第469話「お願いがあります」
サラティスとフィーナは特段トラブルに遭うことなく、リステッドに戻ってきた。
二人は気付いていないが、去年より少しだけ移動時間が短くなっていた。
そもそも二人が知る由もないが、一年をかけ王都からリステッドまでの道の整備が強化された。
各領にまたがるのだが、王宮から工事費用が一部出た。
勿論、孫娘が友人の家に遊びに行くからなどといった極々私的な理由ではなく、万が一に備えリステッドの非常事態に人材、物資を迅速に送りこむための整備という真面目な理由である。
屋敷で去年と同じように出迎えられ、フィーナを案内する。
こちらも去年同様、サラティスはセクドの仕事部屋に向かった。
「お帰り、サラティス」
「ただいまです」
「二学年になり、回復魔術の授業はどうなんだい?」
「楽しいです」
「それはよかった」
本心である。
既に完璧なので退屈してないかと思ったが、杞憂であったらしい。
「そうだ、お父様お願いがあります」
「な、なんだい」
どくん。
まるで、拡散魔術のような魔術で心臓の音を大きくされたかのような錯覚。
「休みの期間中、私に稽古をつけてください」
「お、どうしたんだい?ずいぶんとやる気に満ちて」
セクドの顔が輝く。
サラティスのお願いは、いい意味で悩み、決断を迫られるものばかりであった。
それが、まさか、あのサラティスが自分から教えを乞うなんて。
「実はですね」
サラティスが事情を説明する。
実に納得がいくが、あまりにも通常営業のサラティスであったため頭を抱える。
「まぁ、ケイト君の不名誉を晴らすのは立派かな。特訓はしてあげるよ。でも武芸の参加はまずはアレシアから許可を貰ってきなさい。アレシアが良いというのなら、私は反対しないよ」
「ありがとうございます」
「それと、いいかい。これだけは絶対約束してくれ」
「何でしょう」
「絶対に本気を出してはいけないよ。相手の腕を折るくらいならいいけどね。万が一首の骨を折って回復魔術が間に合わずになんて事態は絶対だめだ。いいかい?サラティスは思っている以上に近接戦闘ができるんだよ」
セクドは思わず椅子から立ち上がり、ソファーに座っているサラティスの前でかがみ視線をサラティスに合わせ、肩に手を置く。
大袈裟でも冗談でもなく、実に真剣な瞳でサラティスを見る。
「分かってます。それこそお父様に教えて頂いた、相手を投げつけて勝負していきたいと思ってます」
サラティスも武術を習うことで知ることができた。
セクドに習う以前といえば、近接で行うことなど決まっていた。




