第415話「いい匂い」
「マウは私が獲りましたよ。運ぶのを手伝ってもらっただけです」
「おい、嬢ちゃんの言う通りだよ。あたしは運んだだけだ。嬢ちゃんが自力で全部獲ったことを保証するよ。そういうあんたこそどうなんだい?事前に釣ってたのを出したんじゃないかい?」
「いや、同じく、全部時間内に釣った物だと俺が保証する」
見張りをお願いしていた男性が力強く宣言する。
「さて、ガイナスさん。約束通り、マウを買ってください」
「た、大変申し訳ありません。持ち合わせが……」
一体一万ということは二十四万フェル。かなりの大金である。
「大丈夫ですよ。契約書を書いていただければ後で支払って貰えれば問題ないです」
「賭け事は商人としてあま……」
「駄々こねてないで、支払いな。恥ずかしいったらありゃしない。こんな子供に大の大人がそんな態度して。あんたの悪評をギルドで広めてやるよ」
「そうですね。私も学園でクラスメイトにお伝えしないとですね」
「わ、分かりました」
商人は震えながら紙に支払うことを書いた。
「確かに、受け取りました。所でガイナスさん」
「な、なんでしょうか」
明らかに声に覇気がない。
「私がマウを買うので売ってください」
「はい?」
ショックから頭がついていってないようである。
「四人で……二体もあればいいですね。一体三万フェル、八体のマウを買います」
そういってサラティスは紙を引き千切った。
「お二人もお手伝いしてもらったので少しばかりのお礼です」
サラティスは近くに落ちていた木の枝を拾う。
「ひとまずこれは溶かして」
大きい炎がマウの氷を溶かした。氷が溶けると、火を消す。
マウの口に枝を器用に突き刺して、火魔術で火を起こし周囲の地面に突き刺す。
ついでに千切った紙も火の中に入れ、一曲踊ってもらった。
「お、お嬢さん?」
「何でしょうか?」
ガイナスは頭を下げる。
ひたすら感謝と謝罪の言葉を並べる。
「いいですか、商売は違法じゃないのでいいとは思いますが、あくどいのはダメです。適性価格で今後商売してくださいね」
「は、ははー」
暫くしてマウがいい感じに焼け、皆で食す。
「ごちそうになる」
「あたしも頂くよ。これが三万のマウか、ありがたいね」
「ほら、ガイナスさんもどうぞ」
「よ、宜しいのですか?」
「はい。皆で食べた方が美味しいですから」
ガイナスはうっすらと涙を浮かべる。
「美味しいですね」
焼いたマウを口に近づけると、香ばしくさわやかな香りが喉を、鼻を通り抜けていく。
噛むとパリっと音が聞え、皮が弾ける食感が伝わる。
次の瞬間、じゅわっと、ふんわりと身の柔らかさ、脂が滲みだし、歯を、舌を、口を満たしていく。
皆も美味い、美味いと零しながら頬ばる。
サラティスは口先に集中していたが、ふとどうでもよいことが頭の中を駆け巡る。
王都で魚料理を目にするが、皮ごとなのは見た記憶がないと。
全て切り身の状態でしかお目にかかったことがない。
当然ながら、魔石があるのは分かっているので飲み込まないように注意しながら食べる。
マウを食べ終え、火を始末する。
サラティスはそろそろ下の階に移動っしたいので皆に別れを告げる。
ガイナスはしきりにサラティスに頭を下げ、誓いの言葉を述べた。
因みに逆塔を出た後、気になって釣り竿の貸出しの料金を調べた。
一時間など短い時間のは見つからなかったので、単純に一時間あたりの計算で出すと相場は千フェル前後。相場の十倍であり、今後彼がまっとうに商売してくれるのを祈るばかりだ。




