4章 自殺。
「いらっしゃいませー」
白い男に助けられて、僕はそのままある村に連れてこられた。
正確には、男についていったら村についた、だけど。
村について僕は男にそのまま宿に行くよう言われて、僕は宿にインしたというわけだ。
男は僕のこと知ってるらしかったが、男についていってる間、一言も喋っていない。
僕が会ったこともない全く知らない人が、僕の事を知ってるということが、僕は気に食わなかった。
だから喋らなかったというわけじゃないけど、むしろ人見知りだからというのが本当の理由だけど、とりあえず目的も何もなかったから僕は男についていくことにした。
道は一つしかないからついて行かなくても迷子になることはないと思うけど。
宿にインして、ふとあの森で出会った女の事を思い出す。
そういや、あの子無事草原からどこか町か村にたどり着けたかな。
またモンスターに遭遇してなければいいけど。
店員に自分の使用する部屋を教えてもらい、階段をのぼる。
あの草原から男についていったのだが、道が分からなかったわけではない。
まさかとは思ってはいたのだが、ゲームのオーズワールドの中に出てくるマップと僕が歩いた道のりは本当に一致した。
まさか本当にゲームの中に来たのでは...?
そんな事を思う反面、やっとベッドでゆっくり出来る!など色々考えながら手前から三つ目のドアのドアノブに手をかけ、開ける。
開けると言っても、僕が開けたのは3Cmくらい。
ドアを開けると同時に目に入ってきたのは、花瓶だった。
文字通り、目の中に花瓶の角が当たった。
「っ!?」
人間本当にビックリしたら声ってでないんだな、とこの時初めて気付いた。
「あら、私を覗きに来たの?ならもうちょっと上手くやることね。足音でバレバレよ?」
僕は涙をながしながら必死に目を手でおさえる。
失明してもおかしくない、むしろ絶対失明したと思った。
「な...なんであんたがここにいるんだよ」
手で目をおさえている反対の方の目でみると、草原で会ったあの女が着替えていた。
というか、八谷夢寿だった。
見たらもう着替え終わっていたけど。
べ、別に着替えを見たかったわけじゃないんだからねっ!
「あら、もしかしてまだ分かってないのかしら?私のことをあんたなんて言うなんて、それは私に調教してくださいと遠回しに言ってるということでいいのかしら?」
「八谷さん!」
まだ目の痛みが癒えていないのにさらに傷を増やしてたまるか。
というかこの女どんな反射神経をしているんだよ。
僕はドアを開けきる前にはもう花瓶が目の前にあった。
ということは僕がドアノブをさわったぐらいからもう投球モーションに入ってたってことじゃないか?
投球と言っても、投げたのは花瓶だけど。
「言ったでしょ?足音を消せって。カツカツと私の着替えを覗きに来る変態の足音がこの部屋にまで響いてたわよ」
「覗きに来たんじゃない。僕は店員にここが僕が使用する部屋だと教えられてこの部屋に来たんだ」
ここにこの女がいるってことは、どうやら店員が教える部屋間違えたってことらしい。
よりによってこんな地獄の門みたいなドアを開けさせるなんて、あの店員は死神だったのかな。
中にいる地獄の門番の彼女も、門みたいに平べったい胸をしているけど。
「殺すわよ」
本日2度目の殺すわよもらいました。
てか、なんで胸のこと言ったのわかったんだよ。
心を読まれたのか!
と、そこでまたカツカツと階段をのぼってくる音が聞こえる。
「やあ、お二人さん。待たせたね、と」
さっきの白い男がにこやかに笑ってこっちにやってくる。
「あら...あなたは」
「やあ、久しぶり、夢寿ちゃん。ヒーローは遅れて登場するもんだからね、と」
ん?この二人は顔見知りなのか?
口ぶりや名前を知ってることからして、ただの顔見知りってわけじゃないだろうけど。
でもこの男、僕の名前も知ってたからな。
彼女を知っててもおかしくはない。
「なぜあなたがここに?まさかあなたも死んだの?私にあの薬を飲ませた後に」
薬?
そういやあの草原でこの女言ってたな。
ある男に毒薬をもらって、それを飲んで死んだって。
てことは、実質彼女が死ぬ手助けをした人がこの白い男...ってことになるよな?多分。。
「いやいや。僕は君達と違って死ぬ勇気なんか、ミジンコ程もないよ。僕がここにいるのは、そうだね、君たちが無事この世界に来れたのかを確認しに来たってことにしようかな、と」
この世界に来れたか確認しに来た?
てことは僕や彼女をこの世界に連れてきたのはこの男だってのか?
それに、『君達』って言った...よな。
もしかして、僕も彼女同様、自殺志願の人間...ってことなのか?
僕が自殺をしたってことなのか?
「それは大丈夫だよ、友梨くん。確かに彼女は自殺志願で、君も自分で死を選んだって事は変わりないけど、別に君は自殺志願ってわけじゃないんだよ、と」
全然頭がついていかない。
僕が自ら死を選んだが、それは自殺じゃない?
自分で死を選んだらそれは自殺になるんじゃないのか?
そもそも僕達は死んだのか?
てことはここは天国?地獄?
心臓は動いているのにか?
「さっきから君の頭は?だらけじゃないか。それにあの薬を飲んだら多少前後の記憶を失うらしいね。彼女はそうでもないけど友梨くん、君は結構な量の記憶を失ってるね。なるほど。個人差があるってことかな、勉強になったよ、と」
ということは、僕も毒薬を飲んで死んだ、ということになるのかな。
そんな記憶は全くないけど。
「それより教えてちょうだい。どうして私は死んでないのかしら。あなた言ったわよね。この薬を飲んだらそんな苦しい思いをせずに、楽にあの世に行ける、て」
「そうだね、確かに言ったよ。獄中で舌を噛んで死のうとしていた君に、ね。それに僕は嘘はひとつもついていないよ。嘘をつかないのが僕だからね、と」
獄中!?
獄中って、牢獄や刑務所の中ってことだよな。
てことは...彼女は犯罪者!?
うわ、怖!
僕、犯罪者に向かって貧乳とか言っちゃったよ。
「次貧乳言ったら、あなたのその首に乗っかってるもの、なくなるわよ」
「.........」
顔や頭のことかな。
というか、口に出してないよな、僕。
独り言をペラペラと口に出すあの痛い奴なんかじゃないよな、僕。
「舌を噛んで死ぬより、あの薬を飲んでポックリ行くほうが、明らかに苦しまずにすむだろう?それに、この世界はあの世で間違っちゃいないよ、と」
「ならなぜ、ここはあの世だというのに、心臓は動いているし、痛みも疲れも感じるのよ」
「誰が死んだら痛みも疲れも感じなくなると言った?仮に誰かが言っていたとしても、それは一例にすぎない。そもそも死というものを君は分かっていないようだね。いいだろう。僕が説明しよう。ついでにこの世界についてもね、と」
僕がキョトンと廊下で倒れている間に話が進んでいく。
まだ若干顔と目が痛いんだけどね。
「でもその前に、友梨くん。君は風呂にでも入っておいで。それに二人ともお腹すいているだろう。話の続きはご飯でも食べながらどうだい。なに、時間はたっぷりあるよ。なんたって、君たちは死んでいるんだからね、と」
え、なに。
やっぱり僕って死んでるの?
でも自殺したなんて信じられないな。
僕にとって僕という人物は、他人であり、嫌いな人であるのだけれど、僕は他人を死んでほしいとはよく思うけれど、殺したいとは一回も思ったことがない。
ましてや殺すなんて。
僕にとって僕は他人なんだ。
僕が僕を殺すなんて考えられないけど。
「それじゃ、お言葉に甘えようかな」
「あ、ちなみにこの部屋3人共有だからね、と」
なぜそれを言わないんだ。
別にあの店員が間違えた部屋を教えたわけじゃなかったんだ。
なら僕の目はどうしてくれるんだ。
何も悪いことなんかしてないのに失明しかけたぞ!
「そうね、食事をしながらゆっくりと教えてもらうことにしましょう。早く風呂に入ってきなさい。10秒であがってくるのよ」
またこの方は無茶をおっしゃる。
10秒で何ができるってんだ。
服を脱いでお湯をだしたらもうあがらなきゃいけないじゃないか。
「ハハハ。君たちは仲が良いんだね。ということはもうあの事件のことも友梨くんは思い出したってことなのかな、と」
ん?あの事件?
「誰がこんな奴と仲いいのよ。虫唾が走るわ。それに、あの事件ってなんのことかしら」
「あれ、あの事件がきっかけで仲良くなったんじゃないのかい?それはうっかり口を滑らしちゃったね。悪い、忘れてくれ、と」
まあいい。
記憶を失ってるとはいえ、今の僕はこの男は知らないし、勿論この女も知らない。
ゆっくり風呂にでもつかってくるよ。
お湯が溜まってなくてもシャワーで体を洗ってるあいだにたまるだろう。
そういえば、意識してなかったけど、結構汚れてるな、僕。
地面を回避で転がったりしてたから当然っちゃ当然なんだけど。
シャワーがあると思われるドアを開け、入る。
「あの事件ってもしかして、あのストーカー野郎のことかしら」
「おや、一発でその事件に結びつくってことは、あらかじめ予想はしてたんじゃないかい?友梨くんが君の恩人だってことを、と」
「...首にある傷を見てもしかして...と思ってただけよ。偶然って自分に言い聞かせてたけど。だってそんなドラマみたいなことって信じないでしょ。名前も知らない、顔もうろ覚えの恩人に、こんな世界でまた会うなんて」
「そうか。だから友梨くんに対してあんなドSみたいな態度だったのか。いわゆる照れ隠しってわけだね。全く、可愛いところがあるんだから、と」
「茶化さないでくれるかしら。それに本当に三谷くんがあの事件で私を助けてくれた人なの?」
「そうだよ。多分本人は記憶を失ってるせいで忘れてると思うけどね。もう、これは、運命の出会いってやつじゃないかい?いや、運命の再会かな、と」
お風呂場にお湯は溜まっていた。
なので僕は10秒と言われたけれども、それは無視して10分から15分で僕はお風呂をあがった。
使ってる最中目を閉じたら一瞬眠りそうになったけれども、どうにか眠らずに済んだ。
そして風呂場のドアを開け、部屋に戻る。
そこにはすでに食事の準備が整えられて、ご馳走がいっぱいあった。
僕は毎日インスタントしか食べていなかったため、こんあ食事を目の前にしてはよだれが垂れる。
「さあ友梨くん、君も席についてくれ。ではまず最初に、いただきます、と」
僕も軽く手を合わせて、食事を始める。
いただきますと、口では言わないけど、心では言った。
彼女も僕と同じように軽く手を合わせて食べ始めた。
ご馳走は、見た目通り、とても美味しい物だった。




