第440話「ひじょうなのです」
「どうしたのよサラ?」
「いえ。歴史の偉大さを感じましたね」
時間の流れとは本当に偉大である。
どうでもいい所作一つを物語のように着飾り、喧伝されるのだ。
恐らく、いや、ほぼ確実といっていい。サラティスが現在授業で教わってる歴史の動き、人物も同じであろう。
例えば、本人はだるくて仕事をさぼっただけであった。その結果事故に巻き込まれず無事だった。
幸運の一欠を時の砂は、驚異的な分析により事前に事故を回避してみせたのだときらびやかにして見せる。
自分にとってどうでも良い行動をここまで、飾れると恥ずかしいを通りこして刃となることを知った。
非常に有意義な授業であったと言えるであろう。
「お二人ともお疲れ様です。どうでした授業は?」
「楽しかったわ。魔術師としてのネイシャ様について色々と学べたのよ」
「なるほど。歴史で習うくらいですものね。サラちゃんはお疲れのご様子ですか?」
「はい」
「サラはネイシャ様好きじゃないの?」
「……好き嫌いじゃないんですよ」
「?」
「そもそも学園長に聞けばよくないですか?噂、伝聞じゃなくて、真実が聞けるじゃないですか」
「サラ、聞けるわけないでしょ」
「そ、そそうですよ。ルリレッタ様は学園長でいらっしゃいますが、何より工房の代表で自ら仕事をなされるのですから多忙ですよ」
「うへー」
憧れからの投石の熱意は馬鹿にならないようだ。
「ところでエスちゃんはどうだったのですか?」
「……」
エステリアは体をぶるぶると震わす。
「チュース先生が一番先生の中で怖かったのですが、甘かったです」
「あら」
「チュース先生は優しいですからね」
「サラだけよ、そんなこと言ってるのわ」
「モナディアンタ先生という方なんですが、もう見られただけで背筋が伸びますね」
「フィーナ?」
突如フィーナが硬直した。
正確には指先、髪の先まで神経を尖らせているかのようなまるで戦闘態勢そのもの。
元よりフィーナの所作には美しさを感じさせるものがあるが、それに何やら含みがある。
「もしかして、フィーナさんは先生をご存じですか?」
「はぁ……。エスちゃん心臓に悪いわよ。よくご存じよ」
フィーナはこくこくと頷く。
何よりも二人の視線が雄弁に物語っている。
「モナディアンタ先生は社交界の中でも有名な先生よ。先生を王宮に招いて私も一から教えてもらったわ」
「フィーナさん尊敬します」
「なるほど。フィーナの綺麗さの秘密がそのモナディアンタ先生って訳ですね」
「まぁそうなるわね」
「つまりそれだけ厳しいのですか?」
「ええ。皆先生の名前を耳にしただけで、背がしゃんとなるわ」
「うへー」
お近づきになりたくない人ランキングトップの人に違いない。
「でもモナディアンタ先生ならエスちゃんはサラより礼儀作法がきちんとするわね」
エステリアはまた首をぶんぶんと振った。




