第454話「ゆっくり話し合ってください」
「学祭で三位になる程の腕の持ち主。日頃から訓練し、武芸には自信がある。ですが、お聞きした限り学園を卒業して、お家を継いでもその武芸の能力は余り活かせることは少ないのかなと」
「それはそうね」
「きっとお家を継いで、今の自分がやっていけるかどうかが不明で、不安なんですよ」
「不安かー……」
サラティスはあえてそれ以上は言葉の続きを口にしなかった。
不安もそうだが、本当のところゲルダマは家を継ぎたくないのではないか。
その武芸の能力を活かして、生きていきたいのではないか。
だが、貴族であるサラティスはそれを指摘はできないし、指摘してはいけない。
平民であれば、仕事が嫌になったのなら辞め、別の仕事をすればいい。
平民が働くのは義務ではなく、生活費のため、領に税を納めるための金を稼ぐためだ。
貴族の場合は働かなくとも、領に納められた税金があれば生活できる。
平民とは異なり特権を王から与えられる対価として、義務が生じているのだ。
家を継ぎ、領を、民を安寧した暮らしに導くという大切な役目から逃げることは許されない。
唯一可能な手段があるとしたらそれは、貴族という身分や今までのものを全て捨て、平民として生きることだ。
とてもじゃないが、そんなことを口にすることはできない。
義務が嫌なのではないか。その言葉は最上級の侮辱であろう。
「マレランネさんはどうなんですか?」
「私も失敗したらどうしようって不安はあるけど、なるようになるしかないからね」
「一度将来について話し合われてみてはどうですか?」
「うん、そうする。ありがとう」
にこと笑う。
「それよりも、どうしましょう。あんな口約束しちゃったけれども」
「学祭のことですか?」
「そうよ」
「サラちゃん」
「何ですか?」
「大丈夫だよね?」
「ふ、もちろんです」
「ちょ、ケイト君?」
思わずケイトを二度見する。
ただただありえない。
「サラティスさん、武芸は攻撃魔術の使用は禁止なのよ?」
「はい、それは知ってますよ」
「骨折くらいなら直ぐ治して貰えるから、そのくらいの怪我だと止めてもらえないわよ。それに顔への攻撃だって禁止されてないのよ?」
「はい、承知してますよ」
「ケイト君、こういう時は婚約者のアナタが止めるべきよ」
「マレランネさん、大丈夫ですよ」
「?」
ケイトの表情を見てマレランネさんは言葉に詰まる。
「サラちゃんが大丈夫だって言う時は大丈夫なんですよ」
「……」
何て顔をしているのか。
立場の都合からのお為ごかしではない。
それは子供特有の無根拠な自信ではない。
妄信的でもない。
穏やかで、自然でありそれが常であることが見ただけで理解できる。




