」
「あかなが、たいへん」
「どうしました?」
「あっちでべあだぼがたくさん」
「くろながもいる」
「ベアダボですか?」
「そう。あかなが、にげる」
「いいえ、助けに行きます。案内してください」
「わかった。こっちついてくる」
ベアダボは体長三メルは超える巨大な雑食魔獣だ。
その巨体から想像できないほど早く走る。
何より脅威なのが平地より、斜面など傾斜のある場所の方が早く走れるということだ。
さらには木登りが得意なので、遭遇し木に登ってやり過ごすことはおすすめできない。
「何故来た」
「状況は」
「俺一人でどうにでもなる」
サラティスが到着すると、三体のベアダボが事切れて地に伏していた。
その死骸をニャニャント族が協力して運び出そうとしていた。
強がりではなく事実のようだった。
ディスサルは怒りで興奮状態のベアダボに無防備に近寄る。
ベアダボは腕を振り回し切り裂く。
あれに当たれば人間なら致命傷だ。
しかし、その腕は大きく風を切るだけであった。
ゆったりとディスサルは身体を屈め腕を避けた。
「あ」
これにサラティスも思わず驚いた。
ディスサルがベアダボに触れるか触れないか、手を伸ばした直後ベアダボの巨体が倒れこんだ。
そして一切の興味を失ったかのようにベアダボに背を向け、最後の一体に向かう。
見る限り倒れたベアダボは絶命していた。
これはもう魔法に違いない。
一体何の魔法なのか。
見ただけでは解明することはできなかった。
「これで最後だな」
その間に既にベアダボは同じように絶命していた。
「ディスサルさん」
「恐怖したか?」
「あれ何の魔法使ったのですか」
サラティスはディスサルに詰め寄る。
「外傷がないってことは体内に直接ですか?それとも、概念的な影響ですか?」
「おい、待て」
ディスサルはサラティスを落ち着かせる。
てっきり怖がると思っていた。
しかし、現実は腹を空かせた魔獣が餌を前にするように、目をらんらんとさせじりじり寄ってくるのだ。
「何です?」
「まず言うわけないだろ」
「確かに」
「それに何故怖がらない。見てただろ?あのでかぶつが一瞬で死ぬのを」
「見ました。別に怖くはないですよね?」
何かの魔法でベアダボは死んだ。
その事実に何を怖がることがあるのか。
「っち。何なんだお前は」
調子が狂う。
「でもどうして、襲われたんですか?」
ベアダボは群れを形成する魔獣ではない。
二体であれば番、子供が混じっていれば理解できるが大人の個体が五体も群れて襲ってくるなど聞いたこともない。
「知るか。そもそも、俺の前に現れた時点で極度に興奮状態で人を見るなり襲ってきた」
「……無事でよかったです」
「目が覚めてるなら魔獣など些細なことだ」
「もしかして、何か異変が起きてるんですかね?」
「異変だと?」
「はい」
この大森林で何か異変が起きている。
その余波でリステッドに出没した魔獣が多かったのではないか。
「っち。おい逃げろ」
「はい?」




