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宿屋の娘は聖女と呼ばれ転生す  作者: 紅羽夜


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第39話「魔族がやってきた」

 ワイルボロルの家畜化計画は順調に進んでいるようだった。

 まずサラティスの仮説の通り、生まれた時からネイリス草を食べたワイルボロルの肉は、何もしなくても普通のお肉同様に食べることができた。

 しかし、餌がネイリス草だけでは食用肉としての生育が悪いので、モルやピーギーが食べる餌も与えていた。

 餌は草、草を乾燥させた粗飼料、穀物や野菜など混ぜた配合飼料の二種である。

 この二つの配給バランスを試行錯誤して、もう少しでベストバランスが掴めそうとのこと。

 これをクリアすればようやく販売ができるようになる。

 サラティスは報告書に目を通していた。言い出したのはサラティスなので最高責任者に任命され、全ての報告書はサラティスにも届けられる。

 読んでいると、なにやら屋敷が騒がしいことに気づいた。

 セクドの仕事部屋には役人、騎士達などが業務の為に訪れるのは日常だが、今日は殊更騒がしい。

 騒がしい理由は走っているからだった。

 ただ屋敷内を歩いているのなら、二階にあるサラティスの私室まで音は届かないだろう。

 つまり、複数人の騎士達が走って屋敷内を移動している。

 火急な知らせがあるに違いない。

 そして今までもこういったことはあった。

 魔獣の被害である。

 街中や、人が多い所に魔獣が出たのだろう。

 サラティスも何かできることがあればやりたいが、今はまだ邪魔になるだけなので我慢し、部屋で報告書に目を通す。

 サラティスが理知的に私室に籠っていたころ、セクドは対応に追われていた。

 騎士がどたどたと走ってセクドの仕事部屋のドアを勢いよく開けた。

 これが他の貴族ならば無礼、無作法と処断されてもおかしくない行為だが、ここでは時間こそが優先され、特段問題のある行為ではなかった。


「セクド様、私は先触であります!最上級、最上級であります」

「な、承知した。急いできてくれた所悪いけど、街の騎士に伝達を任せた」

「は!」


 騎士は急いで屋敷を出て、街に向かった。

 最上級。これはリステッド領で定めた危険度を表す単位である。

 下級、中級、上級、最上級の四段階が定めらている。

 危険度は街に、領民に危険が差し迫った事象に対してである。

 例えば、小型の草食の魔獣が街に降りてきた。

 この事案に対しては下級と判断される。

 下級は騎士数人で対処ができる微細なもので、セクドの元へは対応後に報告されるのが普通だ。

 魔獣被害だけでなく、雨による増水、街中で火事、などにも同様に使われる。

 上級からは領主や高級役人などが直接指揮、対応しないといけない事案。

 そして、それれより上の最上級は領存続の危機に使われる。

 最後に最上級が出たのはセクドが領主になる時で、それ以降一度もない。

 先触の騎士が訪れてから十分程度が過ぎたころ、別の騎士が入ってきた。


「セクド様、ご報告いたします」


 口を開いたのはセクドより年上の騎士である。

 彼が騎士の最高責任者である。


「森の入口近くに魔族が現れました」

「な、そっちか。被害と種族は?」

「被害は現状なし。種族は不明です」

「ん?戦闘継続中かい?」

「いえ……」


 騎士らしかぬ言い淀みに違和感を覚えた。

 これは何やらかなり厄介な事案が発生しているとに違いない。


「魔族は争うつもりはないそうです。見回りの騎士が第一遭遇。人を探していると話かけてきたそうです」

「ほっ。なら問題はないのでは?」


 国規模での交流がないだけで、個々の交流はずっと続いているのだから。


「いえ、探している人間が赤色の長髪の女性だそうです」

「……」


 真っ先に思い当たる人物と言えば最愛の妻アレシア。


「赤髪なんて珍しいわけじゃない。それにうちの領民じゃない可能性だってある。丁重にお断りは?」

「それが相手は種族の中で王の立場だと。断るにしても現場の騎士では……」

「報告ありがとう。確かに私でなければだめだろね」


 一歩間違えれば魔族との争いに発展しかねない。


「こちらにお招きしてくれ。アレシアとサラティスの部屋に騎士を一人ずつやってくれ。頼んだよ」


 仮にも立場が偉い相手なら相応の場で話す必要がある。


「承知しました。私が案内で宜しいでしょうか?」

「そうだね。君以外に任せられない。任せたよ」

「は」


 サラティスの部屋にハルティックがやってきた。

 そして部屋の外には騎士がいる模様。


「しゅうげきですか?」

「なっ。違います。どうしてそのようなことを?」

「騎士さんが慌てていたので、最初は魔獣の被害が出たのかと思いましたが、それならば私の部屋に護衛なんてつかないでしょ?」

「……決して使いが来るまで部屋からお出にならないでください。来客が後ほどあるようで。その都合とのことです」


 サラティスは部屋の窓から外を見る。


「王族が来るって訳ではなさそうですね」


 それならば緊張はするだろうが、歓迎ムードであるはずだ。

 そして護衛など部屋にはつかないだろう。


「危険があるかもしれない人物。他国の使者?なら、ここではなくラパーでお会いになるはず」


 ハルティックは肯定も否定もしない。


「それにここは最北端。他国から来るなら他の領を通過するはず。なら、ここまで騒ぎにはならない。……森から魔族が来ましたか?」

「なっ」


 ハルティックの動揺が答えであった。


「はぁ……サラティス様いいですか?領の、場合によっては国の大事になるかもしれないのです。くれぐれも大人しく、していてくださいね」

「分かってますよ」 


 何よりも平和であることが大事であると常々考えている。

 子供の好奇心で外交問題になどになればシャレにならない。

 セクドは応接室に移動し、自称魔族の王を待つ。


「セクド様。お越しになられました」


 セクドは思わず目を見張る。

 魔族との容姿は千差万別。

 人間に限りなく近い種族もあれば、魔獣や植物寄りで人間に似ている箇所がない種族もいる。

 目に入ってきたのは後者だ。

 子供より小さい、人形サイズの魔族だった。

 腕が六本あり、植物と間違えてもおかしくない容姿をしていた。


「私はリステッド領の領主のセクドです。どうぞお掛けください」


 入ってきた魔族は三人。

 人間の洋服は着ていないが、腰と思わしき辺りに見知らぬ植物の葉のような物を纏っている。

 恐らく真ん中に座った魔族が王なのだろう。

 左右脇の魔族の葉はくすんだ色の葉だが、真ん中の魔族の葉は明るい若緑色と違うからだ。


「対話の機会感謝する」


 まるで楽器が奏でられたかのような美しく、高い軽やかな声であった。


「……美しいお声で、思わず言葉が出ませんでした。気分を害されたら謝罪します」

「不要。我らと人間、生態も文化も違うの理解している」


 セクドは記憶の扉をひたすら開ける作業をしていたが、目の前の魔族と近しい情報は何も持っていなかった。


「可能でしたら、自己紹介をお願いしても?」

「可。我々はポットゥク。人間と交流経験無し。人間が知らないのは当然」


 恐らく先の大戦も関与しない一族だったのだろう。


「なるほど、ポットゥク族の王と報告がありましたが事実で?」

「肯定。我先の儀式を経て王になった。嘘偽り無し」

「なるほど。……王であろう高貴な方が突然どうしてこちらに?」

「我、人間探している」

「理由をお聞きしても?」

「可。我、会いたいから」

「……会いたい理由は?会って何がしたいのですか?」

「我、感謝したい。それ以上は本人不在の場では発言不可」

「…………会いたい人間の特徴は?」

「髪色赤。人間、女性」

「申し訳ないのですが、人間には……人間の知識はお持ちでしょうか?」


 性別を発言しているので知っているとは思うが女性が何か知らないなんてこともあるかもしれない。


「所持。人間と交流なくとも他魔族から聞いている。肉体、男性と女性二種。子供体内に作るのが女性」

「そうです。では話を戻しますが、髪の色が赤色の人間はたくさんいます。それにうちの領で会ったからと言って、その人物がうちの領で暮らしているかは分らない。さすがにその情報だけで探すのは不可能です」


 感情があるとは思うが声から、様子から感情を窺うことは不可能だった。

 なので丁寧に、はっきりと拒否した。


「可能。我感知。この建物内に存在」

「……感謝したいと言いましたが、もう少し詳しく教えていただいても?」

「不可。本人いたら可能」

「……感知ということは、貴方達の種族は魔力や何かで人間の居場所が分るのですか?」

「肯定」


 人間と交流したことがないと言っていた魔族とアレシアの接点が一切分らない。


「貴方が言う人物は恐らく私の妻でして、初対面の相手に会わせるのは正直気が引けます」


 見た目は小さいが魔族の強さとは体の大きさで決まるものではない。

 警戒を緩めることはできない。


「我、危害加える意思無し。王として宣誓する」

「…………少しだけ相談する時間頂けますか?」

「可。突然の来訪、悪いのは我」


 その場に騎士達を残しアレシアの部屋に向かう。


「あら、お話は終わったの?」

「まだだ。どうやら君に会いたいって言ってるんだけどね」


 ポットゥク族について説明した。


「うーん。私は覚えがないのよね」


 アレシアも会ったことも聞いたこともない魔族。


「君の行為で間接的に助かったとかなら、分からない可能性はある」

「分かりました。会いましょう」

「いいのかい?」

「ええ。相手は王様なのでしょう?それに、悪い人ではないのでしょ?」

「正直分からないって所だね。でも、君に何があろうと守るから安心してくれ」

「ふふ、任せました」


 セクドとアレシアは応接室に戻る。


「すまないが、不審な行動は控えて欲しい」

「……」


 王はアレシアを凝視する。


「否」

「ん?違う?アレシアではないってことかい?」

「肯定。確かに似ているが違う。我会いたい人間体小さい」

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― 新着の感想 ―
ああ、あの時の……。死にそうだったもんねぇ。
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