第462話「密室、先達と会員……」
「近くに疑わしい蕾ちゃんがいたそうよ。質問した所、知らないと言われたそうよ」
「そうですか……具体的な名前を聞いても?」
何故カリナがこの場所を選び、チュースが了承したのか。
生徒の名前は取り扱いに気を付けねばならないからだ。
下手に生徒の耳に入ればまたたくまに噂が広まるであろう。
教員室で話したとて、教員の誰かが漏らす可能性がある。
身も蓋もないことを言えば、チュースは教員を無条件で信じたりしていない。
それはカリナも同様なのでこの場になった。
「負傷したのはツニデニット・マーゲイ」
「……」
「おいたをした可能性がある生徒はノゲイスト・ノルダム」
「はー……」
思わず大きく息を吐く。
「ツニデニット君はノルダム家に抗議を?」
「いいえ。悪い考え方をさせてしまっているみたい。理事が変わらないと無駄足で、変に敵対視されても困るからしないそうよ」
「っつ」
「ノゲイスト・ノルダムはどういった生徒なのよ?」
「学年が一つでも違えば学年一の魔術の才と称されてもおかしくない生徒ですね」
「へーチュースちゃんがそう言うってことは優秀なのね」
「ええ。腕は確かです」
「……学年が違えばね」
「はい」
「……それは彼女がいるからかしら?」
「ええ」
「確かにあれに比べれば誰であってもそうでしかならないわね」
「彼は腕以上に自信を持っているようで、少々一方的な感情からトラブルを起こしたことがあります。なので、てっきり彼女が絡んでいるかと思ったのですが」
「……チュースちゃんはギルドの密偵にならないかしら?」
「なりません」
「大正解よ」
「……」
「二人の話を聞く限り、サラティスちゃんの背後からサラティスちゃん目掛けて、石が飛んできたそうよ。それに気付いたツニデニットちゃんが庇ったそうよ」
「……治療が完璧なのは彼女がいたから」
「あら、授業では関係ないことまで知ってるのはずいぶん、博識じゃなくって?」
「去年の学祭関連で魔術協会の手続きに同行し、その時に諸々見ただけですよ」
「あーそっちか、理解したわ」
カリナはにっこりと笑う。
「ねぇ、チュースちゃん」
「はい」
「生徒の命に関わんだぞ。教員が首輪閉めねぇでどうすんだ。あ?」
「……」
重圧。
重くのしかかる。
錯覚するほどに。
「万が一にでもよ、理事の生徒が死んだら自業自得とはいえ、大問題だぞ」
「そちらがですか?」
「……」
カリナは大きく息を吐き、ゆっくりと息を吸う。
「チュースちゃんが全ての項目で満点を付けるのは初めて見たわ」
それは教員による生徒の評価のことである。
「回復魔術も現段階で飛びぬけているわ」
「……」
そうであろう。
「しかも、ギルドで何人も見たことがある、歴戦の猛者のようよ」
「実戦に優れていると」
「ええ。理論より、実戦タイプねあの子は。そちらの魔術協会の突終スフィルトゥクスススに喧嘩を売ったやからの末路。私もよーく知っているわ」
「……」
「あまりに強大すぎて、手を出した方が自滅する。ごろつきならともかく、生徒だぞ。教えねぇとならねぇだろうが」
「今後二度と起きないよう教員には裏で一部情報を共有し、監視を徹底させていただく」
「……」
凝視。
「ふっ。信じてるわよ。まぁ、学内だけじゃなくて面倒なのは南もなんでしょ?」
「……副局長からいささか聞いてる程度なので肯定できる程は知りませんね」
「一応なんだけど、身内が審査だからじゃなくて彼の実力で協会員になった認識でいいのよね?」
「ええ。元は才能だけで何とかしようとしていたが、最近努力が追いついてきたようですね」
「その反動か。しかも、コースが違くて純然に比較ができないと。安心してちょうだい。被害を受けた二人に悪い影響は受けてないようだから」
チュースは頭を一度下げ、立ち上がる。
「ご馳走になりました」
「いいのよ。悪いわね遅くまで」
「いいえ。この件に関しては事情が事情なので、このような形が正しいです」
チュースが去り、残されたカリナは一人グラスを空ける。




