9話 兄と弟
今日は珍しくコムギはマスターに休みをもらって出かけて行った。
お店には俺とマスターとネロだけ……
コムギがいないと静かだな。
カランッ
ドアベルが鳴りお客さんが入って来た。
「「「いらっしゃいませ」」」
「やあ、こんにちは」
入ってきたのは、マスターによく似たグレーの猫で名前はロイさん、マスターの弟さんらしい。
初めて聞いた時は、マスターに兄弟がいたなんてちょっとビックリした。
マスターよりもちょっと陽気な感じなんだけど、よく見ると、何処となく雰囲気とかやっぱりマスターに似てる。
「あ、いつものコーヒーね!」
「ロイ……今日は何しに来たんだい」
マスターはコーヒーを淹れながら、ちょっと嫌そうにロイさんに尋ねる。
マスターがこんな顔をするのも、ロイさんの前だけだから珍しいんだよね。
「そんな顔しなくても、ちょっとコーヒー飲みに来ただけじゃないか。お客さんだよ?」
「君からお代を頂いたことはないけど?」
「あ〜それはアレだよ!うん!あっ!今日はコムギちゃんはいないんだね!」
思いっきり話を逸らした……
マスターは溜息を吐いて、やれやれといった感じで、もう、ロイさんからコーヒー代をもらう事を諦めているのかも知れない。
「ロイさんってマスターと全然違うよね」
「うん、マスターがマスターのままで良かったって思う……」
ネロと、こそこそとロイさんについて話し合う。
もしマスターがロイさんみたいな性格だったらって考えて、ちょと微妙な気持ちになった。
ネロも同じ想像をしたみたいだ。二人で顔を見合わせて、頷きあった。
「ところでロイ、何か用があったんじゃないのかい?」
「あ、わかる?」
「君は、用がある時しか来ないでしょう」
「あはは、そうかな」
「で、要件は?」
「近々お祭りがあるのは知ってるよね?」
「もちろん」
「え、お祭りがあるんだ?」
「ツカサは知らないか、いつもこの時期にお祭りがあるんだよ」
「どんなお祭りなの?」
「うんとね、出店が出たり、踊ったりするよ」
「あの小さな公園の側に神社があってね、そこのお祭りだよ」
ネロとの会話が聞こえていたのだろうマスターが付け加えてくれた。
「神社……やっぱり神様も猫なの?」
「うん、そうだよ?見た事ないけど……」
「え、こっちの神様は見えるの?」
「み、見えないよ!」
「なんだ、見えるのかと思っちゃった」
猫の神様……もし見えたら、ちょっと可愛いかもしれない。
お賽銭は、マタタビとかだろうか……
「ツカサも一緒に行こうよ」
「俺も参加して良いの?」
「勿論だよ」
「うんうん、お祭り楽しみだよね!」
そんな会話をネロとしていると、ロイさんがこっちに話しかけてくる。
「さっきの要件なんだけど、お祭りの準備を手伝ってくれないかい?」
「え?お祭りの準備を?」
「こっちのお店があるから無理ですよ?」
俺とネロがそう言うと、マスターも何を言っているんだ?と言う顔をしてロイさんを見ている。
「何も丸一日手伝うわけじゃないよ。1日3時間くらいで良いんだ。兄さん良いだろう?」
「はあ、全く君は……ネロとツカサはどうしたい?断ってもいいよ」
「え、そんな!二人とも良いよね?」
「僕はマスターが良いなら」
「俺も……」
「二人がそう言うのなら……ロイ!二人にタダ働きをさせるのはダメだからね」
「それは勿論分かっているよ!屋台の商品と交換できる引換券を用意しておくから!」
「二人とも、無理なことは断って良いですからね」
「「はい」」
「じゃあ明日から頼むよ!」
「「明日から!?」」
俺達が驚いてる間に、ロイさんはさっさとお店を出て行った。
あ……またコーヒー代払って行ってない……
マスターを見ると、ため息をついていた。
「お祭りの手伝い、コムギはどうするのかな?」
「今日帰って来たら聞いてみようか」
「そうだね。でも手伝うって言いそうだよね」
「うん」
夜になって、コムギに聞いてみると、やっぱり手伝うって言ってきた。
でも3人一緒に抜けるとお店がマスターだけになっちゃうから、日替わりで2人ずつ行くことにした。
お祭りの手伝いは初めてで、しかも猫のお祭りなんて実は少しわくわくしてる。
明日が少し楽しみだ。




