第40話「お目当てはサラティス?」
「「あ」」
あまりの衝撃にセクドとアレシアはお互いを見て言葉を漏らす。
その視線の邂逅でお互いの言いたいことが全て伝わった。
サラティスだ。
色々と騒動を巻き起こすサラティスなら、魔族が訪れてきても不思議ではない。
そう考えるようになってしまっていた。
「申し訳ないが少々待っていて欲しい」
「可。気にすること不要」
サラティスは報告書を読み終えたので、シェリーから借りた魔術書を読んでいた。
部屋の外から声が掛かり、ハルティックが直ぐに開けた。
「お父様、お母様どうしました?」
二人が部屋に入るとハルティックは扉を閉めた。
「サラティス、お父さんに何か隠していることは無いかい?」
「へ?……悪いことはしてないですよ」
生まれた時から特大の隠し事がある。
「……」
「サラティス、実は今お屋敷にポットゥク族という魔族の王様が来てらっしゃるんだけど、何か知らない?」
「……知らないですね」
忘れている可能性もあるが、今の所聞いた覚えのない魔族だ。
自らを死に至らしめた、あの魔法は魔族が使ったものだ。
何か知っているのか?
そのために訪れた?
サラティスの警戒が高まる。
「容姿なんだけどね」
アレシアが容姿を説明する。
「あ」
予想とかけ離れた心当たりに思わず声がでる。
「やっぱりかい……」
「もう、この子ったら。街で会った訳ではないのでしょう?」
さすがに街にあそこまで特徴のある魔族がいたのなら、必ずセクドの所へ報告があるだろう。
「サラティス、正直に言いなさい」
サラティスは観念した。
元より嘘はつきたくない。
なら誤魔化すしかないが、相手が名指しで来ている以上無理だ。
「ごめんなさい」
森にこっそり遊びに行っていることはなるべくぼかし、あくまで庭で遊んでたらたまたま見えたから少しだけ森側に行って、回復魔術を使った。
と嘘にはならず、なるべく怒られないように知恵を絞る。
「助けたことを黙っていたのはどうしてだい?」
「余りにも怪我がひどくて……」
助かるかどうかは不明であった。情報もなくあの傷では恐らく助からないだろうが、万が一が起き、助かればいいなと思い行動した。
「分かった。ひとまず納得した。となると会わせた方がいいね」
助かったと思ったが、後でたっぷりお説教されたサラティスであった。
「我、汝感謝。汝のおかげ我生存」
王は思わず椅子から立ち上がった。
セクドは手で騎士達に大丈夫だと合図を出した。
サラティスも思いがけない再会を喜んだ。
あの傷だったが無事元気そうになったからだ。
「私はサラティス・ルワーナ・リステッドです」
「我、ポットゥクの王」
「名前は?」
「名、不所持。我王」
「……王になったから名前を捨てたの?王の前の名前は秘密?」
「否。我、以前、カルカカ名所持」
「カルカカさん、いい名前ね」
「我王に至ったの汝のおかげ」
「へ?」
「それは私の方から説明します」
王の右隣に座っていたポットゥク族が口を開いた。
王より口調が分かりやすかった。
「我々ポットゥクは森の中で暮らしています。王は森の守護者です」
やはり王より人間に近しい言葉使いで話す。音色のような声は王と変わらずである。
何を守るかというとポットゥク族を、そして住んでいる森をだ。
ポットゥク族は人間と異なる方法で種族を増やすが、家族という概念は存在する。
そして王の一族が存在する。王の子供の中から次の王が選ばれる。
選び方は単純で一番強い子が王になる。
「我候補の中で一番強い」
一番強いのに死にかけていたのは何故か。
「我一番強い。だから皆協力、我と対立。さらに卑劣な手段行使。我罠で負傷」
サラティスはそれで理解した。
つまり最有力候補を他の王子達が結託し正面から戦わず、搦め手で殺そうとした。
「我、ひたすら撤退。気づけば遭難。体機能停止。死を待つだけ。否、汝我救済。我生存。我戻り、卑劣者成敗」
サラティスの魔力付与により、奇跡的に助かり、殺したと油断していた所を一網打尽。
最初から面と向かって戦えば勝てない相手なのだ。全員敗北。
そして、目の前のカルカカは勝ったことにより王になった。
「命を救ってもらい、結果王位を継承した。なるほど、わざわざ会いにくるのも理解できるね」
セクドも頷く。感謝の程度も、事情を話さないことも納得できた。
ようやく警戒が少し薄まった。
「後遺症はないですか?」
「肯定。我、完全回復、好調」
「よかったー」
場当たり的な賭けだったからだ。
「我ひたすら感謝」
「どういたしまして」
「ポットゥク、汝と友好結びたい」
「ちょっと待って欲しい」
セクドが止めに入る。
どうしてサラティスが関わると事が大きくなるのか。
セクドはまだ人間と魔族はできるだけ交流を避けていることを説明した。
「我国、戦争無関係。人間興味なし。あくまで汝のみ友好」
サラティスは目でセクドに対応を伺う。
諦めてセクドは頷く。
「そうしたら、お友達になりましょう?」
「友、承認」
サラティスは手を差し出す。
「?我不理解」
「あ、友達になったら握手するのよ?握手はね」
握手の説明をした。
「これ握手。人間の友好の儀、理解」
六本の手で包まれる形でサラティスは握手をした。
「ポットゥク友好の証。汝に贈る」
ここで、左側の魔族が葉で見ない所から小さい箱と、一回り大きい箱を取りだした。
小さい箱はサラティスの手ほどの大きさだ。
「お父様、大丈夫ですよね?」
受け取っていいのか。
「ああ。命の恩人への贈り物だしね」
「ふふ、それに友達からの贈り物よ、サラティス。ちゃんとお礼を伝えるのよ」
「王様、ありがとうございます。開けてもいいですか?」
「許可」
小さい箱を開けると、中には土がぎっしり詰められ、真ん中に謎の植物の苗が植わっていた。
一回り大きい箱を開けると中には硬そうな豆がぎっしり入っていた。
そして同時に鼻孔をくすぐる香ばしい香りが駆け抜ける。
「それは我の森で育ているササモの苗と豆を乾燥させたものです」
「あら、豆からとても良い香がするわね」
「乾燥させてここまで、良い香りが出るんだ」
「そうです。まず苗の方から説明しますね」
ササモはポットゥク族のみが育ている植物。
ポットゥク族の主食である。
豆は乾燥させ焼いて食べる。砕いてお湯に溶かして飲んだりもする。
乾燥させた豆に関しては他魔族に売ったりしている。
ササモは生命力が強く、よほど過酷な環境じゃなければ、大抵の場所で生育するだろう。
恐らくリステッド領でも問題なく育つとのこと。
世話は週に一度水と魔力を与えるだけ。
ある程度大きくなり、豆ができたら水だけで十分になる。
苗は与える魔力に影響される、早ければ一ヶ月程度、遅くとも半年程度で成長する。
初めて出来た豆は食べれないので植えるか捨てること。
ササモは年多くて四回、少なくても二回は豆ができる。
寿命は五十年から百年程度。
「これは豆ができたら、増やしても大丈夫ですか?」
「無問題」
「食べてみてもいいですか?」
「無論。汝への贈り物。我の許可不要」
『ガリ』
「うぉ」
「んっ」
まず、確認のためセクドとアレシアが豆を口に入れる。
硬いのでがりがりと嚙み砕く音が響く。
そして二人は声を漏らす。
「これは……サラティスすごい苦いから気を付けるんだよ」
アレシアは応接室の前で待機していたハルティックに水の用意を頼んだ。
『ガリ』
「なっ」
サラティスは口に広がる余りにもの衝撃で咀嚼すら忘れ固まる。
「ははは、だから言ったろ?申し訳ないね、まだサラティスは子供だから苦いのは苦手みたいでしてね」
「承知」
しばし、脳みそをフル稼働させようやく咀嚼し飲み込んだ。
「お、王様これ育てて、増やしてもいいって、本当ですよね?」
「承知」
「これを使ったり売ったりするのは?」
「魔族と直接取引をしないのと、苗や乾燥前の豆を渡さなければ問題ないかと」
「あ、ありがとうございます」
サラティスは王様の手を握りぶんぶん振る。
「我安堵。汝喜び。使命達成。我々帰還。騒動謝罪」
「お見送りしようか」
護衛の騎士に囲まれながら三人はポットゥク族を見送った。
「お父様、これお庭に植えていいですか?」
「うーん。真ん中とか邪魔にならない場所なら大丈夫だよ」
「でもサラティス、あの方たちには悪いけど人間には余り難しい味よ?増やすつもりなんでしょ?」
王から直々の贈り物だ。しかも友好の証として。
無下に扱うことなど到底できない。が、増やす必要はない。
その一本を大切に育て守っていけばいいのだから。
「増やします。この豆は全部使ってもいいですか?」
「お、また何かアイデアが浮かんだのかい?」
「ふふふ、そういうことね。植えたい場所を決めたらまず、私たちに相談して頂戴ね」
「もちろんです」
勿論、室内に戻り落ち着いた後、お説教が始まった。
今回は全て良い方向に流れたから問題なかったが、人間と関与の無い魔族との接触は慎重にせねばならないと。




