第387話「密室、ねじ伏せる者と説き伏せる者……」
なら、意図的に事実と異なる噂が数多に広がれば一つ一つの情報の信憑性は下がる。
それならば、敢えて噂として広める。
ただ内容を数多にすることで、信憑性が着実に低下していく。
噂話は嘘話になり、次第に興味だけの人間の記憶からは消えていくであろう。
「王宮を騒がせた魔族については知ってんだろ?」
「リステッド領に来訪したポットゥク族ですか?」
当然知っている。
王宮から情報が共有されている。
未確認の魔族である。万が一があった場合、こちらからも戦力を投入せねばならいこともある。
共有されれたのは見た目やどういった気質なのか、人と争うような事には現段階ではならなそうなことだけである。
それらの情報はあくまでポットゥク族に全体に関するもので来訪の経緯などは知らされていない。
「どうやらポットゥク族のお偉いさんが偶然リステッドの地で命を救われたんだとよ。で、その感謝を伝えにやってきたんだとよ。律儀なもんだな」
「命……まさか」
わざわざ言うということは、そういう推察をしているということなのだろう。
「ああ。嬢ちゃんが何したかまでは聞けなかったが、関わっているから一緒に呼ばれたみてぇだな」
「待ってください」
「ん?」
「確かサラティスさんは粉砕機を魔術具にしてました。出した当初はまったく売れてなかったようですが、ショモナモルが公開され少しではありますが、売れています」
「嬢ちゃんが魔族を助けてお礼に貰った。それで魔術具拵えた。自然な流れだろ?」
「魔族は……聞いた限り明らかに人間と肉体構造が大きく異なる相手に回復魔術を使い命を救いますか……」
妄想の積み重ね。
虚像の絵が事実であったのなら。
「打ち合いはうちで上から数えた方が早い。王都勤めの有名な医者と同等かそれ以上の回復魔術の使い手。魔術や魔術具を開発するだけの想像力がある。それが儂らと異なり、経験の糧を使わずにだぜ?一体これから先経験積んでいったらどうなると思うよ」
「理解しました」
勧誘した理由と強引にでも大人気なく本部に引き入れようとしたことも。
「理解はしましたが、非難はさせていただきます。周りの反発など考えてないでしょ」
協会とて上層部の人間が皆優秀で、魔術一筋などではないのだ。
魔術という人類の叡智。それらを管理できる立場は使い方さえ変えれば己の欲くを徒に満たすことができるであろう。
目の前にいる彼は実力で全てねじ伏せてきた。今更自身の欲の為に彼と敵対する愚か者などそうそういないだろう。
だが、それが新人に変わったら。混乱するのは目に見えている。
「それは強者たる者の宿命だからな」
「はぁ……」
溜息は静かに手元の書類を染める。




