第361話「ヤーミー」
「ヤーミー」
「親は?」
「いない」
「家は?」
「ない」
「そうか。サラティス様どうするんだ」
「こういう時はどうするのが一般的ですか?」
「事情を説明して、騎士に引き渡しだな。ここがリステッドなら直接孤児院だな」
「ダヴァン」
「ダメだぜ。いいか?気持ちは分かる。多少世話して縁ができちまって情が湧くのは自然だ。サラティス様は貴族だ。リステッド家は領主家だ。サラティス様は孤児院の改革案を出したろ?何故、その子供たちは引き取らない?同情で手を出すべきじゃねぇぜ」
「……」
セクドの言葉を思い出す。
分かっている。
権力のある立場は身を守ってくれるが、時に身を動けなくする。まるで重い重い鎧のようなものだ。
「分かってます。同情で引き取るつもりはありません。彼女を将来料理長にしたいです。それならば可能なのでは?」
「……それを思いつくことに感心するがよ。分かってるのか?」
「はい」
「確かに有望な人物を囲うのは貴族なら誰しもやってるだろう。だが、サラティス様は未成年だ。つまり、セクド様を納得させる必要がある。そのガキにそれだけの能力があれば可能かもしれねぇ。確かに運動能力は高いかもしれねぇ。だが料理には使えねえ才だ」
「彼女が盗ったショモナモル……」
「ん?」
「美味しいのだけ盗っていきました」
「っつ。偶然だろ?偶然でなかったとしても、身体能力が高いんだ。嗅覚も鋭くて匂いで良さそうなの選んだとかだろうよ」
「試してみましょう」
「いいぜ」
「ヤーミーさん、先程ショモナモルを盗りましたがどういった基準で盗ったのですか?」
「あかいやつ」
「赤い?」
「ショモナモルは茶色だぜ。距離の都合で黒に見えたってのならまだ理解できる。だがどんなに遠くから見ても赤くはねぇ。おい、サラティス様の髪色は何色に見える?」
「あか」
「おまえさんの髪は何色に見える?」
「ぴんく」
ヤーミーの髪は少し暗いピンク色をしていた。
「目がいかれてる訳じゃなさそうだな」
「ひとまず庭片付けて、こちらでやりましょう」
庭に広げたままの皿などを全て室内に運んだ。
「このショモナモルは何色ですか?」
「これが、あか。こっちはみどり。こっちがむらさき」
「はぁ?」
ダヴァンは呆れた顔でヤーミーの目を凝視する。
嘘をついているようには見えない。
だが、どのショモナモルも見た目の色はほぼ同じであり、光の加減で多少見え方は変わったとしても、紫に見えることなどありえない。
「……ダヴァン」
「病院に連れてった方がいいかもな」
「何言ってるんですか?よく見てくださいよ」
「ん?」
サラティスはショモナモルを分ける。
「……どれも茶色……なっ」
ヤーミーの告げた色ごとに分けたショモナモルを見て、ふとダヴァンも同じ解へと辿り着く。




