第309話「沁み込む」
魔術の模擬戦闘は、お互いに魔術をぶつけあい勝敗を決するものではない。
的を三つ離れた場所に立て、その的を先に全て壊した方が勝ち。
決勝の舞台に立つのは五学年の二人。
「サラ、こっち出ればよかったんじゃない?」
「確かに、サラちゃんがたくさんの水球で的を守れば相手は的を破壊できないので、優勝できると思います」
片方の学生が水球で自分の的を覆った。
片方の学生は初め火柱で、纏わりつくその水を掻き消そうとしたが、上手くいかなかった。
『炎爆』
火柱で無理だと判断すると、より強い魔術を繰り出した。
『炎爆』
二度目の攻撃で水球がようやく、霧散し的に火が燃え移った。
歓声が上がる。
『風槍』
歓声を切り裂くかのよう、炎爆の発動直後の隙をつき、風槍が的に大きなを開けた。
これでお互いの的は残り二つ。
さすがは五学年同士の戦いである。
難易度の高い魔術の応戦である。
激戦の末、最後の一つ、あの的に纏わりついた水球を破ることができず、的を全て壊され勝敗が決まった。
大きな拍手が送られた。
やはり魔術の戦いは肉弾戦と比べ、派手である分見応えがある。
動きが理解できなくても見ることができるからもある。
そして待ちに待ったジェリドの番である。
相手は五学年。上級生であるが、順当にやればジェリドの勝ちであろう。
勝負はほぼ一瞬で決まった。
開始の合図の直ぐ後に、相手がジェリドに剣を振り下ろした。
だが、ジェリドは相手の手を狙い、結果剣が弾き飛ばされた。
手から剣は離れ、宙をくるくると舞い、地に落ちる。
沈黙。
そして、審判が勝敗を告げた。
すべての種目が終わり、校庭には簡易的な壇上が作られる。
最後に儀式が行われ、学祭は幕を閉じる。
準備が整ったのだが、なにやらざわつき始めた。
「た、ただいまから打ち下ろしの儀を始めます。ルリレッタ工房から、ルリレッタ様です」
地面が揺れるような、歓声が上がる。
壇上には簡易的な金床がセットされていた。
打ち下ろしの儀。
それは英雄であり、学園長でもあるルリレッタが学祭の最後に剣を打ち、国の未来である子供たちの努力を労い、未来での活躍を祈るという儀式。
当初は騎士達が使うような一般的な長剣であったが、儀式であり長剣である必要がないので、剣は小さくなり、今ではペーパーナイフとなっていた。
そして、ルリレッタの弟子が増え、いつしか弟子が行うようになった、
弟子ならば誰でもできる訳でなく、この大役を任されるのは認められた一人前にだけ。
つまり弟子達からすれば、一種の目標である。
ルリレッタが直接この場に出るのは実に七年ぶりである。
七年間は代理でモスタルジアが執り行っていた。
憧れの人物を見ることができた奇跡に生徒達は感動していた。
剣を打つといっても既にできあがっているナイフに一度ハンマーを振り下ろすだけである。
ルリレッタが壇上に上がると、一瞬で歓声は土に沁み込んだ。




