7話 遠い日の迷い人
お店の手伝いもだいぶ慣れて来た……
俺は、お客さんが店内にいなくなった隙に、さっき吹いた風で、お店の前に落ちた枯葉を箒で掃きに店の外へ出ていた。
ふと、お店の看板が目に入る。
「そう言えば、お店の名前『月の滴』ってどういう意味だろう……」
俺は店の中に入ると、そのままマスターに聞いてみた。
「マスター」
「どうしたんだい?」
「ここのお店の『月の滴』ってどんな意味があるんですか?」
「あら?そう言えば私も聞いた事ないかも」
「僕も……」
「おや?コムギとネロには話してなかったかな?」
「聞いてなーい」
「……」コクリ
「そうだね……珈琲の淹れ方はいろんな方法があるのは知っているかな?」
「マスターはいつも色々入れ方変えてるよね?」
「うん、珈琲豆の種類やお客様によって入れ方を変えているよ。その入れ方に、普段は時間がかかるのでお店ではやっていないけど、一滴ずつ何時間もかけて落として入れやり方があるんだよ」
「え、何時間も!?」
「私だったら待てないかも」
「僕はね、それが好きなんだ。初めてそれを見たのが月の夜で、月の光が反射していて、まるで月から滴が落ちて来たように感じてね……それ以来そんな珈琲を誰かに味わって貰いたくて始めたお店なんだ」
「俺も飲んでみたい……」
マスターがにっこりと目を細めてこっちをみた時、
カランッ
お店のドアベルが鳴りお客さんがやって来た。
「「「いらっしゃいませ」」」
いつか、俺も月の滴のような珈琲を飲んでみたいな……
そんな日々を過ごしているとこの間の図書館員さんから電話があった。
「ご家族の方が、あまり詳しくないけど、それでも良ければお会いしますって」
「是非お願いします」
「じゃあ、住所を教えるわね……」
「ありがとうございました」
俺はコムギとネロにさっき聞いたことを伝えて、一緒に行くか聞いてみた。
「私はもちろん一緒に行くわ!」
「僕も行って良い?」
「うん」
1人で行くのは正直、心細かった。
約束の日になり、俺とコムギとネロで教えてもらった住所へ行くと、一軒の家にたどり着いた。
外観はちょっと田舎のお爺さんの家みたいな感じで、チャイムを鳴らすと奥から返事が聞こえた。
「はーい」
ガラガラとドアが開いて中から、白黒模様の猫が現れた。
「こんにちは、今日約束していた神谷です」
「ああ、君かまずは上がりなよ」
「「「おじゃまします」」」
どうやら、図書館員さんが言っていた家族というのは、この白黒模様の猫で若い男性のようだ。
彼に案内された部屋は畳が敷いてあった。
「ここで座って待ってて」
俺は、どこか少し懐かしい感じがする部屋を見渡すと、棚の上に写真があるのを見つけた。
よく見ると、さっきの彼によく似た猫と人間の男性が一緒に写っている。
「これ……」
「あ!これ、あの本の作者とその友達って人じゃない?」
「そうだよ、君達が読んだ本に出て来たのはその写真の人だよ」
後ろから声が聞こえたので振り向くと、彼がお茶を運んで来たところだった。
「勝手に見てごめんなさい」
「いや、良いんだよ。それで本に書かれていたとこについてだったかな。ああその前に、自己紹介がまだだったね、俺はギン。君達が読んだ本は俺の爺ちゃんだよ」
「お爺さん……」
「だから迷い人を直接知ってるわけじゃなくて、爺ちゃんから、思い出話しとして聞かされたくらいかな」
「それでも……それでもかまいません。聞かせて下さい」
「じゃあちょっと長くなるけど、覚えてる限り、聞いた通りになるべく話すね」
ギンさんは写真をテーブルに置いてから、話し始めた。
それは、ギンさんのお爺さん。名前はゲンさんがまだ若い頃の話だった……
夏の夕暮れ時。
ちょうど買い物からの帰り道に、バス停を通り過ぎるようとした時、一人の男性がぼうっと立っていたのを横目で見て、通り過ぎようとしたときに、
「ここ……どこだ?俺は……確か家に……ハルは?」
「!」
男の声が聞こえて、やってきたばかりの迷い人だって思って声をかけてみたのが始まりだったらしい。それで、家に連れ帰って、話を聞いて一緒にくらすことになったんだって。
「ハル」って聞こえたのも連れ帰った理由でね、爺さんの嫁。俺の祖母ちゃんの名前がハルなんだけどさ、同じ名前で気になったらしい。
2年くらいかな、一緒に暮らしたらしいよ。
で、別れる数か月前からその人が、物思いにふけることがあったらしくて、気になってはいたけど聞かなかったって。
それである日その人が、
「時間が来たからもうそろそろ、帰るよ。今までありがとう」
って言って家を出ていって。その後はもう帰ってこなかったって言ってたよ。
その人がなんで帰るって言ったのかは分からなかったって……
でも、祖母ちゃんを見る目が、自分の子供を見てるようでとっても優しかったって、爺ちゃん言ってた。
「その人の名前って分かりますか?」
「確か、爺ちゃんは『タカオ』って言ってたかな?」
「タカオ……」
「知ってる名前?」
「ううん、知らない」
「役に立ったか分からないけど、君も帰れるといいね」
「……はい。ギンさん、今日はお話ししてくださり、ありがとうございました」
「うん、何か聞きたいことがあったらまたおいでよ。俺も何か思い出したら、連絡してあげる」
俺達はギンさんにお礼を言って、家を出た。
「今日は二人とも付いて来てくれてありがとう」
「あまり詳しくは分からなかったね」
「ツカサは何か気づいた?」
「うーん、最後にタカオさんは時間が来たって帰ったって言ってたから、そこは何かヒントになるんじゃないかと思うんだ」
「時間……何の時間だろうね」
「分からない……もっと話を集めてみたら分かるかも」
「他にもきっと知ってる人がいるはずよ!頑張って探しましょう!」
「そうだね」
俺達は店に帰ることにした。
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