5章 オーズとオーズワールド
「食べながらでいいから聞いてくれ。僕は同じことを繰り返すことは嫌いだからしっかり聞いてくれ。まず君たちが今いる世界だ。二人とも気づいているだろうけど、ここはオンラオインゲーム『オーズワールド』と全く同じと言っていいほどよく似ている。正確にはオンラインゲームじゃないんだけどね。まあでもそうだ。オーズワールドはこの世界をモデルに作られたゲームなんだからね。いや、僕が言うと、『作った』になるのかな。そうだよ。僕がオーズワールドを作ったんだ。まあ僕だけの力じゃないけどね。誰と作ったって?君だよ、友梨くん。いや、僕が作って君はその手助けをした、というところかな。まあでも、オンラオンゲームと言っても、このゲームのプレイヤーは全国でも100人くらいしかいない。オンラインゲームとは呼べないかもね。ん?夢寿ちゃんはプレイヤーだよ。オーズワールドのね。しかも結構上級者だよ。友梨くんと同じでね。友梨くんにそのことを隠していたのは、ゲーマーだというのを知られたくなかったんじゃないかな、多分。友梨くんは記憶が曖昧になってると思うけど、君はこのゲームを一番初めにプレイした人だよ?それより、話は変わるけれど、日本から真下に穴を掘っていったらどこにたどり着くと思う?ブラジルじゃないよ?まったく、相変わらず友梨くんは考えが幼稚なんだから。まあ地球の真ん中らへんはマグマでうじゃうじゃしてるんだろうけどね。でもね、そのマグマの一歩手前に、ほんの小さな穴があるんだ。ねずみが入れるかぐらいの大きさの、ね。その穴を発見したのが友梨くんだ。全く、どうやったらあんな穴を発見できるんだろうね、教えて欲しいよ。君は記憶を失ってるだろうから全くわからないだろけどね。そしてその穴の中が気になってボクと友梨くんは観察していた。そして、友梨くんは気付いた。この穴の中は別の世界に続いているんだってね。それがこの世界、『オーズ』というわけだ」
食事中だというのに、白い男は全く食べない。
テーブルに添えられているナイフとフォークを触ろうともしない。
まあ僕も彼の言っていることを半信半疑で聞いているわけだけど。
というか僕はこのゲームの創作に関わっていたのか。
なんというか、そんな記憶は全然ないから、やっぱり半信半疑になってしまう。
大体、今の話を聞いていたら僕の趣味は穴掘りみたいになっちゃうじゃないか。
僕はそんな変な趣味は持っていない。
「つまり...私や彼がやっていたゲームは、この世界のレプリカだったということかしら」
「んー、厳密に言うとね、僕はオンラインゲームなんか作っちゃいないんだよ。オーズワールドはオンラインゲームじゃない。さっき言ったとおりだよ。僕が作ったのは、この『オーズ』に送る機械を作り、それを配信したにすぎない。つまり、君たちは今までこの世界に、仮の姿、ゲームのキャラで来ていたというわけだ、と」
「...つまり、私たちはゲームと思い込んでいた世界は、実は本物でした、ということでいいのかしら?」
「んーそうだね、そう思ってくれてもいいよ。もっと細かく説明するとまた違ってくるんだけどね。それは友梨くんの記憶が戻って、そして彼から直接聞くのが一番いいと思うよ、と」
よくわからないな、この男の話は。
「それと、大事な話。僕は彼女の『オーズワールド』でのプレイ時に使用していたキャラのデータを、そのまま今の彼女にうつしかえてやることができるけど、どうだい、と」
ん、やっぱり分からない。
もっと詳しく話してほしいな。
「つまり、どういうことなの?」
どうやら彼女もそうだったみたいだ。
「一度で分かんないかねー全く。つまり、前の強いキャラを引き継がせてやろうか、てことだよ、と」
ああ、なるほど。
オーズワールドで来ていたのは、実はこの世界だったんだな。
前はゲームのキャラで来ていて、今は生身の僕たちで来ている。
だから、ゲームのキャラの能力を今の僕たちに引き継がせよう、という話か。
もしそれができるのだとしたら、かなり強くなるんじゃないかな。
今の僕達はおそらくLv1の初心者だ。
でも話を聞く限り、僕にはそこまでの記憶がないけど、僕も彼女も結構な上級者らしいし。
それに、僕はオーズワールドを一番最初にプレイした人らしいし、かなりやり込んでいるに違いない。
創作にも関わっているとか言っていたしな。
「...そんな事ができるのかしら?」
確かに。
言われてみれば、ゲームの設定を生身の僕たちに取り込むってことだからな。
普通に考えれば出来るはずがない。
「できるよ。ただし、リスクはあるけどね、と」
リスク、か。
どんなリスクなんだろうか。
「あ、ちなみに友梨くんはできないよ。流石に、君ほどのデータを読み込むには今の機械じゃ無理だからね。もう少し待ってくれないと発明のしようがないよ、と」
僕ってそんなに凄いデータを持っていたのか。
それは勿体無い、早く記憶を取り戻さないと。
そういえば、僕の記憶ってどうやったらもどるのかな。
時間が経てば戻っていくのかな。
「いいわ。どんなリスクだろと、私はうける。たとえ死ぬかもしれないと言われてもね」
うわー男らしい。
胸を張っていいと思う。
男みたいに平らな胸だけれど。
「目をつぶって歯を食いしばってちょうだい。いくわよ?えいっ」
思いっきり金的を蹴り上げられたせいで、涙が止まらない。
というか、目をつぶるのと歯を食いしばるのいらないじゃないか!
フェイントか!
本当に、男のここは言葉では言い表せないほど痛いんだから、冗談半分でそんなことやってはいけない。
何が『えいっ』だよ。可愛く言いやがって。言葉と行動が合ってないんだよ!
「はは、本当に仲良しなんだね、君たちは。良かった。これならもし夢寿ちゃんに何か起こっても、友梨くんがサポートしながらいけるね。僕もどんなリスクかは分からないからね。とりあえず、君たちは食事を終えたら休むといい。その間に僕は現実世界に戻ってデータを取り込んでみるとするよ。それじゃね、と」
そう言って、彼は席を立つ。
結局ナイフとフォークには触れず、料理には全く手をつけなかったな。
そういえば、まだ僕がこの世界に来た理由を聞いていなかったな。
「待ってくれ。僕がこの世界に連れてこられた理由はなんだ?」
ピタッと足を止めて、振り返って、やれやれと言わんばかりのポーズで彼は言う。
「連れてきたんじゃないよ。君が自ら来たんだよ。僕と君はね、生身の体をこの世界に送る方法は分かったんだけど、生身の体を現実世界に送る方法が分からなかったからね。君は自分の体を張って、その方法を探すため、この世界に来た、ってわけさ、と」
そうだったのか。
僕はそこまでの大馬鹿だったのか。
そんな無茶をしてまで僕はこのゲームをしたかったということかな。
白い男はそう告げてスタスタと去っていく。
僕と彼女も黙々と食べ物を食べて、そのまま何も喋ることなくベッドに倒れこむように入る。
ちなみに言うと、ベッドは隣同士だったりする。
僕はドキドキが隠せなかったけど、なんとかバレないようになるべく彼女の方を向かないようにしていた。
彼女から寝息が聞こえてくるのを確認して、僕もゆっくりと目を閉じた。
このあと、彼女の身に何が起こるとも知らずに、スヤスヤと僕は寝てしまった。




