第386話「密室、部長と副部長……」
「回復魔術といっても切り傷を治す程度の、初歩も初歩のものなのです。あれだけで把握できたとは思っていませんが、実に優秀でしたよ」
「だろうな。試験は……二年前だがその時点で既に無詠唱で時間も数秒だとよ」
「……」
「そもそも、協会に所属して即魔術具登録してやがる」
「魔術具のために協会員になったと考えた方がいいですね」
「ああ。でよ、リステッドに向かう途中面白れぇ噂聞いたぜ。聖女様の噂をな」
「……どこにでもあるじゃないですか」
聖女ネイシャ没後、各地に聖女伝説や噂が溢れだした。
実は聖女ネイシャは病死しておらず、死んだことにして国内を旅し困っている人を助けているとか。
ネイシャの弟子を名乗る者も数知れない。
今となっては、回復魔術の才が見られると聖女の再来だと噂が流れたりする。
今は聞かなくなったが、没後数年間自称ネイシャの子供が各地に現れた。
だが自称子供達は現れる度にすぐさま噂は消えていった。
とある子供は賊に襲われたのか首を一太刀にされていた。
とある子供は運悪く空から誰が放ったか不明な矢が偶々突き刺さり絶命。
とある子供は道端で突如体調不良となり、倒れ込み痙攣し絶命。
それら不可思議な現象が相次いで、いつしか明確に嘘をつく輩は消えた。
「まぁな。因みにララスト領で聞いたんだが、魔獣被害で怪我した村人を救ったんだとよ」
「ありきたりですね」
「ああ。妙なのはその聖女の正体が数多にあるってことだ」
子供であったり、老婆であったり、魔族であったりと多岐に渡る。
「噂なんてそのような物でしょうに」
「でよ、それが大体二年前なんだとよ」
「二年前……」
「因みに二年前、セクド辺境伯とサラティス嬢には王命が下り、王都まで足を運んでる」
「リステッド……まさか」
セクド単身であればあの山々を通過できるだろう。
だが、五歳の娘が一緒であれば山を回避するために大回りして王都に向かうはずだ。
「因みにとある村にヴォルゲドが出たが、大した人的被害もなく駆除されたそうだぜ」
「……」
嫌でも分かる。
ヴォルゲドは厄介な魔獣である。
王都の騎士ならまだしも、地方の騎士、しかも人数も少ないであろう。
その条件で村人を守れるかというと、難しいだろう。
「セクド辺境伯が駆除し、怪我人をサラティスさんが治したと」
「聖女の噂になると思わねぇか?それに嬢ちゃんは最初の魔術具の発明から名前を隠している」
「……噂が多種多様なのは隠すことを望んだから……」
命の恩人で貴族からの命令だ。皆喜んで従うだろう。
だが状況的に隠し通すことはできないだろう。




