第425話「ヤヒ」
因みに味は決して悪くない。
悪くないのだが、マウが美味しいのでどうしても下と評価されてしまう。
現在、同じ手が使われているかはわからないが、昔はマウモドキをマウだと偽り高値で売る商人もちらほら見られた。
食べ終わり、片づけを済ませ四階に降りる。
「え、え、あ、あれは」
きらきら。
うずうず。
わくわく。
四階は背の高い木などが生えておらず、広い、広い視界が確保されている。
一面草が広がっている。
場所によってはサラティスの背丈ほどの草も生えおり、魔獣からすれば身を隠せるようになっている。
視界に魔獣を映る。
それに気付くと興奮のあまり、気付かれないであろう距離を一気に詰めた。
できる限り近くで見たい。
「……まさか、まさかここで見れるとは」
らんらんと眼を輝かせ、一挙手一投足を見逃すまいと凝視する。
「あれがヤヒ!」
サラティスが見つけたのはヤヒという魔獣であった。
ヤヒは四足歩行で体長はおおよそ五百セル。
体高はおおよそ二百セルで大きい魔獣だ。
特徴的なのは鼻である。
鼻の先に角が生えている。角の先は鋭角ではなく、楕円のようにならだかである。
「本当に体毛がなく、皮膚が固そうですね」
図鑑の世界を頭の引き出しに入れた通りの見た目である。
ヤヒはその角を槌のように使う。
角を地面に打ち付け土を砕いて草の根を食べる。
普段は穏やかで余程のことがない限り襲ってこないが、繁殖時期に雄同士が雌を巡って争う。
その時にお互いが角をぶつけあう。
『バゴン』
「おお!これが噂の土砕き」
ヤヒは思い切り角を地面に打ちつけた。
角の衝撃で土が周囲に散る。
「かわいいーですねー」
ヤヒは砕けた箇所に鼻を近づけ、ふがふがと匂いをかぐ。
「角を尖らせて掘った方が痛くないのに、どうして槌のようになったのでしょうかね……」
サラティスの脳内で姿形がふと浮かぶ魔獣。
牙や角、棘など殺傷能力が高い物ばかり。
人間と体の構造がそもそも違うので、見当違いなのは分かっているが顔を地面にぶつけてるのと同じであり、痛くないかと思ってしまう。
「あ、食べ始めました!」
鼻で余分な土を掻き分け、ぶちぶちと根を引き千切りながら頬張る。
「あー、口の中を見てみたいですね」
当然だが、そんなことをしたら驚いて逃げられる。
もしくは怒って攻撃してくるかもしれない。
食事を邪魔する気は欠片もないので小声で言葉を零すだけに我慢している。
魔獣は不思議なことだらけであるが、やはり草食性の魔獣は常々疑問がある。
小さい魔獣であれば気にならないが、視線の先にいるヤヒは大きい。
例外はもちろんいるが、基本的には体が大きい魔獣は小さい魔獣より食事量が多い。
ただでさえ食事量が必要になるのに、大した量がない草の根を主として食べているのだろうか。
専門家であれば答え知っている、推察できているかもしれない。
「土を砕く。散らす、穿る……」
サラティスに気付いていないヤヒは食事を続けている。
「掘るには強度の調整が必要、砕くのであれば力が一定以上あればいける。土自体は風で纏めれば片が付く、それを形で打ちつけ……」
サラティスの時間は静止した。
否、意識が視界から脳内のみへと。
「は、あ、ヤヒが……」
ふと視線を前方にやると、既にヤヒの姿はなかった。




