8話 想いの声
今日はこっちに来て初めて雨が降っている。しとしと降る雨粒が店の窓を濡らしていく。
雨が降ってるからか、今日はお客さんも少ないようだ。
「こっちの世界も雨って降るんだね」
「当たり前じゃない」
「なんかずっと良い天気なのかと思ってた」
「ツカサがいた所は雨は多いの?」
「うーん、季節によるかなぁ……。六月とか梅雨の時期はよく降るよ」
「じゃあここと変わらないわね」
「そうなんだ」
そんな事を話していると、マスターが声を上げた。
「ああ、しまったな…」
「マスターどうしたの?」
「うん、卵を切らしてしまったよ」
「え、珍しいわね、マスターが補充を忘れるなんて」
「うーん、どうしようか……」
「俺でよければ買いに行きましょうか?」
「……お願いしても良いかな?」
「はい、大丈夫です。他にも何か入りますか?」
「そうだね、ミルクもお願いするよ」
「分かりました」
俺がお店の傘を借りて出ようとすると、マスターが後ろから声をかけてくる。
「ああ!それと、何か聞こえても知らないふりして真っ直ぐ帰って来るんだよ」
「?はい」
マスターが言ったことはよく分からないけど、とりあえず早く帰ってこいっだろう……
そう思って店を出た。
傘をさして歩いているが、ほとんど誰とも会わない。
「猫って水が嫌いって聞くけど、雨の日は濡れるのが嫌だからあまり出歩かないのかな?」
そんな事を考えながら、歩く。雨のせいか誰もいないせいか、今日はいつもと町の様子がいつもと違って見える……
暫く歩いて、小さな公園のそばを通った時、何か聞こえた気がした……
辺りを見回したけど誰もいなくて、気のせいかと思ってそのままお店まで行って、頼まれた卵とミルクを買う。
店を出て、もと来た道を歩いていると、さっきと同じ公園でまた何か聞こえて辺りを見回すと公園の橋の方に何か見えた気がした……
「え、なんなんだ?」
そう言えばマスターが、何か聞こえても知らないフリして帰って来いって……
ちょっと怖くなって、急足で店まで帰った。
店に着いて、卵とミルクをマスターに渡しながら、さっきの声の事を聞いてみることにした。
「マスター、さっき公園の側を通ったら、なんか声?が聞こえたんです……アレって見せを出る時に言ってた事と関係があるんですか?」
「……」
「あー、ツカサあの声聞いちゃったんだ」
話が聞こえたコムギが横から話しかけて来る。
「ツカサにも言っておいた方が良いんじゃない?」
「そうですね……お客さんもいませんし、少し早いですが休憩にして、ツカサには説明しましょう」
コムギが休憩中の札を表にかけに行くのを見てから、マスターが話し始めた。
「ツカサが聞いたのは、想いの声です」
「想いの声?」
「この世界には、時折り誰かの強すぎる想いが渦となって現れるんです」
「想いの渦……声が聞こえるだけなんですか?」
「大体はそうなんですが、強すぎる想いは時折り周りにいる者を呑み込むんです」
「え……それって危ないんじゃ」
「ええ、だから声が聞こえたら近寄ってはいけないんです」
「どうにも出来ないんですか?」
「出来なくはないんです、想いを浄化してあげれば消えて、呑み込まれた者も助かりますが、そう簡単にはいきません」
「そうですよね」
「想いの種類も様々で、愛、憎しみ、悲しみ、それぞれですからね。だからツカサも出来るだけ声が聞こえたらそこから離れて下さいね……ちなみに、想いの渦が出るのは雨の日が多いんです」
「……わかりました」
マスターから話しを聞いたあとは、いつも通りにお店を開けたけど、やっぱり今日はほとんどお客さんは来なかった。
多分、その想いの渦が関係あったんだろう……
夜に自分の部屋で、今日聞いた想いの声の事を考える。
今日聞いた声は悲しそうだった。
誰かの強い想い、それって俺の世界の人の想いとかもあるのかな……
次の日はよく晴れていて、昨日の事が無かったように、町を歩く人も元に戻り、お客さんもいつも通りに戻った。
お昼前にコムギが服屋さんから服の直しが終わったと連絡があった事を教えてもらい、買い出しついでに、俺とコムギで、出かける事にした。
服屋に着いて、直してもらった服を受け取っていると、コムギが何やら小物を見ていたので、横から覗くと、可愛い薄桃色の花の髪飾りだった。
「コムギ、これ欲しいの?」
「うん、可愛いなって」
俺はそれを手に取ってそのままレジに向かった。
「すみません、コレ下さい」
「え、ちょっとツカサ」
「コムギにはこっちに来て凄くお世話になったからプレゼントしたいんだ。マスターからこの間少しお給料も貰ったし、ダメかな?」
そう言いながら、花の髪飾りを差し出した。
「だっ、ダメじゃないわよ!本当に良いの?」
「うん」
「ありがとう!大事にするわね!」
コムギは髪飾りを受け取ると、さっそく頭につけて見せた。
「似合ってるよ」
「///」
喜んでくれて良かった。
服屋を出て、買い物を済ませた俺達が店に帰ると、コムギの髪飾りに気づいたマスターとネロがそれぞれ声をかけて来た。
「おや、コムギ可愛いですね」
「コムギそれどうしたの?」
「ツカサからのプレゼントよ!」
自慢げに見せびらかすコムギにマスターな微笑ましそうな顔をして、ネロは尻尾を膨らませて
「え!なんで!ツカサからプレゼント?!……僕だって……プレゼント……ないのに……」
なんか一人で騒いでいた。
コムギ全然ネロの事、気づいて無かったな……
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